転生者?との出会い
雲一つ無い、とっても青い空!
そういえば、東の地方は晴天の日が多いんだって。
そして、青色が大好きで農業が盛んなマンチキンの国は、道の両脇に青い柵を連々と並べてあって、その向こうには青々とした田園が広がってるの。
あたしとトトは、一面の青い風景を楽しみながら、レンガの道を歩いているんだけど。
「なあドロシー、おいらのお嫁さんになってくれよー」
「あなた、いつまでついてくる気?」
マサカリかついだ赤い前掛けの少年。キンタローがいつまでもあたしたちの後ろをつけてくる。
あーあ。カッコいい勇者が来てくれるって聞いてたんだけど、全然あたしの好みじゃないもんなあ。
8日以内だから、返品・交換って効かないものかしら?
そりゃあ、それを差し引いたって、強い人が一緒にいてくれるのは心強いよ? なんかもう、西の魔女に目をつけられちゃってるみたいだし。
でも、それがこんなお尻丸出しのド変態だと、あたしの貞操の方が心配になるよ!
何より、一番気に食わないのが。
「あなたって、ずるい!」
「?」
「なんで、北の魔女からそんなチートを貰ってるの? あたしなんか、大した能力を貰ってないってのに!」
あたし、一撃でゴーレムチョンパするような、圧倒的な能力が貰えるなんて聞いてないよ!?
「『ちーと』ってのが何か分からんけど、おばさんからは何ももらってないぞ」
「えっ?」
「おいらが力持ちなのは、ずっと山で動物たちと一緒に修行してたからな。あんな土の人形なんて、ちょちょいのちょいだ!」
ムキャキャッ! と、ボディビルのようなポージングをするキンタロー。
えー? あれって異世界転移のボーナスじゃなくて自前なの?
じゃあ、こいつは悟◯やル◯ィみたいな、肉弾戦系の主人公キャラってこと?
「あたしは認めないわ!」
「うん?」
「今の漫画やアニメじゃ脳筋キャラだって、もうちょっとシュッとしてるわよ。80~90年代ならともかく、流行りじゃないから今すぐやせなさい」
「お前、急にムチャな事を言うなあ」
むむむ、こんなナチュラルボーン主人公野郎なんかと一緒にいたら、ホントにあたしの立場が無くなっちゃうじゃないの。
ただでさえ、こちとらモブキャラだってえのに。
「あっ、そうだわ! あたしがこれで、あなたよりも強い魔獣を使役すれば良いじゃない!」
「おお?」
あたしは、赤白ツートンカラーのバケモンボールを天に掲げる。
「そしていつか、あたしは神獣バハムートをゲットして、魔獣マスターを目指すことにするわ!」
「『神獣バハムート』かー。しょう油かけて食ったらうまそうだな!」
「あんた、神獣を何だと思ってんの!?」
かけるなら、タルタルソースに決まってるじゃないの。
まったくもう。
『もしもし……、そこのおじょうさん……』
「ん? 何か言った?」
「いや? おいら何も」
「え?」
あたしはキョロキョロと辺りを見まわす。この辺はトウモロコシ畑かな。
そして、ここにいるのは、あたしと、トトと、変態と、ワラでできた1体の案山子だけ。
だよね?
「もしもし、そこのおじょうさん。せっしゃをこの棒から外してもらえぬでござるか?」
いきなり、棒に張りつけられたカカシが、モゾモゾと動きだしたの。
「きゃっ!? カカシがしゃべった!?」
あたしは思わずキンタローの背中に隠れて、おそるおそる様子を見る。
すると。
「おどろかせてもうしわけない。せっしゃ、けっしてあやしいものではござらぬ。こう見えて、せっしゃは『異世界転生者』でござる」
「えっ?」
*
あたしたちは、カカシくんを希望どおりに地面に降ろしてあげたの。
使い古しの青い帽子と青いポンチョを着た、ぶっちゃけスナ◯キンぽい彼はうーんと大きく伸びをする。
たしか、『意思を持った無生物=魔獣』だって話だから、このカカシくんは魔獣ってことになるんだよね?
「いやあ、たすかったでござる。1人ではどうにもできなくて困っていたところでござる。ほんとうに恩義をかんじるでござる」
あらま、コミカルな見かけなのに礼儀正しい。
大したことしてないけど、こんなに感謝されると気持ちが良いね。
「あなた、さっき『異世界転生者』って言ってたけど、くわしく話を聞かせてくれない?」
「はっ。せっしゃはもともと人間だったみたいなのでござるが、……あれっ? 今、何の話でござったっけ?」
「さっきまでしゃべっていたのに?」
不思議そうに首をかしげるカカシくんに、あたしは話をうながす。
「あなたが元は人間で、なんでカカシに転生してるのかって話よ」
「おお、そうでござった。ところが、さっぱり前世の記憶が無くて、ほとんど何も覚えてないのでござる」
「えー? じゃあ、あなたのお名前は?」
「それも記憶がぼんやりで。たしか、何とか『くろう』と呼ばれていたような……」
「『かかし』じゃないの?」
忘れすぎでしょ!? 自分の名前くらい憶えとこうよ。
「せっしゃは、せっしゃにどこかで生きていて欲しいという『皆の願い』を受けて、この世界に転生したというのだけは憶えているのでござるが……」
そう言って、どこか遠いところを見つめるカカシくん。
へー、転生した理由がやけにカッコいいじゃないの。
なんか、主人公っぽくてうらやましいなあ。
こちとら意味も無く異世界に連れて来られたってえのに、べらぼうめい。