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第101話 『再出発』

 ダニア。

 それは昔からこの地域に根付く赤毛に褐色(かっしょく)肌を持つ女ばかりの部族の名だ。

 この一族は生まれる赤子の9割が女児ばかりで、いずれも高身長で筋肉質に成長し、過酷な訓練によって成人の15歳を迎えるころには一人前の殺戮(さつりく)戦士となる。

 彼女たちは諸国を流れ歩き、各所で略奪を行い日々の暮らしを続けていた。

 そんなダニアは蛮族(ばんぞく)と呼ばれ、諸国に恐れられ()み嫌われていた。

 ダニアを率いるのは一族で唯一、金色の髪と白い肌を持つ女王ブリジット。


 そして年老いて引退したダニアの民や、成人前の子供たちは流浪るろうの旅に付いて行くことが出来ないため、『奥の里』と呼ばれる山奥の隠れ里で過ごしている。

 今、その奥の里からブリジット率いる本隊が出発しようとしていた。

 里に帰還してから数々の騒動が起きたために再出発が遅れていたが、この日より本来の仕事である略奪稼業(かぎょう)を再開することとなる。


 そんな出発を一時間後に控えた朝、1人の女戦士が本邸ほんてい裏の墓地を訪れていた。

 そこは歴代のブリジットとその情夫たちの眠る場所だった。

 当代ブリジットの情夫であるボルドの墓が新たに作られたのはつい数日前のことだった。

 そのボルドの墓を訪れていたのはブリジットの幼馴染おさななじみにして側近である女戦士ベラだ。

 ベラは墓石の前にしゃがみ込むと目を細める。


「よう。ボルド。アタシらはそろそろ行くぜ。今日から仕事の再開だ」


 ブリジットの情夫ボルドは敵である分家の女との姦淫かんいんの疑いをかけられ、ダニア特有の裁判である百対一裁判の結果、有罪判決を受けて処刑されることになった。

 ダニアの女王であるブリジットの情夫は他の女と交わってはいけない。

 その禁を犯せば死罪はまぬがれないのだ。


 だが刑の執行直前に処刑の場である天命のいただきが分家の女戦士バーサの襲撃を受け、その混乱に乗じて拘束を解かれたボルドは自ら谷に身を投げた。

 ブリジットへの永遠の愛をちかい、その治世が長く続くことを願って。

 その後、分家の女王クローディアからの手紙により、ボルドが無実だったことが判明したのだが、すべては遅かった。

 谷底の川からボルドの遺体は見つからなかったが、人が落ちて助かる高さではない。


「ブリジットはとうとう墓参りに来なかったな。でも許してやってくれ。まだ多分、無理なんだと思う。おまえなら分かってくれるよな。ボルド」


 そう言うとベラは手に持っていた白い一輪の花をボルドの墓石の前に供えた。

 そんな彼女の目に一抹のさびしさがにじむ。

 この墓の下にボルドが眠ってなどいないことは分かっていたが、ベラにとってもボルドの死は衝撃的だった。

 ブリジットを大事に思っていたボルドのことをベラも友好的に思っていたからだ。

 ベラは名残惜しそうにため息をつくと立ち上がる。


「次に帰って来るのは多分、冬の手前だ。またな。ボルド」


 そう言い残すとベラは風に赤毛をなびかせながら、その場を後にした。

 ふいに墓地を吹き抜ける強い風が、墓前に供えられた一輪の白い花をさらっていった。

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