第3話 初めての練習です
次の日、練習を本格的に始めることになった。
なつ以外のメンバーが、部室に集まった。
「しっかし、まあ……ほんと何年ぶりなんだろうね。吹部に部員だなんて」
トロンボーンを組み立てながら、みえりが呟く。
「先輩方の時も、居なかったのですか?」
私が聞く。
「少なくとも、うちらが入学した時には居なかった。……だから新鮮なのよ」
みえりがそう返す。
その時、なつが部室に顔を出した。
「すいません、ちょっと良いですか」
なつが言うと、志穂子が扉の方へ向かう。
「……確か、手伝って貰えるかもって方?」
志穂子が言うと、なつは頷く。
「本来所属している部の顧問の先生から、参加してもよいと許可が出たことをお伝えを……と。皆さんとの練習は、こちらの活動が無い金曜日にやる予定です。楽曲の方は、こちらで練習を重ねるので」
その言葉に、安堵した。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
志穂子が言う。
「はい……それでは」
なつは部室を後にした。
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「先生、楽器の準備が出来ました」
私が言うと、志穂子は頷く。
「それでは、練習を始めます」
最初は、チューナーを使って音の調整をする。
(……本格的なもの、使うの初めて……)
そう思いながら、私はユーフォニアムの音を出す。
最初の音は、緑の所に色が点いた。音が合っている証拠だ。
……なのだが、かなりブレブレで、音が外れると出る赤色も点灯している。
(あはは、久しぶりだな。この感触)
最後に触ってから、数年が経っている。
まさか、こんなカタチでまた触るとはね。
▫▫▫
音の調整が終わったら、練習用の譜面を使って練習をする。
指使いやロングトーン、ハーモニー、リズムを合わせる。
「なんだか、難しい顔をしているね」
練習の途中、羽胡が話しかけてきた。
「……久しぶりなんで、指使いがって思いまして」
苦笑いをしながら、私はそう返す。
羽胡は、なるほどと言わんばかりに頷く。
「とりあえずは、基礎を復習って感じでやってみれば良いんじゃないかな……って、私が言う立場じゃないと思うけど」
羽胡が言う。
「それは先輩の言う通りですね」
「あはは、そう言って貰えると嬉しいよ」
羽胡は、少し目線を落とす。
「華帆さんって凄いよね。部員が居ない部を引き継ごうとするのって……私には無理かも」
「……でも、こうして参加して貰えるだけでも、私は嬉しいですよ」
私が返すと、羽胡は再び目線を合わす。
「そうなら、私も頑張るしか無いね」
そう言って、羽胡は笑顔を見せた。
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基礎的な練習を、1時間半を掛けて行った。
「それじゃ、今日の練習はここまでにしましょうか」
志穂子が言うと、皆は頷いた。
「はぁぁ、久しぶりに楽器を扱うのって楽しいわねぇ」
みえりが言う。
「……あの、先輩」
智尋がみえりに話しかける。
「なーに?ちっち」
「トロンボーンの腕、上手いって、思いました……何処かで、披露してたのです?」
確かに、智尋の言う通りだ。
楽器を扱うのが、「齧っていた」人とは思えない。
「あーあー。これでも、中学の部活で散々やったからねー」
「みえりんって紫葉波中出身だしね」
羽胡が追加で言うと、私は驚いた。
「紫葉波中って、吹奏楽の強豪じゃないですか。どうして野谷高なんかに」
私がそう言うと、みえりは苦笑いをする。
「ほらほら、強豪だからこそ……練習が厳しくてね。私、途中で音を上げちゃったんだ。でも、今なら楽しく出来そうな気がするからね」
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片付けが終わり、部室を出た。
「あ、華帆さん……ちょっと良いかしら」
志穂子が話しかける。
「はい、何でしょう」
そのまま、音楽室へ向かった。
「楽曲の件、いつまでに……って話をしていなくてね。急な話になって申し訳けど、明日までに決めて貰えるかしら。野谷祭って夏休み後すぐに開催するから、時間が無いのよ」
「……それなら」
私は預かった資料を取り出した。
欲しい楽曲に、付箋を付けている。
「昨日、選曲してみました。早めに練習がしたいな、と思ったので」
私が言うと、志穂子は頷いた。
「ありがとう、助かるわ」
志穂子に、資料を明け渡す。
「あ、私から一つ良いですか?」
「どうしたの」
「これなんですけど」
私はカバンから、紙を取り出す。
宣伝用のチラシの原画を、家で描いてみたのだ。
その旨を言うと、志穂子は笑った。
「……あの、何かまずかったですか?」
私は恐る恐る、聞いてみる。
「違うのよ。私が思っているより、考えているんだと思ったのよ。学校用は別に作るつもりかしら?」
「学校の物は、これです」
もう一つ、別に作ってある。
それを、志穂子に渡す。
「それじゃあ、この原画を生徒会に審査してもらうわ。預かってもいいかしら」
(学校の掲示板等に張り出す場合は、適切なものかどうか生徒会に審査する必要がある)
「分かりました。お願いします」
その時、閉門間近のチャイムが鳴った。
「また、明日ね」
「はいっ!」
こうして、最初の練習が終わった。