第4話 練習の合間のお話
翌日の昼間。
「失礼するよ」
志穂子が、生徒会室へ入る。
「あ、先生お疲れ様ですー」
生徒会長の西河が、そう返す。
「西河君、丁度良かったわ。このポスターを生徒会の稟議にかけて欲しくてね」
ポスターを手渡す。
「了解です。1週間程で報告出来ると思いますが、それで良いですか?」
西河の言葉に、志穂子は頷く。
「……あ、そう言えば」
ポスターを机の上に置きながら、西河が志穂子の方を向く。
「棚辺が言ってましたよ、『自分が部活を引き継げば良かった』って。アイツ、ああ見えて責任感のある所はありますから」
「なるほど、それで手伝おうって思ったのね」
吹奏楽の名門である紫葉波中学校出身とは、手伝う話を持ち出した時に聞いていた。
訳あって離れていた彼女は、部長の姿を見て……と言えば、西河の言う通りなのかもしれない。
「とりあえず、ポスターの件は早急に稟議を通しておきますね」
西河の言葉に、志穂子は頷いた。
▫▫▫
その頃、1年生の教室では。
「智尋ちゃん、ポスター配りって手伝って貰えるかな」
私は、智尋にそう頼んでいた。
「……わ、私で、いいの?」
「うん。どうしても人手が足りなくて」
頼める人が限られてくるから、とその旨も話した。
「分かったよ。乗り掛かった船、だからね」
智尋が言う。
「ほんとぉ?良かったー」
その言葉に、安堵した。
「でも、一つ気になる事があって……」
智尋は、指を私の顔の方へ向ける。
「目の下、隈がひどいよ……?」
「ひゃっ」
私は思わず、目の下を隠す。
「一昨日も、昨日も色々と考えていたからね。あまり寝れていないや、あはは……」
ポスターの制作とか、気が早いけど発表会の挨拶を考えていた。
そのせいで、寝不足なのは図星だけれど……
「無理は、禁物だよ。華帆さんが倒れたら、駄目だから」
「……智尋ちゃんの言う通り、です……」
▪▪▪
羽胡が、校庭に来た。
みえりに呼び出されたのだ。
「みえりん、呼び出してどしたん」
渡り廊下から校庭に降りる階段に居た、みえりに話しかける。
「はっちゃん、私さ……どうして逃げてたんだろ」
「逃げてたって、吹部のこと?」
羽胡が返すと、みえりは頷く。
「先生が苦労してたの見てたのに、私……ずっと入ろうとしなかった。私がちゃんとしてれば、もう少し人が集まってたかなって」
羽胡は、みえりの過去を知る数少ない人物だ。
吹部が再開してから、度々そう呟いている。
よっぽど、思い詰めていると感じるが――
「もう、部長さんを手助けするって決めたじゃん。償いをし始めたし……ほら、前向かなきゃ。みえりんが元気無きゃ、心配だよ」
羽胡は、みえりの肩を叩く。
「そう、だよね」
みえりは、羽胡の方を見る。
「ごめんね、はっちゃん。いつも……」
「もーっ、そう言わないの。私はみえりんの味方だよ」
そう羽胡が言うと、みえりを抱き寄せた。
「今は、演奏を楽しもうよ……みえりん」
「……そうだね」