さいしょの支獣(なかま)
「ああっ! 脳ミソさえあれば、せっしゃは前世の記憶を思い出せるかもしれないでござるのに!」
カカシくんは、ひどく落ち込んだように頭を抱える。
「脳ミソ?」
「はっ。何しろ、せっしゃの頭は空っぽで、とにかく何も憶えられず、考えることもできないのでござる」
カカシくんは帽子を脱いで、頭のワラをかき分ける。
中には、1枚の新聞紙がペラッと入っているだけ。
「せっしゃがこの世界に来たのには、何か使命があるはず。せっしゃはそれを知りたいのでござる!」
カカシくんは、空に向かって熱血に吠える。
うーん、助けてあげたいのはやまやまなんだけど……。
たしか北の魔女の話では、この世界で魔獣を連れて回るには、必ずバケモンボールを使わないといけないらしいのね。
でもって、あたしが持ってるボールは3個しかないし。のちのち、強い魔獣をテイムするために取っときたいし。
あと、言動がちょくちょく主人公ムーブで、ますますあたしの影が薄くなりそうなんだよねー。
「なあドロシー、こいつ困ってるみてえだから助けてやろうぜ」
「あなたはだまってて」
なれなれしくカカシくんと肩を組んでいるキンタローに、ピシリと言う。
リーダーはあたしだし、決めるのはあたしよ。
だから後悔しないように、あたしはちゃんとカカシくんにお断りをいれたの。
「あたしは『エメラルドの都』に行く途中なんだけど、あなたも一緒に来ない?」
「えっ、でござる?」
「どんな願いも叶えてくれる、エメラルドの都の『オズの魔法使い』なら、あなたに脳ミソの1つや2つ、必ずくれるはずよ?」
「まことでござるか!?」
「とっても大変な旅になると思うから、あなたが後悔しなければ、だけど……」
困った時はお互いさまだし、たった1人で知らない世界に放り出される不安は良く分かるもん。
ボールも1個ぐらい自由に使ってかまわないよね。
「おおー。やっぱ、お前はいいやつだな!」
そう言って、ニコニコしているキンタロー。
でへへ、いやあ。じゃなかった。
「ふ、ふん! 別にあなたに誉められたからって、嬉しくもなんともないんだからねっ!」
「急にどうした?」
「脳ミソのためなら、後悔などあろうはずもなし! ぜひ、お供をさせていただくでござる!」
「じゃあ、今からあなたを使役するから、動かないでね」
「御意!」
あたしはトルネード投法から、バケモンボールをカカシくんの顔面にぶち当てる。
ドゴォ!
「ごばあっ!?」
すると、カカシくんの身体が光に包まれて、ピキーンという音とともにボールの中に吸い込まれていったの。
あたしは、そのボールを高らかに掲げて。
「バケモン、ゲットだぜ!」
テーレーレー、テテテテテテー!(バケモンGETのBGM)
「よーし、たしかテイムした魔獣はステータスが見れるんだっけ?」
――――――――――――――――
NAME:未定
種族:魔獣化した案山子
耐久値:2
攻撃力:1
弱点:火
――――――――――――――――
「よ、弱すぎる……」
ずずーん。
あたしはガックリと地面に突っ伏す。
攻撃力1って何よー!
「なんだかよく分からんけど、元気出せよ」
のんきになぐさめてくるキンタロー。
くーっ、あたしの気も知らないでー!
あたしが文句を言おうとした、その時。
『魔獣の暴走だーっ!』
「!?」
遠くの方で、叫び声が聞こえた。
その方向を見ると、田園を突っ切りながら、白い魔獣が数十匹の群れをなして迫って来てる。
「ありゃあ、ウサギか? 角が生えてて、やけにデッケえなあ」
目を凝らすとキンタローの言うとおり、突っ込んで来るのは額から一本の角が生えたウサギたち。
あれは、RPGで良く見る『ホーンラビット』?
(ドロシーどの、あれはせっしゃにまかせてもらえぬでござるか?)
とつぜん脳裏に響く、カカシくんの声。
「えっ、カカシくん? どこからしゃべってるの?」
(せっしゃは今、ボールの中からドロシーどのの精神に直接語りかけているでござる)
ええっ? 魔獣をテイムすると、そんなことができるようになるの?
(さっそくでござるが、せっしゃに名前をつけて召喚してほしいでござる)
「わかったわ! 『カカシ』と『砂布巾』、あなたの名前はどっちがいい?」
(『カカシ』でお願いするでござる)
「支獣召喚! 出でよ、カカシくん!」
ワラワラッ!
不思議な効果音とともにあたしの呼び声に応え、カカシくんが飛び出してくる。
そして。
「秘技、『ワラの矢』でござる!」
ビシュシュッ!
カカシくんが右腕を振ると、何本ものワラの針が放たれて、ホーンラビットの群れに突き刺さる。
ギギーッ! と悲鳴が上がり、バタバタと倒れる角ウサギ。
それでも生き残りの十数匹が、勢いを止めずに突き進む。
「もういっちょでござる!」
返す刀でカカシくんが左腕を振るうと、再びワラの飛矢がホーンラビットに雨やあられと降り注ぎ、ウサギをハリネズミのような姿にする。
ズシャシャーッ!
ついに全ての魔獣が倒れ、暴走が停止まった。
「せっしゃ、離れ業が得意なのでござる」
そう言って、カカシくんは早撃ちガンマンよろしく、銃に見立てた手に息を吹き掛けるジェスチャーをする。
すごいわ! カカシくんは遠距離攻撃特化型だったのね。
弱いなんて言っちゃってごめんなさーい!
(気にしないで良いでござる。せっしゃが非力なのは本当のことでござるゆえ)
カカシくんは、またあたしにテレパシーを送ってくる。
えっ? もしかしてあたしの心を読んだ?
えーっ! ずっとこんな感じなら、プライバシーもへったくれも無いじゃない!
「その心配はご無用でござる。相手に念を送らなければ、考えていることは伝わらないようになってるでござる」
「あ、そうなのね」
良かったー。うかつにエッチい事を考えられなくなるかと思ったよ。ひゅーう。
こうして、あたしに頼もしい仲間ができたのでした。
「ドロシー、これ今日の晩飯にしようぜー。丸々太ってうまそうだ!」
と、さっそくホーンラビットをマサカリでさばこうとするキンタロー。
さすがは肉弾戦系主人公。見た目どおり『食いしんぼう』属性も実装してるんだね。
はっ!? もしかして、悟◯やルフ◯の後がまを狙ってるんじゃ……。
まあ、それはともかくとして、魔獣って食べられるの?