↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の情夫《ジゴロ》 第二部【クローディアの章】  作者: 枕崎 純之助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/100

第187話 『女王の共闘』

「ハァァァァッ!」


 黒き魔女アメーリアは長い黒髪を振り乱しながら嬉々として金棒を振り回す。

 ブリジットとクローディアは持ち前の俊敏さでこれを懸命にかわすが、手持ちの武器がないため防戦を余儀なくされていた。

 ブリジットは隙《すき》を見て足元に転がっている太い枝を拾い上げた。

 彼女の腕ほどもあるそれは、アメーリアが振り回す金棒によって砕《くだ》かれた木々から零《こぼ》れ落ちた枝だ。


「いつまでも調子に乗るな!」


 ブリジットはアメーリアが片手で軽々と振るう金棒をかいくぐり、臆することなくその懐《ふところ》に飛び込んだ。

 そして太い枝でアメーリアの顔面を狙《ねら》う。


(とにかく頭を殴《なぐ》って昏倒《こんとう》させる!)


 しかしアメーリアは器用にのけ反《ぞ》ってこれをギリギリでかわすと同時にブリジットの脇腹を蹴りつける。


「ぐっ!」


 ブリジットは咄嗟《とっさ》に腕で防御して脇腹を守ったが、アメーリアの脚力は強く、数メートルは吹っ飛ばされた。

 この間にクローディアも太い枝を拾い上げていて、アメーリアに向かっていく。

 それを目にしたアメーリアは嘲笑の声を上げた。


「あらあら。誇り高き女王様たちがそんな棒切れ振り回して、まるで子供の遊びね」


 そう言うとアメーリアはクローディアに向かって金棒を振り下ろす。

 だがクローディアは信じられないような高速反応で半身になりながらも前進してこれをかわし、一気にアメーリアの懐《ふところ》に飛び込んだ。

 そしてブリジットと同じく枝でアメーリアの顔面を狙《ねら》う……かと思いきや、軌道を変えてアメーリアの腹を打った。

 木の枝とはいえ、ブリジットやクローディアが振るえばそれは立派な凶器だ。

 

 だが、木の枝が砕《くだ》けるほどの衝撃で腹を打たれたにも関わらず、アメーリアはわずかに顔をしかめるだけで痛みを堪《こら》えた。

 そして金棒を持っていない右手の拳でクローディアの顔面を狙《ねら》う。

 クローディアは即座に腕で顔を守るが、今度はアメーリアが拳の軌道を変えてクローディアの腹部に打ち込んだ。


「かはっ!」


 クローディアは後方に大きく飛ばされ、それでも何とか倒れずに踏みとどまる。

 だがその顔が痛みに歪《ゆが》んでいた。

 そんな彼女の様子にアメーリアは口の端《はし》を吊《つ》り上げてニッと笑う。


「お返しよ。クローディア」


 ブリジットはその様子を見て内心で舌打ちした。


(強いぞ。あの女。身体能力が高いだけじゃない。クローディアの言った通り、殺し慣れている)


 戦場で実戦経験を積み重ねると、敵をいかに効率よく葬《ほうむ》るかという技量が身に付く。

 アメーリアのそれは極限まで研《と》ぎ澄《す》まされた刃のように鋭く、ブリジットやクローディアでも油断をすれば一瞬で殺されてしまいそうなほどだ。


「クローディア。この前の狭《せま》い地下水路の時のようにはいかないわよ。ここは自由に動き回れるしね」


 アメーリアはそう言うと重厚な金棒を軽々と肩に担いだ。


「あなたたち2人を殺してその首をダニアの女たちに見せつけるわ。そして本家も分家もワタクシの支配下に置く。ダニアの女は強い者に従うのは知ってるわよね。それならワタクシが女王になるべき。そうは思わないかしら?」


 余裕を見せるアメーリアだが、ブリジットは足元に落ちている枝を再び拾い上げて彼女を睨《にら》みつける。


「フンッ。そんなことが本当に出来るなら、女王だろうと何だろうと好きになるがいい。だが、首を晒《さら》すのはおまえのほうだ。惨《みじ》めな生首をトバイアスに送りつけてやる」

「そうね。それに強いだけじゃ女王は務まらない。男に媚《こ》びへつらっているようなあなたにダニアの女たちがついていくとは思えないわ」


 クローディアもブリジットの隣《となり》に並び立って言う。

 2人の女王の言葉にアメーリアはつまらなさそうに肩をすくめた。


「ついてこないなら圧倒的な痛みと恐怖で支配するまでよ。ワタクシに逆らうなら死ぬより辛い目に合わせてやるわ。やり方は色々と知っているから」

「チッ。狂人め」

「あなたみたいな女に大事な部下を任せられるものですか」


 ブリジットとクローディアはその手に握った枝を構えつつ、互《たが》いに目配せをする。

 まともな武器もないこの状況では、各々が勝手に戦ったのでは勝機は無い。

 ならば2人で連携するべきだ。

 もちろん戦場で共に戦ったことなどない2人だ。

 すぐに息の合った戦いをすることは難しいだろう。


 それでもブリジットとクローディアは数時間前にお互《たが》いの腕前を披露し合った。

 模擬戦とはいえ、双方の技量の一端を知ることが出来たのだ。

 その経験を活《い》かし、後は相手を信じ、互《たが》いに背中を守り合って戦うことで、活路を見出すほかない。

 戦場で共に戦う仲間を信じて背中を任せることは、ダニアの女王に求められる資質のひとつであり、2人は共にそのことを心得ていた。


「行くわよ。ブリジット」

「ああ。遅れるなよ。クローディア」

「あと言い忘れたけれど、アメーリアは口から毒針を吐いたり、小細工《こざいく》してくるから気をつけて」

「肝《きも》に銘《めい》じよう」


 そう言うとブリジットが先陣を切ってアメーリアに突っ込んで行く。

 アメーリアはその顔に狂気を伴《ともな》う暴力性を露《あら》わにして、金棒を構えた。


「今夜が人生最後の夜よ。あなたたちは朝日は拝《おが》めない」


 アメーリアはブリジットの胴を横薙(な)ぎに叩き潰《つぶ》そうと、左手に握った金棒を一閃させる。

 だがブリジットは高く跳躍してそれをかわすと、枝を振り下ろしてアメーリアの額《ひたい》を狙《ねら》った。

 アメーリアはそれを平然と右手の手甲で受け止める。

 木の枝がパキッという音を立ててヒビ割れた。


「そんなものでワタクシに傷のひとつでもつけられると思っているの? 笑わせないで」


 そう言うとアメーリアはすぐに金棒を振るってブリジットを薙《な》ぎ払おうとする。

 だが、そこで素早く背後に回り込んだクローディアがアメーリアの後頭部を狙《ねら》って木の枝を突き出した。

 しかしアメーリアはまるで背中に目があるかのように、右手の手甲でこれも受け止めてしまう。

 それでもブリジットとクローディアは必死の連携を見せてアメーリアを前後左右から攻め立てた。

 だが、アメーリアはこれを的確に防御し、一撃必殺の金棒で2人を狙《ねら》う。


 2対1でありながら、戦況はいまだアメーリアが大きく優勢だった。

 クローディアは煩《わずら》わしさに表情を歪《ゆが》めながら地面から新たな枝を拾い上げるが、そんな戦い方がいつまでも出来るわけではないことは彼女自身痛いほど分かっていた。


(くっ……武器が欲しい。まともな武器さえあればもっと違った戦い方が出来るのに)


 暗闇《くらやみ》だった空が徐々に青い闇《やみ》に変わりつつある。

 少しずつ夜明けが近付く中、女王2人の苦しい戦いが続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。