05 乙女
「今日は乙女についてのアレコレ、ですよっ」
今日の先生は、ノルシェ。
「まずは基本から。 『乙女の純潔の誓い』とはなんぞや、ですっ」
『純潔の乙女は初めて肌を見せた殿方に全てを捧げる』です、先生。
「そうですっ。 乙女とは、私やモノカのようなお年頃の女の子だけではありませんっ。 ハルミスタさんのような素敵な大人の女性はもちろん、自身の矜持をしっかり保っている女性全てに当てはまる称号なのですっ」
アランさんとの結婚を決意して照れ照れなハルミスタさん、とても可愛らしかったです。
「そうでしたねっ。 頬を染めながらも決意のまなざしを潤ませたあの表情こそが、全ての乙女の憧れであり目指すべき姿、ですよねっ」
ノルシェ先生も頑張ってください。
「えーと、私のことはいいんです。 それでは次に『乙女の守り樹』について、です」
乙女が己が貞操を守り抜くために肌身離さず身につける短刀です、先生。
「そう、そしてその素晴らしい風習が脈々と受け継がれてきたのは、乙女たちの心を捉えて離さない言い伝えがあるからなのですっ」
その話、詳しく。
『乙女の守り樹』:聖なる森を治める王女様が、侵略者の蛮族の王を聖樹の枝で突き刺して自らの手で純潔を守りぬいたという古来より伝わる伝説
尖らせた枝を赤子に握らせていた風習は、今は産まれた娘に短刀を贈るという形で残っている
「あの時、私から贈られた『乙女の守り樹』、ちゃんと身につけていますか、モノカ」
もちろんだよ、ノルシェ。
冒険の前にこれが懐にあるのを確認すると、なんていうか身が引き締まる感じ。
「ありがとうモノカ。 本当は使わないで済むのが一番なんでしょうけど、ね」
『乙女の守り樹』は短刀で、ノルシェがいつも闘いに使っているのは短剣、なんだね。
「我がラルシエ家では、肌身離さず身につけられるようにつばを外している物を短刀、戦いの場で思う存分振り回せるようにつばを取り付けた物を短剣、と呼んでおりますっ」
つまりノルシェの場合は『ノルシェル』が短刀で『リリシアン』が短剣、だね。
「もっとも、鍛冶屋さんとか武器屋さんとかでは、どういう区別をしているのかは分かりませんよっ」
なるほど。
「そういえば、ライクァ王との決戦の時に上半身がすっぽんぽんだったそうですけど、『乙女の守り樹』を手放して覚悟を決めたってことですよねっ」
なにそれっ、違うってば。 ちゃんと最後の一枚は死守してたし、勝ち負けの予想がつかない一発勝負だったんで、短刀は上着と一緒に寄せといたんだって。
「分かりますよ、心にグッときた殿方を前にして乙女がその身をあずけたくなっちゃう気持ち。 恥ずべき行為ではありませんっ」
あーもう、そういうんじゃないって。 あの時のアレは武人としてのシンパシーみたいなもので、乙女がどうとかじゃないんだって。
「照れることは無いのですっ。 『武人』でも『乙女』でもモノカはモノカ。 来たるべき時が来れば、ちゃんとみんなで祝福しますからねっ」
話が通じない……
「それでは、今日はここまで、ですっ」
ちょっと待って、ノルシェ先生。
誤解を解かせてっ。
このあと、めちゃくちゃ説得しました。