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9.資格

 冒険者ギルドに寄ってから、セシルとミレイナを加えたラウルとファムはメルニールのダンジョンへと向かっていた。ミレイナの戦力を測るだけならラインヴェルトのダンジョンでも問題ないが、せっかくなので実際に多頭蛇竜(ヒュドラー)討伐に向かう過程で通る場で試そうということになったのだ。


 とはいえ、普通にメルニールを目指したのでは数日ではまったく足らないくらいの時間を要するため、ダンジョン同士を繋いでいる転移罠を利用するつもりだった。


「ミレイナちゃんって、ミルミルよりちょっと年下だっけ~?」

「はい、おそらくそうだと思います」

「そうだよね~。話してるとミルミルの方が幼く思っちゃうけど」


 ファムがカラカラと笑う。ラウルはそんな二人を後ろから眺めながら、ミルは今のミレイナと同じくらいの幼さで強大な魔物から街を救う大活躍を見せ、まだまだ小さかった相棒のイムと共に多頭蛇竜(ヒュドラー)を倒したのだと、改めてその偉業に感じ入る。


 かつてラインヴェルトを襲った刈り取り蜥蜴(リープリザード)という魔物は、たった数体だけでメルニールを陥落寸前まで追い込んだ強力な魔物だ。そして、その際にラウルの初めての師匠と言える冒険者パーティが命を落としたという経緯がある。


 その後、刈り取り蜥蜴(リープリザード)やその仲間の魔物たちがラインヴェルトを襲ったとき、この街を守ったのが英雄を擁する“戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)”であり、その際にミルとイムのコンビは刈り取り蜥蜴(リープリザード)の1体を倒している。


 わかりきっていることではあったが、ラウルはミルとの差を痛感して肩を落とした。


 元々ラウルやミルは孤児で、メルニールの所謂貧困街で最低限度の日銭を稼いで何とか生きていた。当時のミルは大人しく、いつもビクビクしているような女の子だった。ラウルはミルに対して何となく守ってあげたい保護欲のようなものを抱いてはいたが、正直なところ他人を心配していられる状況ではなかったし、貧しい孤児の女の子たちを支援している大人の冒険者もいたため、殊更関わるようなことはしなかった。


 しかし、それから間もなくミルは2人の英雄と出会い、メルニールを裏切って帝国と内通していた当時のトップクラスの冒険者を仲間たちと共に撃退。どこにでもいる孤児の一人だったミルは、瞬く間に英雄パーティの一員となった。


 ミルは総じて魔法が苦手とされる獣人族でありながら稀有な回復魔法を使いこなし、街の人々から“小さな聖女”と呼ばれることとなる。そして元来の元気と明るさを取り戻したミルは、いつしかラウルの憧れとなっていた。


「セシルさん」


 ラウルが横を向くと、優し気な微笑みが出迎えた。包容力を感じさせるその笑みに、ラウルの口が自然と動く。


「僕に稽古をつけてもらえませんか?」


 もちろん今からというわけではない。これからしばらくの間、共に行動することが増える二人だが、多頭蛇竜(ヒュドラー)を倒すためにもセシルから学ぶことは多いはずだ。


「私も日々精進している身ではありますけど、そんな私でもラウルくんのお役に立てるなら」


 セシルが笑顔と共に快諾すると、ラウルは勢いよく頭を下げる。剣での立ち回りは当然として、ラウルもいつか魔法を身に付けたいという願望があった。そうした意味でも剣と魔法をどちらも高い水準で扱えるセシルはラウルにとって理想の師となりえる存在だった。


「あ……」


 ラウルの頭に、さっそく尋ねたいことが浮かんだ。


「どうかしました?」

「あの。セシルさんは、その、魔力操作の訓練を受けたことがあるんですよね?」

「え……」


 一拍の後にセシルの顔が朱に染まり、ラウルは首を傾げる。


「あ……。はい、ありますよ」


 セシルがかつての英雄との訓練を経て魔法に磨きをかけたことを認める。ラウルにはセシルが恥じ入るように頬を染める理由はわからなかったが、秘匿されているその方法に迫るチャンスだと思った。


「僕もその訓練を受けることができれば、魔法を使えるようになりますか!?」


 元々魔法の才能を持っていたセシルとは状況が違うものの、すぐ前をミレイナという成功例が歩いているのだ。ラウルは、ずいっとセシルに体を寄せた。反射的に半歩後退したセシルが少しだけ惑う素振りを見せた後、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「たぶん、それは無理です……」


 その言葉に、ラウルは脳天から雷に貫けられたかのような衝撃を受けた。自分にはそれほどまでに魔法の才能がないのかと、ラウルは絶望にも似た感情を抱いて唇を噛む。


「あ! ち、違うんです……! 無理というのは、おそらくラウルくんはその訓練を受けられないんじゃないかって……」


 セシルは焦ったようにラウルの勘違いだと訴えるが、当の本人は何が違うのかわからなかった。訓練を受けることさえできないのかとラウルの心が悲鳴を上げていた。


「違うんです! ラウルくんに才能があるかどうかではないんです……!」

「じゃ、じゃあ、なんで俺は訓練を受けることさえできないんですか……!?」


 いつの間にか四人はラインヴェルトのダンジョンに向かう大通りの真ん中で立ち止まっていた。幸いなことに、すぐ近くに人はいなかった。


「ラウル、なに騒いでるの~?」


 そう尋ねるファムの声も、目を丸くするミレイナの視線も、ラウルは気に留めることなくセシルの瞳だけを見つめていた。その一方で、セシルは自身を見上げるラウルの視線から逃れるように、キョロキョロと目を泳がせる。


 やがて、諦めたように、そして殊更申し訳なさそうに、セシルが小ぶりの口を開いた。


「男の子だから……」

「……え?」

「ラウルくんが男の子だから、おそらく……いえ、間違いなく許可が下りないんです」


 セシルはあくまで真剣な表情で、誤魔化しているような様子はなかった。


 ラウルはわけがわからず、大口を開けて呆然と立ち尽くした。


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