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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 前編 カゴの中でもがく虫
1/82

神の遣わせた獣

My² Gene 第2部 血を喰らう獣


始まります!

第一部読んでなくても大丈夫なので、またお付き合いよろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)



「やだ……助け…たすっ……」

 私の目の前に現れる獣。だんだんと近寄ってくる。


 私の足は力が全く入らず、腕の力だけで地を這いながら逃げていた。


 怖い怖い怖い怖い。

 

 本当に死ぬの……?


 正直何とかなるんじゃないかって思ってた。

 だって私は私の人生の主人公だから。


 けれど、今命の危機に瀕して初めて痛感した。

 私は主人公だけど、他の人の物語ではモブなんだって。



 暗い洞窟の中。逃げ場はない。 

 

「いやだぁ……死にたくないよぉ……!」


「死にたくない……死にたくっ」

 獣の刃が私の頭めがけて…



▼▼▼



~2週間前~



「ルト、お祈りに行こう」


 朝の6時28分。

 いつもと同じ時間に声をかけるルームメイト。


 私はボサボサの長い髪を紐で括る。

 めんどくさいからいつもポニーテールだ。


 こんな底辺で身なりを気にする必要もない。

 なんなら乳を出して真っ裸で歩いてもいいくらいだ。襲ってくる輩がいるからしないけど。


 ボロボロのカバンに工具を詰め、ツルハシを背に担ぐ。



 私はルト・ウォール。


 ルームメイトのサヨ・キヌガサとは一階に住んでいる。



 アパートのような3階建ての建物。

 部屋は二人が寝るのでいっぱいいっぱい。

 床はささくれだらけの木の板を敷いただけ。

 虫もよく出る。なんなら食べたりするくらいだ。


 トイレは外の溝にする。風呂は自分たちで貯めた雨水で済ませる。


 雨が降った時だけ体を洗っている者もいるが、私は毎日洗いたい。



 私たちはこれからお祈りに行く。

 この星は私が生まれる少し前にできた宗教団体、国際教団が仕切っていた。


 ソラル教という宗教。“太陽”という意味があるらしい。

 “太陽”というのは聞いたことがなかったが、昔他の恒星系にあった中心恒星だそうだ。


 ソラル教は一神教で、基本的には教会で祈りを捧げる。

 クリスティアニティやブディズムなどのように長い歴史はなく、まだ20〜30年ほどの新興宗教だ。


 一つ特徴的なのが、殷獣を“神からの遣い”として崇めているところ。

 そしてこの星では殷獣を鎮めるために人を捧げる。


 口に出しては言えないが、意味があるのだろうか?



 正直ソラル教には懐疑的だが、私たちのような底辺労働者は宗教を選ぶ権利はない。

 ソラル教一択だ。



 私が扉を開けると、外には生ゴミが散乱していた。


「また…?」

 部屋にもハエがいたのはそういうことか。


「ルト……」

 サヨは不安そうにこちらを見た。


「大丈夫よ。リーダーに言いましょう」


 そんなことが何の意味もなさないのはわかっていた。

 リーダーに言っても何も変わらない。

 私たちに構っている暇はないんだ。


 私が一番それを分かっているはずなのに。



 私たち労働者は使い捨て。

 身体的だろうが、精神的だろうがおかしくなれば()()()()()()()()()にされる。



 この生ゴミは私たちを面白くないと思う奴らからの仕打ちだ。

 私たちのランクが高いから…私たちが都市部に行ける切符を掴みそうだから。

 だけど私に直接言う勇気はない。

 だからこういう嫌がらせをする。


 私はボロボロのスニーカーで生ゴミを蹴ってどかした。


 幸い今の私たちに夜這いをかけてくる輩はいない。

 生ゴミで済むくらいならなんてことない。



「さぁ行こ、サヨ」

 整備されていない山道を一時間近く歩き、出来損ないの小さな村のような場所を目指す。


「ルト…これ…」

 道を歩いているとあの匂いが鼻をつく。

 何というか、歯を磨かない人のよだれを集めて腐らせて夏場に放置したような匂い。


 もちろん私はそんな匂い嗅いだことはないが、なんとなくそんな気がする。


 こんな異臭の中でも進まないといけない。

 顔の周りをハエが飛んで鬱陶しい。


 異臭が近づいてくると、私は道端の草むらの奥に目をやった。


「やっぱり…」


 緑がかった人の死体。女性だ。

 下半身だけ服がない。


 女性労働者は狙われる。


 私たちが仕事場からわざわざ重たい工具を持ち帰っているのは、こういったことから身を守るためだ。


 こういう光景は珍しくない。

 そのうち蛆虫が腐肉を分解する。



 そうして私達はいつも通り出来損ないの村のような場所に辿り着く。


 私たちのリーダー達が住んでいる場所だ。

 古びた教会を中心にリーダー達のボロ小屋が円状に配置されている。


 古びた教会に入ると所狭しと礼拝者が立っており、前には宗教家が礼拝を先導していた。

 私達は早くもなく遅くもない感じだ。


 ランクの低い者たちは最後の方に来たり、そもそも礼拝に来なかったりする。


 加点こそされないが、減点はされているらしい。

 高ランクの私たちにとっては欠かせない。


「では、神の遣わせた獣よって天に誘われた者達に祝福を…ロッキン」


「ロッキン…」

 そう言って皆手を合わせて目を閉じる。



 “神の遣わせた獣”…と言えば聞こえはいいが、私たちにとってはそんなに綺麗で神々しいものではなかった。


 この星には神から遣わされたという獣がいる。

 殷獣(いんじゅう)という呼び名だ。


 (いん)とは赤色の一種のことで、血の色に似ているらしい。

 なんでも殷獣は血に染まったように暗赤色だとか。

 私自身は見たことはないが、酷く恐ろしい見た目だそうだ。



 この獣は人を襲う。

 ではなぜ慈悲深き神はこんな獣を遣わせたのかというと、理由は2つあるらしい。


 一つは人間の犯した罪を人ごと喰らい浄化するため。

 もう一つは人間を団結させ、太平の世を作るため。


 だから殷獣は必要悪ということなんだと。


 誰が考えたのかはわからないけど馬鹿馬鹿しい。


「ロッキン」




 ここはきっと銀河でも最底辺の星に違いない。


 でも私たちにはこのゴミ溜まりから這い上がるしか、抜け出す方法はない。


 絶対にこの星を出るんだ。


 絶対にサヨと一緒に。




To be continued.....


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