第1話 吹部に入部します!
私の青春は、とってもとっても楽しかった。
あの時、あの部活を選んで良かったと今でも思っている。
……私、佐々川華帆。目に留まった『吹奏楽部』に出会えたのは運命だったのかな。
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「皆、席付けー」
2組の担任である、倉田先生が声をかける。
「オリエンテーリング、お疲れ様だったぞ。……これから、部活動の入部届けを渡していく」
紙を二枚、配っていく。
「来週一週間、体験入部となる。それからこの入部届けに名前を書いて、保護者のサインを貰ってきてくれ」
倉田先生が説明する。
「……あの、先生」
私は手を上げる。
「どうした、佐々川」
「体験入部中に、入部届けを出しても良いんですか?」
「ああ、いいぞ。即で出しても大丈夫だ。……他に、質問は無いか?」
そう倉田先生が言うと、皆は首を横に降る。
「それじゃあ、10分後にホームルームを行う。皆、帰りの準備をしてくれ」
▫▫▫
「ねぇね。気になる部活あったん?」
先生が出た後、夜芽子が話しかけてきた。
「あ、うん。……これなんだけど」
私は『部活紹介』の紙にある、とある箇所を指差す。
「吹奏楽部?」
夜芽子が返すと、私は頷く。
「『部員が数年、居ない状態です』って記述が、どうしても気になってね。話を聞くだけでも、と思ったのよ」
「そうなんね」
「そういう夜芽子ちゃんは、部活はどうするの」
私が聞くと、夜芽子は苦笑いをする。
「あはは、ウチは入らないかな。実家の道場を手伝えって、親がうるさいからさ」
確か、夜芽子の家は剣道の道場を兼ねてやっていると聞いた。
「それなら仕方がないかもね。……と、先生が来る前に荷物をまとめましょ?」
そう言うと、夜芽子は頷いた。
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月曜日になった。
この日から、入部見学が始まる。
その日の放課後。
「……音楽室は、確か」
2組の教室を出て、階段を降りる。
降りた先にあるパソコン室の所から、体育館がある途中にあると聞いている。
「あった」
実際行ってみると、『音楽室』と書かれた札が掲げられている。
中に入ると、誰も居ない。
「あれ、おかしいな。場所間違えたのかな」
私はそう呟くと、手元にある『見学用紙』を見る。
『吹奏楽部の集合場所は、音楽室』と書かれている。
「あら?気付かなくてごめんね。見学者かな」
扉から、誰かが覗き込んだ。
「あ、あの、確か」
私が慌てて言うと、その女性が出てきた。
「わたし、鈴木志穂子と言います。音楽科を担当していて、吹奏楽部の顧問ですよ」
「あ……あ、あの。1年の佐々川と言います。吹奏楽部の見学に来ました」
私が言うと、志穂子が笑顔を見せた。
「じゃあ、移動するわね。一応集合場所は音楽室だけど、部室は違う場所よ」
もう誰も来ないだろうから、と付け加えて志穂子が部屋から出る。
私は、その後を着いていった。
▫▫▫
体育館の渡り廊下から、脇の扉を開けて入っていく。
「ここよ」
志穂子が鍵を開け、中へ入る。
そこには、楽器が山ほどある。
「……思いの外、たくさんあるんですね」
そう言うと、志穂子は少し悲しそうな顔をする。
「ここ数年、誰も入ってくれなくてね。楽器が寂しそうなのよ……って、貴女に愚痴を言っても仕方がないけどね」
「何か、思い入れがあるんですか?」
私がそう返すと、志穂子は頷く。
「実はね、わたしはここのOBでさ。吹奏楽部所属でもあったから、快く顧問になったんだけど……ね。それに、もう2年以内に部員が入らなければ、廃部になるのよ」
オリエンテーリングで聞いた話だと、新たに部活を設立するには『一定数の人物』が必要で、『同好会』の出発になると聞いていた。
私は、手を強く握る。
私が入れば、3年は続く。
この部活は、自分で守らなきゃいけない。
そう思った瞬間、口が開く。
「私、吹奏楽部に入りたいですっ!」
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私は、家へ帰った。
「おかえり」
お母さんが出迎えてくれた。
「お母さん、お父さん居るかな。話があるの」
私がそう言うと、お母さんは頷く。
リビングの机に、お母さんとお父さんが座る。
その向かいに、私が座る。
「話ってなんだ?華帆」
お父さんが口を開く。
「私、部活に入ろうと思っていて」
「あら、何の部活に入るの?」
お母さんが横から言う。
「吹奏楽部に入りたいの」
「楽器、大丈夫なのか?」
お父さんがそう言うと、私は頷く。
「ほら、小学生の頃に学校のマーチングバンドをやっていたでしょ?その経験が活かせそうなの。……それと、吹奏楽部が廃部の危機にあるの。それもあって、入りたいって思ったの」
「それなら、やってみなさい」
お父さんがそう言い、お母さんも頷く。
「……ありがとう!」
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翌日、私は入部届けを倉田先生に出す。
「思いの外、決断が早いな」
倉田先生が言う。
「どうしても、入りたくて」
そう私が返すと、倉田先生は頷く。
「それじゃあ、受け取るぞ」
「お願いします」
私は頭を下げて、教務室を出た。
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「鈴木先生、ちょっと良いですかな」
倉田先生は、志穂子を呼び止める。
「何でしょうか?」
「佐々川が、吹奏楽部に入ると言いましてな」
「……そう、ですか」
志穂子は、胸を撫で下ろした。
『誰も入ってくれない』不安から、解消された。
あの時の言葉は、本当だ……
そう、悟った。
「佐々川を、よろしく頼みます」
そう倉田先生が言う。
「はい」
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こうして、『吹奏楽部』の活動にまた刻が動き始めた。
お待たせしました、新作です。