サンダー・パーマー=ウラズマリー
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【登場人物】
▼採掘場
[ルト・ウォール]
19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。
▼国際教団
[胤減]
ソラル教を信仰する国際教団の教祖。
[神儡]
胤減の弟子。
[神途]
胤減の弟子。鉱山での労働を仕切っている。
[サヨ・キヌガサ]
19歳の女性。ルトと共に過ごしていたが、実は国際教団の高位幹部だった。
[ジュイス・ブランドー]
低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。
女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。
▼その他
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
薄金髪の青年。ルトを度々助ける謎の青年。
明るい性格。
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【お知らせ】
やっぱ好きな物語を書くのは楽しい!
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〜鉱山・中央部〜
「サンダー・パーマー=ウラズマリー」
神徒は薄金髪の彼をそう呼んだ。
「サンダー…雷…?」
ルトは彼の名前を不思議そうに呟いている。
「私は神徒。君がこそこそと嗅ぎまわっているやつだろう?」
「お前のことは知ってるぜ。ってか、俺こそこそしてたつもりはねぇけど」
「君のことはある筋から聞いた」
“ある筋”というところだけゆっくりと意味深に言う神徒。
その言葉にパーマーは笑みを浮かべている。
「にしては俺のことはあんまりよく知らないみてぇだな」
「君らのような小物、私がそこまで気にかける必要もないからな」
神徒は“ある筋”からパーマーに関する電子資料を得ていた。
しかし彼は気にかけるほどの者ではないと判断し、その資料に少し目を通すくらいしか見ていなかった。
それでも十分だと思ったのだ。
政府軍の高官でもなければ、世に名を轟かせるほどの悪人でもない。
元々ニュースなどを見る習慣がなかった神徒だったが、そんな自分にでも情報が入ってくるほどの者でなければ警戒する必要はないと考えていた。
パーマーは神徒の言葉に“なるほど”と笑いながら頭をかいた。焦る様子もなく余裕があった。
「お前ら、殷獣に生贄を差し出してんだってな」
神徒は馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばしている。
「生贄だなんて人聞きの悪い。“神への祈り”だ」
神徒の言葉を聞き入れることなく、パーマーは質問を続けた。
「どうやって殷獣を操ってる?」
「さぁ? “祈り”が届いたのだろう」
その答えにパーマーは大きくため息をついた。少し小馬鹿にしたように見えたのか、神徒はわかりやすく顔を顰めてパーマーに問い返した。
「それで君は私たちに一体何の用だ?」
「用…色々あるけど、とりあえずお前らのやろうとしてることを止める」
「止める……私の為そうとしていることを知っているわけか。頼もしいが難しいだろうな」
神徒もパーマーも自信に満ちた表情を浮かべている。どちらも強さに自信があるのだろう。
「その表情、まさか私たちをここで倒せるだなんて思ってないだろうな?」
パーマーは“そうだ”と言わんばかりに不敵な笑みで少し前へと歩み出た。
その態度に苛ついたのか、神徒はパーマーに対し毒を吐く。
「まず5人も相手にして勝てると思っていること自体が君の教養の無さを表しているな」
「俺、高等部でも赤点ばっかだったし、そうかもな」
“話にならない”といった様子で神徒は頭を振った。
「だがまぁ喜びたまえ。これから私の弟子たちには別の場所に行ってもらう」
「別の場所……? この鉱山にある変な拠点みたいなやつのことか?」
神徒は驚いたように声を上げた。
「なんだ、知られていたのか」
「どうせ殷獣を蓄えてるカゴみたいなもんなんだろ?」
パーマーの問いに、神徒は淡々と答える。
「その通り。この山には殷獣を貯蔵している拠点が四か所ある。それぞれ北、南、東、西にな」
神徒が合図をすると後ろに控えていた弟子たちが彼の前に歩み出る。
「今から私の弟子たちが殷獣の拠点を開放する」
神徒は弟子たちに対して順々に右手をかざしていくと、それに呼応するように弟子たちは姿を消した。
「移動系の遺伝子能力か…」
パーマーは神徒の能力を観察している。神徒の能力の詳細までは知り得ていないのだろう。
弟子たちを各拠点に移動させた神徒は話を再開した。
「ここの殷獣は少しばかり遺伝子操作をしていてな。私に触れると死滅する」
神徒の声はどんどんと大きく、粗野になっていく。
「人々を喰らう殷獣を私が抑え込み、救世主として国際教団の…この星のトップに立つ!!!」
「しょうもねぇ理由で人を巻き込むなよ。おっさん」
「もう止められない。私の救世主へと成り上がる物語はスタートしたのだ!」
「スタートしたかもしれねぇけど、ゴールはさせねぇから」
「君一人で何ができる? 今から四方に走って止めてくるか?」
「さすがの俺でもそれは無理だな」
パーマーは“お手上げ”といったように両手をあげて首を横に振っている。
「でもな……」
~鉱山・北の拠点~
開けた洞窟の中、ジュイス・ブランドーは神徒の命令通り、殷獣の入ったカゴを開放するため鉄扉の近くにあったボタンを押下しようと近づいた。
しかし、押下寸前のところで突然体の自由が奪われた。
そして鋭い男の声が響く。
「思ってたより耐えたな。マジで押すんじゃねぇかってヒヤヒヤしたぜ?」
「お……ま……」
「麻痺毒だ。今、お前の体は麻痺してる」
~鉱山・南の拠点~
南の拠点に送られた女性の団員の前に現れたのは、白い長髪の男だった。その男はスーツを着ており、目つきはすこぶる悪い。
女性団員は頭に被っていたフードを少し上にめくりあげてその男を見ていた。
彼女はその男を知っていた。過去に見たことがあったのだ。
「あなたのことは見たことあるわ。政府軍少佐さん」
政府軍の少佐と呼ばれる男は、若干気まずそうに目を逸らした。
「もう今は少佐じゃねぇ。っていうか政府軍ですらないんだが」
「ふぅん。それで政府軍を辞めたあなたが今更なんの用?」
「ここを正しにきた」
そう言って白髪の男は手に炎を纏った。
~鉱山・東の拠点~
東側の拠点に送られた団員。彼はガタイが良く、いかにも筋骨隆々といった男だった。
彼、モウラ・ムケシュはルトとサンダー・パーマーを襲った男だった。
そんな彼の前に立ちはだかっていたのは、同じく巨漢で身長2メートルは超えている褐色アフロの男だった。
アフロは濃いピンク色、肌着もつけず赤いジャケットを着ており、下は黒のジーンズという派手な格好だった。
しかしそんな恵まれた体格、派手な格好とは裏腹に彼は非常に怯えたように全身を大きく震わせている。
ムケシュはアフロの巨漢に対して威嚇するように吠えた。
「俺たちの邪魔をするなら貴様をぶちのめす!」
アフロの男は今にも泣きそうに、悲鳴に似た声をあげる。
「やっぱり私一人じゃ無理だぁぁぁぁ!!」
~鉱山・西の拠点~
西の拠点に送られたのはサヨだった。
転送されたサヨはすぐさま臨戦態勢に入る。
彼女の目の前には刀を構えた女の侍が立っていたからだ。
刀身の黒い刀を構える青いポニーテールの侍。
若いが数多くの死線をくぐってきたような雰囲気が醸されている。
女侍は刺々しい殺気を放ちながらサヨに問うた。
「何のためにここの労働者達を殺そうとする?」
サヨは何ら引け目を感じることなく、侍の問いに答えた。
労働者達を殺すことが至って正しいことだと言わんばかりに。
「私には矜持がある。神途様のお役に立つという。神徒様が殺すと仰れば、私は従うまで」
侍の刀の周りには水が渦巻くように流れている。
「人を利用して懐を潤そうとしている輩が矜持を語るな」
侍の鋭い視線はサヨを貫いている。
~鉱山・中央部~
神徒はホログラムで目の前に立つサンダー・パーマーの情報を開いていた。
少し前に情報をもらっていたが、目を通すほどの者ではないとして見ていなかったものだ。
若くして肝の据わった態度、自信に溢れた表情。サンダー・パーマーという男に興味が湧き始めていたのだ。
そんな神徒だったが、サンダー・パーマーの情報…所属組織を見て驚きを隠せずにいた。
「四帝…直轄惑星間遊撃捜査隊…?」
四帝とは、銀河を統治する巨大機関の一つ一神四帝というものだった。
政府軍という銀河を治める軍隊。それを監視してバランスを取る機関。
1人の一神と、その配下の4人の四帝。
それだけで政府軍と均衡を取れるとされた機関だった。
目の前の若い男、サンダー・パーマーがその四帝の直轄機関に属しているとは思いもしなかった。
自信も十分にあるはずだ。
そして神徒は驚きから再度復唱した。
「四帝…!?」
「官報に載っていた…! あの捜査隊か…!? 最近事件を連続で解決していた…!」
官報とは政府が発行する刊行物で、主に能力者などの情報が載っていた。
銀河において特筆すべき能力者や組織……善し悪し関係なく社会的影響の大きい善行や悪行によって政府が“公認遺伝子能力者”として指定し、その公示として官報に掲載する。
つまり、官報に掲載されるということは少なからず銀河内で特筆すべき能力者であると認められた強者だということだ。
彼らの強さは10〜1までの等級で定められており、1級が最高位だ。
そしてこのサンダー・パーマー=ウラズマリーが所属する四帝直轄惑星間遊撃捜査隊とその一行は、ついこの間官報に掲載されたばかりだったのだ。
テロや紛争の調停、大事件の解決、犯罪組織の壊滅に貢献した功績で政府から認定された。
神徒はホログラムの情報と目の前の青年を見比べて、信じられないといった表情を浮かべている。
彼らの仲間も聞き覚えのあるような者たちだった。
「お前が一番等級の高い…【雷獣】の……」
薄金髪の青年は体から電撃を発しながら、その続きを叫んだ。
「サンダー・パーマー=ウラズマリーだ!!!」
To be continued.....




