100年生きようとしていますが難しそうです。
---- 僕は自分なりに特別な人間になるつもりもないしむしろなりたいとも思わない。
僕は将来、普通の中学校に行き、普通の高校に行き、普通の大学に行き、普通の漫画家になって、普通に結婚して、普通の家庭を持って、普通のおじいさんになって普通に死にたいと思う。
普通の生き方は楽しいと僕は思う、一時一時を楽しく過ごそうと思う。----
句読点が多い、間違っているようで間違っていないようで、どちらにも捉えることのできる書き方がいかにも子供らしい。
何十年ぶりだろう、小学校の卒業文集に目を通したのは。
と考えてはみるが私は20代だ、小学校卒業時は12歳、12歳に10を2つ足せば30歳を超えてしまう。どう考えても“何十年ぶり”という表現は不適切であり、“十年以上ぶり”が適切だと頭によぎった。
卒業アルバムに目を通した後は学生時代の思い出に浸ってしまう、当時は卒業文集を書くのも面倒で担任の相川先生に怒られながら渋々書いたのを思い出す。まぁ、書いているとそれなりに真面目になってくるもので、書いてはみたが将来の夢など特にない冷めた小学生だった私は、その当時思ったことを思ったままに書いた。「適当に書くと大人になったときに後悔する」と言っていた相川先生の発言は正しいもので今となっては夢も希望も抱いていないつまらない子供だったなと鼻で笑って思い出せるいい機会になっていると思う。一つ疑問に思うのは“普通の漫画家”とは何をもって普通と考えていたのだろうか、“普通”の漫画家は一般的に“普通にみんな知っている漫画の作者”を指すのではないか?有名になっていれば凡人ではないだろう。
とそんなことを考えながら卒業文集を読んでいるのもつかの間、出勤の時間が迫ってくる。
***ピーーピーーピーー***
携帯が奇声を発する、“そろそろ家を出ないと会社行きの電車に間に合わなくなるぞ” のアラームだ、今日はたまたま早起きでゆったりと朝を堪能していたが朝から卒業文集なんて読むものではない、昔の思い出や出来事に更けてしまいいつの間にか時間が経過しているものだ。一般的に想像するようなコーヒーを飲み、朝ご飯を食べ、テレビでニュースを見る優雅な朝を堪能していたわけではない、すでに着替えは済んでおり、ベッドに寝そべりながら携帯を片手に卒アルを開いていた、卒アルを適当な場所に置けばあとは靴を履くだけだ。
少し小走りになりながら最寄りの駅まで向かう、結果的に急ぐことになっているのだから早起きが無駄だったと卒業文集を読んでいたことに後悔をする、しかし急いでいたのは特に遅刻をしかけているわけでもなく、ただ単に駅前のコンビニで買うペットボトルのドリンクを選ぶ余裕が欲しかったからだ。小走りになりながらあることに気づく。
---あ、俺、急いではいけない体質だ---
気づいたころには手遅れで激しい衝撃が右肩から体の中心へ走る、何か物が倒れる音、「痛ってぇ」という聞き覚えのない男の声、衝撃が走ったと同時に倒れた私は何とか立ち上がる。よかった思ったより痛くない、大事には至らなさそうだと安心をしていたが倒れている男と倒れながらも後輪が回っている自転車の存在に気づく。そうか、何か倒れた音がしたのは自転車の音で、痛いと嘆いていたのはこの男だと瞬時に判断できた、ただこういうのはパンをくわえた女子高生とぶつかり、当日に転校生としてクラスメートになるのが王道なはずだ、しかし私は社会人だ、ということは本日付で入社することになる社員との衝突が妥当か?、最近はこのネタも古く宇宙人やらヤクザやら、様々なものと角でぶつかる時代になっている。
私はこんな時に何を考えているんだ?漫画の読みすぎと某水色のSNSのし過ぎだ、そう思いながら口を開けた。
「大丈夫ですか?」
え?大丈夫ですか?なぜ私がこの男に謝罪を?とっさに謝罪の言葉が出てしまった自分に驚く、私はぶつけられた側だ、あくまでも私が謝罪を受ける立場だが先に立ち上がってしまったのは私だ、状況的にこのまま無視して駅に向かうこともできないが謝罪を述べてしまった自分自身が腑に落ちない。
とりあえず倒れているこの男の心配をしていないわけではないが手を差し伸べる間もなく立ち上がってくれた、よかったこの男も大事には至らなかったようだ。
「痛ってぇ、、おっさんごめん、大丈夫か?」
それだけ言って男は倒れている自転車を起こし、立ち去った。
おっさん?私がか?28歳で老け顔ではないのは確かだ、おっさんと呼ばれる年齢ではないし呼ばれる筋合いもない、唖然としているものの男はもう立ち去っていた。
ちょっとまて俺、今は通勤中だ唖然となる暇もない、急がないと本当に間に合わなくなる
不幸中の幸い犠牲になったのは “コンビニで時間を気にせずドリンクを選ぶ余裕” だけだ、駅に着いた私は少々値が張るのを承知で駅に設置してある自販機のお茶を買い、電車に乗る前に一口飲んでから乗車した。
電車に乗りながら先ほどぶつかってきた男のことを考える。
男は一応謝罪をしている、大事になったわけでもない、立ち去って行ったのもごく当たり前の行動で私のような人間が存在しているのを知るはずもない、内心けがの確認をしてくれるなど、もう少し心配をしてほしかった自分がいたことに反省をした。
電車に乗りながらアプリでニュースを見る、クーポンや割引券なども配布されるからその確認がてらにニュースを読む、クーポンがメインなのかニュースがメインなのかわからなくなる時がある。
---まただ---
ニュースを読みながらそう思った、最近のトップニュースは変わらず今の社会問題だ。
現在社会問題になっているのは国民全体が怪我や事故に対して注意散漫になっている傾向にあることだ。
周りが注意しなければ自分が事故に巻き込まれる可能性が上がる、特に私のような人間は10倍、いや100倍気を付けなければならない。自転車や車の事故はもちろん、料理中の刃物のけがなど、普段注意していれば防げる小さな怪我の報告が多発している、その背景には医療費の無償化と医療の発達が絡んでいた。
この世の中、医療の発達で万病が治る。
某海賊漫画のマスコットキャラクターが夢見ている世界だろう、医者が万病の薬と言っても過言ではない。
手足がちぎれようが心臓が止まろうが治療できない怪我や病気は存在しない、医療費も税金で全額賄われている、何かあれば病院ですぐ直してもらえるから大丈夫だよね!というのがあの自転車の男の本音だろう。
万病を治せるとはいっても人間全員が不死であれば人口が増加する一方だ、様々な問題に発展するだろう。
そこで100歳まではあらゆる医療行為にて必ず生きることができ、ある程度の若さを維持できる。
全て医療の発達のおかげだが100歳を過ぎれば “延命” に直結する治療を受けることができないのがこの国だ。生まれる以前から決められているこのルールに疑問視を抱くものは少ない、まして100年間ある程度の若さを維持し人生を謳歌した後、老いる前に死を選択することができる為自身の資産を無駄なく使用できるという利点もある。
このルールに物申す声もあるが、それならば医療に制限を設け平均寿命を昔に戻すまでだというのが国のおえらいさんの言葉だ。
だが、どんなことにも例外がある、色違いのモンスターや規格外の強さなど、ゲームの世界には当たり前に存在する例外だが現実世界にも存在する。
それが私だ。
私は、100年を確証されていない、若さの維持もできない。
一昔前は当たり前だったが現在はそうでない。
周りの人間より早く老いそして死ぬ、避けることのできない運命だ。
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私の会社までの足乗りは遅い
下車してから会社までのこの道が憂鬱なのだ、会社に向かうこの時間も憂鬱だ、定時に帰れたとしても今から約9時間は居たくもない空間に居座らなければならない、自然と足取りが重くなるが逆に帰宅時はとても軽快な足取りとなる。
足取りが重い理由は会社だけではない、もうひとつある。
「お、今日は早かったね」
こいつだ、今声をかけてきたこの上村という女だ。上村は続けて言う
「で、いつデートしてくれるの?」
重い、朝から内容が重い、この最初から全速力の発言に私はついていけない、嫌悪感丸出しの表情で上村を見つめたが全力の笑顔でこちらを見つめている、全くタイプではないが上村と結ばれれば人生ずっと楽しそうだと思いながら我に返る、内心思っているこの感情を絶対顔には出したくない。
この女は朝から好きアピールが過ぎる、過去幾度も私に告白しているだけあるな、いや私にも責任がありそうだ、はっきり断ればいい物を毎回曖昧な言葉で返しているのだから。
「週2回も駅で待ち伏せしてお前も暇だな」
「時間をずらしても意味ないよ、早起き苦手なの知ってるしこれ以上早く来れないでしょ」
「わざわざ早い時間帯からの待機おつかれですわ、もう帰れば」
「仕事終わりにまた待ってるね、並びにいかないといけないし」
「え、無理」
他愛もない会話を繰り替えす、はっきり言うと上村は私のタイプではない、高身長で眼鏡でシンプルな服装を好む女性だ、だがあふれ出す陽キャ感がすごい、学校のカースト上位とは上村のようなことを指すだろう、高学歴な人だが無職でパチスロで生計を立てている。
いつも思うがパチスロはインパクトが強すぎる、パチスロで生計を立てれる事実を私はいまだに信じれないが、幾度も稼ぐ方法を一方的に聞かされ、実際にそれが可能だというのは理解している。
パチスロの機械の挙動や中の仕組み、運で勝つ人も多いが設定6というお金が出続ける設定があること、当たりに繋がりやすい”回転数”というものが存在すること、機械の設定を一番お金が出る "6" にするのはパチスロに搭載されている版権物のキャラクターに関連する日が多いということ、様々な機械があり様々な版権物を導入していること、パチンコ店のイベント日や店長のブログ、同業者も多く開店の1時間前には入店の為に並ばないといけないことや期待値のある店に行くために隣の県まで遠征することや睡眠が足りなくなる時もあるなど、色々聞いた。
パチスロに関し未だに意味の分からないことがたくさんある、話半分で聞いていたというのも原因だが実際に私自身がパチンコにもスロットにも手を出したことがないのも原因だ、だが長い付き合いの上村から聞いてきた情報をまとめるとお金を稼ぐのは現実的だが容易ではない、数々の版権物やアニメに詳しくなる必要がり店の癖を見分ける判断力が必要となることだ、稼げている人は決して運ではなく判断力と知識力、そして情報収集力に長けているのも理解した、お金が出る機械だと分かれば開店の10時から閉店の23時前まで打ち続けないといけないと聞いたときはおどろいたが。
パチンコやスロットというものは到底私には理解できない、しかし理解できないもので人間を差別してはいけないのは充分理解しているつもりだ、だがパチンコとスロットだけはどうしても”悪いこと”という感覚になってしまう、理解し受け付けることができるようになるのはだいぶ先だろう。
吹奏楽部女子や読書女子、低身長でおしとやかな女性が好きな私からすればスポーツに長けている女性が真逆のタイプだった、だが私の感覚からすれば上村も真逆のタイプと言えるだろう、真逆のタイプがもうひとつ存在するとは思いもしなかった。
ん? なぜ私は上村のことを考えている?、いつもそうだ、気付けば考えているのは上村のこと。
まぁ私は鈍感ではないのでこの気持ちはわかる、上村のことを徐々に好きになっているのだろう。
そんなことを考えている間に会社についた、着くまでに上村がペラペラといろんなことを話していたがあまりにも心地の良い声だったのと考え事をしていたせいでほとんど頭に入らなかった。
「じゃあとでね!今からパチ屋並んでくる」
早々と歩き去る上村、会社に入る私。
9時間後には上村がまた会いに来てくれる、そう考えると今日一日頑張れそうだ。
いや、あと1週間は頑張れそうな気がする。
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**キーンコーンカーンコーン**
こんな音は鳴らない、ここは会社だ、これが鳴るのは高校までだろう。
だが私の脳内では鳴り響いていた、長針が12を指し短針は6を指ている、6時ちょうどになる30秒ほど前からパソコン右下の時間を凝視していたから見逃すはずもない、これは定時だ。
今日は珍しく定時で上がれる、私は社員が一人二人とタイムカードを切り退社の挨拶をしているのを確認した後にパソコンの電源を切った、定時には帰りたいが1番乗りには帰れない、30歳を差し掛かっているが一応まだ20代の私にもこの国の”残業をし身を犠牲にしているものが偉い”文化が根付いてしまっているのあであろう、偉いとは思わないが早く退社することによる”頑張ってないやつ”レッテルを張られるのはごめんだ。
まぁこの気持ちも自分なりのとらえ方の問題だ、なぜなら私は18時03分にはタイムカードを切り”お先に失礼いたします”とあいさつまで終わらせてしまっているからだ。
たった3分の差で偉そうなこと言えるものではないなと思いながらも退社をした、上村に会いたい、今日の私は急いでいる。
駅までの道、歩きながらイヤホンを付け曲を流す、最近ハマっている夢を翔ける競馬のアニメの主題歌だ。
周りに知り合いがいないことをいいことにステップをしながら歩いていた、お気に入りの曲というものはどうも踊りたくなる、特にこの曲はまさしく帝王の足踏みのごとく華麗に地面を蹴り走りだしたくなるような曲だ、
「お疲れ様でーす」
部長が軽く歌いながらスキップをしている私の真横を横切っていた。
最悪だ、見られていた。帰路についているのに私の足取りは不思議と重くなった、帰路についている嬉しさより見られた恥ずかしさが勝ってしまっていたからだ。
重い足取りで、駅に着く、だが上村はいない。
周りを見渡すがそれでもいなかった、おそらくパチスロで勝てているのだろう、来ると宣言していたのに来ない場合は大体がパチンコだ。
パチスロで生計を立てているのはよくわかっているが俺よりもパチスロを優先していることに悲しくなった。しかし付き合ってもいない俺がこんな感情を抱くのはおかしいことだ。
一応15分ほど待っていたが来ない。諦めて改札口に向かおうとしたら声が聞こえてきた。
「ちょっとまって!!」
上村の声だ、私は安堵する。
横断歩道の反対側から上村が呼び掛けていた。
いつもの全力の笑顔でこちらを向いている、右手全体を大きく振り少し飛び跳ねている、恋愛ドラマのワンシーンかよと心の中でツッコミをいれてしまった。
彼女はなぜこんなにも元気いっぱいなのだろう、こちらまで嬉しくなってしまう。
私はマスクを着けているのをいいことに少し笑顔になって見せた、普段うれしそうな表情は見せないようにしているがマスクで隠れている今なら問題ないだろう。
そもそも、こんなにも笑いたくンるのはあんなにうれしそうにしている上村のせいだ。
少しばかり、ほんの少しばかり微笑んだ私だが横断歩道の反対側の上村はいきなり手を振るのをやめ静止した、目を細め少しかがみこちらを除くように見つめいる。
「ね!いま笑ってたでしょ」
バレていた、やばい、私は戸惑いながらマスクを目の真下まで上げた。
と同時に信号が青になる。
上村は予想できる行動をとる、あいつのことだ絶対走ってこちらに向かってくる。
戸惑いながら瞬時に笑みを隠した私は駅側に体を向けた、上村に背を向けながらどう言い訳すればいいだろうと必死に考えていた、めんどくさいことになった。
--- バ ン ---
大きな音が私の背後で鳴る。
とたんに聞こえる人々の悲鳴、割れたガラスの音。
私は何が起きていたか分かった、でもそうでなければいいのにと思いながら横断歩道側に体を向ける。
前方が大きくへこんだ小型トラック。赤く染まる道路、増える人ごみ、散乱する鉄くずやガラスの破片、しかし上村の姿は見当たらない。
恐る恐る血の筋を目でたどる。そこには道路に横たわり顔面を道路に密着している上村がいた。
私は震える手で携帯をとり、救急車を呼んだ。
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「リンゴ食べたい」
上村がそう言った、口をあけながら聞いてくることがベタだ。
剥いてあげた、食べさせてあげた、とてもかわいかった。
「あたしたち付き合ってるよね絶対」
うん、私もそう思う。
この話題から話をそらしたい私は無視をした