薄金髪の青年
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【登場人物】
▼採掘場
[ルト・ウォール]
19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。
[サヨ・キヌガサ]
19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。
ルトの良き理解者。
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【お知らせ】
さて、連載がまた始まるぜい。
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「ルト。そろそろいこうか」
「うん」
30分のお祈りを終えると、私たちは鉱山に向かう。
この星の王は希少性の高い鉱石が取れる炭鉱を発見した。
隕鉱石という鉱石で、銀河でも最硬度を誇るものだ。
非常に高価で取引されるため、星の大部分の産業を採鉱に当てた。
しかし鉱山には殷獣が出る。
そのため“神への祈り”を出して殷獣の気を引く。
不思議なことに週に1回、一人を“神への祈り”に出すと、全ての殷獣が襲ってこなくなる。
原理はわからないけど、私たちはこの習性を利用した。
私が鉱山で働き始めてから10年近く。
単純計算でも500人以上の人が命を差し出している。
午前9時。
鉱山の麓では毎朝朝礼が行われる。
そして毎週日曜日には“祝福の会”というものがある。
週初めである日曜日に、その週の“神への祈り”となる者が発表され、皆から祝福を受ける。
その祝福の儀を取り仕切るのは、国際教団教祖、胤減様の弟子である神徒様という方だ。
「今週の“神への祈り”に選ばれたのは、第28区在住のハウラ・ロランさんです」
「彼女は若くして旦那様に先立たれましたが、2人の息子さんたちを元気すぎるほどに育て上げました」
「常に問題意識をもって行動し、不正を許さぬその心は皆にも大きく影響を与えたことでしょう」
「彼女はこの星に生まれ…生まれた時から親は無く…」
日曜日の朝礼では“神への祈り”の人物像を簡単に伝えた後、半生を紹介する習慣となっている。
今回の“神への祈り”であるハウラ・ロランさんのことは知っている。何度か休憩中に話したことがある。
息子さんは私よりも一回りくらい年上で、2人ともこの殷獣問題を解決するため役人となった。
そんな彼らを育てたロランさんは勤務中も常に周りに気を遣い、皆からも信頼を得ていた。
しかし彼女の息子2人とも殷獣の調査中に襲われて亡くなった。
それからロランさんは抜け殻のようになってしまった。
ここ最近の話だ。
“神への祈り”に選ばれたことが追い討ちだと言うと、国際教団に糾弾されるだろうけど、タイミングは最悪だった。
“神への祈り”となってロランさんと会えなくなるのは寂しいが、それも仕方がないことだ…私にはどうにもできない。
人徳の高い人から選ばれていく。神への捧げ物となるらしいのだからそれも納得せざるを得ない。
つい数年前まで私は選ばれることについて“不憫だ”という感情しか抱かなかった。
しかし今はそうではない。
私は明日で20歳になる。それはつまり神への捧げ物として選ばれるようになるということだ。
もしかすると来週の捧げ物として私が……恐怖を感じずにはいられなかった。
「では、ハウラ・ロランさんの命を無駄にすることのないよう、今週もしっかりと採掘に励みましょう」
朝礼が終わると、私達は戦車のような鉱石運搬用の特殊車両へと乗り込む。
ぼろぼろの作業着を着た私達は所狭しと肩を並べ、デコボコの山道に揺られながら採掘ポイントへと向かう。
約1時間かけて向かう道中。私達はなるべく考え事をするようにしている。
キャタピラーの動く音。小さな石を踏みつける音。鳥の鳴き声。
あの音には意識がいかないように……
たまに聞こえる悲鳴。
“神への祈り”として命を捧げた者の痛々しい悲鳴。
何が行われているのか。あれだけ離れた場所でも聞こえるほどの叫び声だ。
考えたくもない。
「ルト? 大丈夫?」
私に声を掛けたのは同じ採掘場で働く同い年のサヨだ。
同じグループでいつも一緒に行動している。
「ちょっと昨日の疲れが残ってて…」
「昨日は隕鉱石すごい採れたもんね! これなら私達は選ばれないかもよ!」
「サヨ……! そういうこと言わないで…!」
私はすぐさまサヨを注意した。
“神への祈り”に選ばれる要因。
徳の高さや志願制だなんて言われているけれど、実際は採鉱低調者や体制への反対派が選ばれているのではないか、という噂もあった。
こんな噂をしていること自体が目をつけられる理由になるかもしれない。
「ごめん……」
「でも、このまま頑張ろう…! 今の調子なら来月にはランクが上がるから、都市部に移動できるよ!」
「そうだね……やっと……やっとだ…!」
私達にはランクがある。
採鉱結果によって成績が付与され、ある一定まで達すれば都市部に移り住むことができる。
私もサヨも今まで着実に成績を上げてきた。
毎日鉱石を掘り、祈り、配給を受け、細々と生きてきたのだ。
都会部に移れば国際教団の団員になることもできるかもしれない。
そうすれば一気に生活水準が上がる。
銀河に出る夢も叶うかもしれない。
あと少し…あと少しの辛抱だ。
採鉱は基本的に2人1組。
私はサヨとペアで30分交代で、掘削と運搬をしている。
サヨの遺伝子能力は感知。
遺伝子能力が使えればもっと簡単に隕鉱石を採掘できるのだが、そうはいかない。
私達には安全のため遺伝子能力を封じるブレスレットの着用が義務付けられている。
毎日毎日岩に向かってツルハシを振り下ろす。
教団幹部の女性たちとは違って太い腕。多分世の同い年の人たちと比べるとかなり筋肉質なんだろうなと思う。
そういうことを考えると、他の星の人たちはどんな人たちで、どんな生活をしているんだろうって思いを巡らせる。
銀河には木々に囲まれた星、医学に特化した星、サムライなんていう戦闘狂の武装集団がいる星、娯楽に溢れた星…
そんな魅力に溢れた星々があるらしい。
いつか銀河を回って見たことのない景色を見てみたい。
サムライとかいう人たちの星には行きたくないけど…
そんなことを考えながら、サヨの掘った鉱石を運搬用のコンテナに詰めていく。
運搬用の荷台車をコンテナの横に止めようとした時だった。
私は考え事をしていたせいか、気が抜けて荷台車を倒してしまった。
「ルト!? 大丈夫!?」
鉱石が転げ落ちる音が響いたからか、洞窟奥で採掘していたサヨが声を上げる。
「うん、大丈夫! ちょっと下に鉱石落としたから拾ってくるね」
「気をつけてーー!」
運良く鉱石は数2メートル程の小さな崖下で止まっていた。
通り道なら帰りに拾って帰れるけど、贅沢は言えない。遥か下まで転がり落ちなかっただけでも御の字だ。
あそこからなら一つずつ投げればいい。
私はジャンプして下へと降りた。
2メートルとは言え、足にジーンとくる。
私は鉱石を一つ拾い上げ、上へと投げるため振り返った。
壁に……人が張り付いてこちらを見ている……
明らかに不審者だ。
「あっ、やべっ、見つかった」
私と目があったのは薄い金髪の青年。
明るい雰囲気が滲み出ている。私が苦手なタイプだ。
「見逃してくれねぇかな? ははっ…」
この青年は多分、困難な状況を笑って乗り切るタイプだ。
「見逃すって何をですか?」
「ここに俺がいたこと…」
「誰かに告げ口されると困るんですか?」
「ええっと…」
あたふたする青年。
何者なんだろうか。
「私、鉱石を拾いに来ただけなんで、別に言いませんよ。面倒ごとに巻き込まれるのも嫌ですし」
その言葉を聞いた彼は、お手本のように胸を撫で下ろしている。
違法採掘者?
にしては工具を一つも持っていないし、鉱石には目もくれていない感じだ。
とにかく鉱石を上に上げないと。
「よいっしょっと…!」
「なるほど! それを投げて上にあげるのか! 手伝うぜ! 見逃してくれるみたいだしな!」
「どうも」
見たところ労働者じゃなさそう。
綺麗な格好だし都市部の人?
まぁ恩を売っておいて損はないでしょう。
「よっしゃこれで最後だな!」
彼はそう言って軽々と片手で放り投げた。
一体何者?
一つ数キロはある鉱石。私たちは慣れているし、筋力もあるから何とかこの高さなら投げれるけど、この人はなぜこうも軽々と…
「じゃっ! てことで!」
彼は眩い笑顔を私に向けると、一瞬白い光を放って姿を消した。
「本当に何者…?」
To be continued.....
【EXTRA STORY】
「サヨ、さっきすごいもの見たんだけど」
「なに?」
「私と同い年くらいの男の人が、鉱石を片手で2メートル上の崖に軽々と投げた」
「すごっ! どこの採掘場の人?」
「多分労働者じゃないのよね。都市部の人? かな」
「都市部ってやっぱすごいんだねぇ」
「しかもその後、ピカって光って一瞬で消えたの」
「ルト…今日はすぐ休もうね。疲れてるんだよ…」
「違うって!」
To be continued to next EXTRA STORY.....?