来襲! 七匹の子やぎのオオカミ
「狼!? オオカミなんでっ!?」
えーっ? 強くてカッコいい勇者様を召喚してくれるって言ったのに、まさか北の魔女に詐欺られた?
あっ、でも、あの狼が北の魔女が言うところのカッコいい勇者という可能性が微レ存ね。
もしかしたら、満月の夜に美少年になったりする逆狼男かもしれないわ。
「あなたは、逆狼男ですか?」
「何を訳の分からん事を言ってるでがんす?」
なによ、がんすって。いつの時代のオオカミ男よ。
「あっしの名は『セブン』! 『七匹の子やぎ』のオオカミでがんす!」
「えっ!?」
「あんたが『予言書』のドロシーでがんすかー。見るからに肉が柔らかくて、旨そうでがんす。さっそく喰わせていただくでがんす」
七匹の子やぎって、あの有名な童話の?
そして、あたしを喰うってガチの意味? それとも性的な意味?
「いっただっきまーす!」
鋭い牙を光らせながら、大口を開けて襲いかかってくるオオカミ。
ガチの方だわ! と怯んでいたら、黒い影がワンと一声鳴きながらオオカミに果敢に突っ込んで行く。
「トト!」
「イテテーッ!? なんなんでがんすか、この犬は!?」
トトに鼻面をガブッと噛みつかれ、七匹の子やぎのオオカミは大きく隙を見せる。
ありがとう、トト! これは、魔獣ゲットのチャンスだわ!
あたしはすかさずポーチから赤白のツートンカラーの『バケモンボール』を取り出すと、トルネード投法で振りかぶる。
「バケモン、GOッ!」
ヒュンッ、ドゴアッ!
「ごぶう!」
あたしが投げたバケモンボールは、七匹の子やぎのオオカミのお腹に命中したけど、何の反応も無く地面にポトリと落ちる。
あれ、ゲット出来ない!?
バケモンボールは魔獣をテイムできるんじゃなかったの?
「ふんっ!」
オオカミが顔を振ると、引き剥がされたトトはドサッと地面に叩きつけられる。
「ああっ、トト!」
「ゲッヘッヘ、あっしは『魔獣』じゃなくて『獣人』でがんす。バケモンボールは効かないでがんすよ」
「そんな!?」
そういえば、この世界の『魔獣』って、魔法の影響で変異した獣と、魔法の力で意思を持った無生物とかの事だったっけ?
犬みたいなふつうの動物や、人と動物の特徴をあわせ持った『獣人』は、魔獣とは違うからテイムできないって、北の魔女が言ってたような。
「メインディッシュに犬までついてくるとはツイてるでがんす! 2匹まとめていただくでがんすー!」
ジリジリと詰め寄ってくる、二足歩行の黒毛のオオカミ。
あたしはトトを抱きかかえてズリズリと後ずさりながら、もうダメかもと諦めかけた、その時。
『女の子をいじめるのは、やめろっ!』
ギュオンッ!
「!?」
オオカミがバックステップで跳び退さると、そこへ飛来してきた大きな鉞がドスンッ! と地面に突き刺さる。
えっ、何っ!?
あたしとオオカミがいっせいにマサカリが飛んで来た方を向くと、そこにいたのはあたしと同じ年頃の1人の少年。
カラスの羽根を思わせる艶やかな漆黒の髪、意志の強そうな瞳に整った鼻梁。
だけど、髪型はおかっぱで肥満体?
さらに『金』の文字が刺繍された前掛けを、素肌の上に直に身につけている。
それを見たあたしは、思わずこうツッコんだわ。
「なんで、裸エプロンーッ!?」
「お前がドロシーか? なんか襲われてるみたいだから助けてやるぞ」
「えっ? なんで、あたしの名前を?」
少年はゆっくりとあたしに近付くと、重そうなマサカリをひょいと担いでオオカミと対峙する。
「こいつはおいらにまかせて、お前は危なくないようにどっかに隠れてろ……って、あれ?」
少年が振り向いた時には、すでにあたしはダッシュでその場を離れていたわ。
だって、裸エプロンにマサカリよ? 背中を見たらパンツはいてなかったのよ!
いやーっ! ぎいゃあーーっ!
おかされるーっ!!
あたしは『マサカリかついだド変態』から逃がれるべく、トトをしっかりと胸に抱いて、黄色のレンガの道を一目散に走り続けたの。
こう見えてあたし、逃げ足にはけっこう自信があるんだから。
それなのに。
「なんで、そんなに逃げるんだー? あんな奴なんて、あっという間に倒してやるのに」
「!?」
ズドドドと赤いエプロンの変態が、砂煙を上げながらすぐ後ろを追いかけて来てたの。
うそっ!? デブなのに、なんでそんなに足が速いの?
「そんなにおいらから離れんなって、またお前を探すのが大変じゃないかー」
ひいやあああーっ! まわされるーっ!!
あたしは全力を振り絞って引き離そうとしたんだけど、赤い悪魔は軽々とあたしに追いついて並走して来る。
「あっ、もうダメ……」
力尽きたあたしは、とうとう地面にへたりこんだの。
息も切らさず、のっしのっしと近寄ってくる変態男にあたしはもう為す術も無くて。
ああっ、あたしはここでまわされるのね。
着物の帯を引っ張られて、クルクルクルあーれーとまわされるんだわ。
こんなことになるなんて、あたしもおとぎ話のヒロインみたいに素敵な恋がしたかったなあ……。
だけど、目の前の少年は意外にも、そしてとんでもない事を言ってきたの。
「なあお前、おいらの『お嫁さん』になってくんねえか?」
「ふえっ?」