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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 後編 神に仇なす者たち
16/83

水王涙流華

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【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 ▼国際教団

 [胤減(インゲン)

  ソラル教を信仰する国際教団の教祖。


 [神儡(シンライ)

  胤減(インゲン)の弟子。


 [神途(シント)

  胤減(インゲン)の弟子。鉱山での労働を仕切っている。

  殷獣を放って自分が討伐するという自作自演でこの星の英雄になろうと画策する。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。ルトと共に過ごしていたが、実は国際教団の高位幹部だった。


 [ジュイス・ブランドー]

 低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。

 女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。


 [モウラ・ムケシュ]

  背が高く恰幅の良い国際教団の高官。自信家で豪快な性格。


 ▼四帝直轄惑星間遊撃捜査隊

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 薄金髪の青年。ルトを度々助ける謎の青年。

 明るい性格。電撃を操る。


 [バリス・スピア]

 紫髪で天を衝くようなツンツン頭。

 元医者で毒の遺伝子能力を持つ。


 [水王 涙流華]

 没落した名家、水王家の次期当主となる女性の侍。

 青い髪色でポニーテールにしている。性格はキツめ。

 水の遺伝子能力者。


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【お知らせ】

 眠たす。


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挿絵(By みてみん)



AGIS(エイジス)追憶幻影(ついおくげんえい)


 外観上、小夜に特段変化はなかった。


 涙流華は小夜の能力を分身か幻かのどちらかと推測していたが、小夜のAGIS(エイジス)名を聞いてその能力を判断した。


「幻影……そうか、お前の能力は幻影だったか」

 

 AGIS(エイジス)はその者のルーツによって宣言名が変わる。

 小夜のルーツはニホン族。そのためニホン語の宣言名となる。共通語以外での宣言名は戦闘においては基本的に有利に働く。


 例えば“ 荊の領域(ドーンズ・ドメイン)”であれば、共通語の宣言名であるため、すぐに広範囲の荊攻撃であることが予想できる。


 そして涙流華はジパン族と呼ばれる種族であり、言語はジパン語。ニホン語とほぼ同じ言葉だった。


 つまり、同系種族である涙流華には小夜のAGIS(エイジス)はその能力が容易に知られてしまうのだった。


 AGIS(エイジス)発動時に宣言する所以は、言葉として自分の意思で口から発し、それを聴覚からも知覚することで遺伝子能力の同調をし易くするためだ。


 宣言無しでも同調できる者もいるが、それは遺伝子能力を極めたほんの一握りの者だけ。

 そのため小夜は比較的小声で宣言したのだが、涙流華はそれを聞き逃さなかった。


「さぁ、どうでしょうね?」

 宣言名を聞きとられた小夜は返答をはぐらかせた。


「それで? 貴女AGIS(エイジス)は使わないの? 舐められたものね」


 小夜の問いに涙流華は淡々と答える。

「水王家の侍は己の技術の鍛錬のためにAGIS(エイジス)を使わない」


「悪しき風習ね」


「そう言うな。敵のお前からすれば有難いことだろう」


「それは確かに」

 突然小夜の周りに突風が発生すると竜巻のように渦を巻いて身を隠す。

 そしてその渦が宙に霧散すると、そこには10人以上の小夜が現れ、涙流華の方に歩み寄ってきていた。


「幻影か。猪口才(ちょこざい)な」


 涙流華が大きく一振りして氷の波を小夜()()に浴びせた。

 しかしその瞬間、涙流華は背後からの殺気を感じ取った。

 そして防御のため自身の体に水流を(まと)うとすぐさま凍らせて盾を作りだす。


 複数回にわたって斬りかかってくる複数の小夜。

 涙流華は崩れゆく氷の盾を修復しながら彼女の攻撃を耐え忍んでいる。

 

 そして小夜の連続攻撃が終わった時だった。

 盾を解いた涙流華の遥か前方には、5人の小夜が一つの火球を作り出していた。

 大きさは直径にして1メートルほど。巨大な火球だ。


煉術(れんじゅつ)のための時間稼ぎだったか」

 小夜が発動させたのは共通能力(コモンスキル)の煉術だった。

 涙流華は咄嗟に水を集めて、火球にぶつけた。

 火球と水は衝突すると、水蒸気と衝撃を放ちながら相殺する。


 涙流華が衝撃に対して手で顔を守っていると、頭上から気配を感じ取る。

「また煉術か…!」

 頭上にあったのは氷塊だった。小夜が水蒸気を煉術で凍らせたのだ。


 既に落下してきている氷塊。直撃は免れない。


 その時だった。

 横から高火力の炎が放たれた。氷塊は瞬く間に昇華する。

 

「誰!?」

 小夜は突然の横槍に声を上げた。


「誰って、名乗るほどの者じゃない」

 現れたのは白い長髪の若い男だった。端整なスーツを着ている、若干目つきの悪い男だ。


「ラルト! お前そっちの拠点はどうした!?」

 涙流華は語気を強めてその男…彼女の仲間のラルト・ローズに尋ねた。


「あぁ。終わらせたから手伝いに来た」


 彼のその言葉に涙流華は顔を伏せて尋ねた。

「……私のことが気になったのか?」


「そうだ」

 仲間の救援に安心したためか、涙流華は刀を下げた。

 鋒が地面に触れるほど下げており、それほどに仲間のことを信頼していることが窺える。


「そうか、私も…おま、お前をおも…想っていた。お互い想い合っているからな…仕方がないことだ」

 心なしか涙流華は顔を赤らめて、上目遣いで彼を見つめた。


 ラルトは優しく微笑むと、涙流華に手を差し伸べた。

「そうだな」



 一閃。


 

 ラルトの体に袈裟斬りを喰らわせた。

 涙流華の目は殺気に満ち満ちている。


 ラルトの体は斜めに真っ二つに両断されると、蜃気楼のように揺れて宙に霧散した。


「仲間の幻影を出すとはやり方が姑息だな」

 涙流華は鋭い目つきで小夜を睨みつけた。

「貴様のAGIS(エイジス)。“追憶”というのはそういう意味か」


「私の記憶を見て幻影を作り出せる。だがそれは記憶の映像のみで、会話などは聞けないのだろう?」

 涙流華の指摘に小夜は反応しなかった。というより、どう反応していいか分からなかった。全て涙流華の言う通りだったからだ。


「…それにしても、よく偽物って気づいたわね」


「口調に少し違和感があった。それに奴なら確実に否定する場面でも肯定した……」

 

「それにあんな無駄口を叩いている間、お前は一切攻撃してこなかった。あれだけ息つく間もなくしていたのにだ」


「なるほど…流石は水王家次期当主ということね…」

 小夜は再度小刀を構えると声を上げた。

「まだ終わってない! これからが私の幻影の本気よ!」


「その必要はない」

 涙流華は凍つく声でそう告げる。


「えっ?」

 小夜が声を発した瞬間、彼女は足元から凍っていく。

 そして顔だけが露わになった状態で四肢も凍らされ、氷によって拘束された。


「どうして……! 攻撃の素振りなんてなかったはず…!」

 小夜はそう言いながら涙流華に目を向けた。そして彼女はその攻撃方法を悟る。

「地面……」


 涙流華は刀を地面に触れさせていた。そこから地面を伝って小夜を凍らせたのだ。

「油断したように見せて、あの時から私を狙ってたってことね…仲間の幻影が出たことを逆に利用されるなんてね…」


 小夜に近づいていく涙流華。刀はまだ納めていない。 

 小夜は諦めたように視線を落とした。

「殺して」


「なぜだ?」


「私は失敗した。神途(シント)様に合わせる顔がないもの」


神途(シント)のために死ぬと言うのか?」


「私には神途(シント)様しか……いないのよ!!!」


「お前には友がいたのではないのか?」

 涙流華は小夜に尋ねた。その口調に殺気はなく、穏やかなものだった。


「友なんて要らない……!! そんな甘っちょろいもの!!」

 小夜は声を荒げて激昂した。

 しかし、涙流華はそれでもなお穏やかな様子だった。

「私もそう思っていた」


「助け合いなど弱者のする甘えだと。腑抜けた考えだと。自分の実力があれば済む話だと」


 涙流華は水王家で若いながらも侍衆をまとめる軍団長を務めていた。

 彼女は侍という戦闘集団の長として厳しさを追求した。

 妹への想いや、友との関係性。甘さは命取りになるとして排除してきた。


 追い求める強い侍に近づいている実感が彼女にはあった。


 しかし父である水王家当主から足りないものを補うため宇宙を旅するように命じられた。


 そして彼女は“何もしていないろくでなし”と評していたサンダー・パーマー=ウラズマリー達と銀河を回ることとなった。


 そうして彼女が感じたもの……


「友に助けてもらうというのは……意外と悪くはないぞ」

 涙流華の言葉に小夜は悲しそうに唇を噛んだ。

「まぁ、お前ももう知っていると思うが」


「お前が星警察か政府軍に出頭するというのなら、刑期が終わった後戦星(せんせい)に行け。水王家がお前を引き取ろう」


 小夜からの返答はない。


「もう戦意はないだろうが、もう少し凍っていてもらう。反撃されてはかなわんからな。悪いが凍傷を負ってもらう」


「水王…涙流華…」

 小夜は力なく涙流華を呼んだ。


「一つ間違っていることがある」


「ルトはただの“友”なんかじゃない…」

 湧き出た本心が言いづらいのか、小夜は苦しそうに語っている。

「ずっと一緒に過ごしてきた私の……」

 彼女は言い切らなかった。

 言い切る資格がないと感じていたのだ。


 そこまで聞いた涙流華は刀を静かに納めた。

「ならば、もう一度会ってしっかりと話をしろ。今回のことと、これからのことを」


 小夜は穏やかな表情で少しだけ笑みを浮かべた。



To be continued....


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