テンプレどおりにギルドで一モメ
『ブレーメンの音楽隊』
昔むかし、あるところにロバとイヌとネコとニワトリがいました。
飼い主に追放され、あるいは食べられようとしていた彼らは、ブレーメンの町の音楽隊に入ろうと新天地に向けて旅立ちます。
旅の途中、4匹が宿を借りようと訪れたのは、なんと盗賊団が住まう家。
4匹は作戦を立てると、盗賊のねぐらを乗っ取り、さらに戻って来た奴らを返り討ちにしました。
けっきょく4匹はブレーメンまで行くことはなく、盗賊から奪った家と財宝で、楽しく歌って暮らしたとさ……。
*
引き続き、冒険者ギルドにて。
わいわい、がやがや。
ガハハハ、がやがや。
「むむむ……。楽してたくさんお金をもらえる仕事ってなかなか無いもんだねー」
ギルド仕事の依頼が張り出された、掲示板とにらめっこをするあたしとキンタロー。
冒険者登録をしたあたしたちは、さっそくホーンラビットの角をギルドに引き取ってもらったんだけど、手に入り易いアイテムらしくて、あんまり高く売れなかったの。
全部売っても、キンタローのマントを買ったら、後はほとんど残らないくらい?
だけど、今のうちにエメラルドの都までの路銀を稼いでおきたいから、すぐできて良い感じの依頼がないか探してるってわけ。
ギルドの仕事は大まかに分けると『討伐系』『護衛系』『捜索系』『採集系』『雑用系』ってところ。
手っ取り早く稼げそうなのは、『討伐系』の大型モンスター退治なんだけど、そういうのは『ビジネスクラス』以上が対象になってる事が多いみたいね。
ちなみに、冒険者ギルドのクラス分けの基準はこんな感じ。
ファーストクラス:その名のとおり、一流の冒険者。
ビジネスクラス:本業で冒険者をやってる人。
エコノミークラス:新人冒険者。または、副業としてギルド仕事をしてる一般市民とか。
『エコノミークラス』ができる仕事は、雑魚モンスター退治や『採集系』や『雑用系』みたいなチマチマしたものばっかり。
まあ、素人に危険な仕事はさせられないっていう配慮もあるかもしれないけど。
「『捜索系』の貴重アイテム探しは見つかる確率が低いし、『雑用系』じゃ最低賃金しかもらえないし……」
するとキンタローが、1枚の依頼書を指さしたの。
「おっ! ドロシー、おいらこれがやりたいぞ!」
えっ、うそっ? キンタローって字が読めたの?
ずっとぼーってしてたから、てっきり脳筋字が読めないキャラだとばかり思ってたのに。
あたしはキンタローがやりたいって言ってるギルド仕事の依頼を見る。
どれどれ……?
『急募! 化け物カエル退治』
期間:今夜
対象クラス:不問
募集人員:制限なし
報酬:日当に加え、第一功を上げた者には、我が国の『姫』との結婚を約束する。
依頼者:国王
「ええっ!? お姫さまと結婚ですって!?」
「武者修行ができるうえに、お姫さまがお嫁さんになるってんだから、一石二鳥だろ?」
「いや、それはたしかにそうだけど……、ええ?」
国王からの依頼だけど、条件も報酬も破格過ぎない?
あたしが依頼書を二度見、三度見していると。
「ブヒヒヒヒンッ! 身の程知らずな新人がいるぜメーン!」
いきなりあたしたちの背後から、馬のいななきのような笑い声が掛けられる。なによ、このラッパーみたいなしゃべり方。
「うわっ!?」
あたしが振り向くと、そこにいたのはロバの顔とギターを持つ大男。
鳥の羽を飾った幅広帽子とハデハデな服をまとった、例えるなら吟遊詩人のコスプレをしたロバ人間。
ロバの獣人はブヒヒンと鼻息を荒げながら、あたしたちに近寄って来ると、ダンッ! と掲示板を叩いて威嚇して来た。
「こりゃあ、俺たちの仕事だ。さっき冒険者登録したばかりのガキどもが、大型依頼に手を出してんじゃねえぞメーン!」
なになに? このド◯キホーテで売ってそうなマスクをかぶったような、エラそうな奴は?
「えー、でもこの依頼はクラス不問で、人数制限なしって書いてありますよ? 多人数協力プレイじゃないんですか?」
「こういう依頼はなあ、ビジネスがやると相場が決まってんだ。実力もねえエコノミーは、大人しく引っ込んでろメーン!」
「そうよそうよ、ケガしないうちに帰った方が良いわよ。メスガキとおデブちゃん?」
「お子ちゃまはお家で、ミルクでも飲んでるにゃー」
「コケコッコー」
その後ろでは、ツインテールみたいに耳が長い犬顔の女獣人と、猫の獣人とニワトリの獣人が酒を飲みながらゲラゲラ笑ってる。
あ! はっはーん、これはファンタジーのラノベで良く見る、性質の悪い先輩冒険者の『新人いびり』ってやつだね?
どーせ、こういう奴らはコテンパンにざまぁされて、さっさと退場するのがオチね。
かわいそうだから、何を言われたって広い心で許しちゃおうっと。
カモーン! 悪口!
「何ニヤニヤしてやがんだ、このドブス、メーン!」
あたしはヘナヘナと膝からその場に崩れ落ちる。
「おおっ? どうしたドロシー?」
「生まれて初めて、ブスって言われた……」
そりゃあ、あたしは鼻ペチャでのっぺりした顔よ?
でも、せいぜい十人並みでしょ? 地味顔ならまだしも『ブス』はあんまりよー!
「もうやだ、おうち帰る……」
カンザスだから帰れないけど。
「こらーっ! ドロシーはブスなんかじゃないぞ!」
泣きそうなあたしをかばって、キンタローが前に立つ。
そうだ、言ってやれ言ってやれ!
「おいら、はじめてドロシーを見た時は、天女が舞い降りたのかと思ったぞ!」
えっ?
「それから、こいつはとても気立てが良いんだ。困ってるやつには優しくするし、自分を危険にさらしても人の事を守ろうとするし……って、どうしたドロシー、顔真っ赤だぞ?」
「そんなに誉められたら、恥ずかしいでしょーが!」
誉められ慣れてないから、照れくさいのっ!
分かれっ! 乙女心を!
「なんだ、てめえらアッチッチーなのかメーン?」
「『アッチッチー』ってなんだ?」
「言い方が古いわ!」
それを言うなら、ラブラブでしょ! ラブラブでもないけど!
……うん。でもまあ、キンタローのおかげで元気が出たよ、ありがとう。
「ていうか、いきなりカラんで来て、あなたたちはいったい何なの?」
「知りてえならば、教えてやるメーン」
「いや、別に知りたくは無いけど」
「俺たちは泣く子も黙るビジネスクラスパーティー、『ブレーメンの音楽隊』だメーン!」
ビロローン!
ギターの音とともに、4人は戦隊ヒーローみたいなポージングを決める。
えー? これがあの有名なおとぎ話の、『ブレーメンの音楽隊』?
『おお、あれがマンチキン王国の最強パーティー候補の一角……』
『ロバのロバートを中心に、吟遊詩人だけで構成されてるという』
『ウワサでは、あの悪名高い盗賊ウルフ団の拠点を1つ潰したらしいぞ』
モブ冒険者たちの解説じみたヒソヒソ話に、うんうんとご満悦な4人組。
だけど。
「全員、吟遊詩人だなんて、パーティーのバランス悪すぎない?」
「ああん!?」
「あと、昔から気になってたけど、あなたたちはブレーメンに行ってもいないのに、なんで『ブレーメンの音楽隊』を名乗ってんの? 自分で言ってて恥ずかしくない?」
ズバビシッ!
「げげえっ!? てめえ、なんでそれを!?」
『えっ? あいつらブレーメンに行った事ないんだって?』
『うわ、どんな気持ちでブレーメンの音楽隊を騙ってたんだろ』
『キモっ!』
モブ冒険者たちの悪意に満ちたヒソヒソ話に、4人組は顔を赤らめて、プルプルと肩を震わせる。
「ぐぬぬぬぬっ! てめえら、ただじゃおかねえ! ぶっ潰してやるメーン!」
今にも飛びかかって来そうな獣人たちに、思わずあたしは身構える。
その時。
『ピンポンパンポーン。本日15時から、化け物カエル退治の説明会を行いますので、受注をされた冒険者の皆様は、中央広場にお集まりください。くりかえします、本日……』
外からチャイムの音と、放送の声が響いてくる。
すると、4人組は急にワタワタとあわて出す。
「げっ、忘れてた! こんな、しょうもない事してる場合じゃねえメーン!」
「早く行かないと、良い場所が取られちゃうわ!」
「お前ら、命拾いしたにゃー」
「コケコッコー」
そう言って、ブレーメンの音楽隊はドタバタとその場を去って行った。
あいつら、いったい何だったの?
「彼らとやりあうなんて、勇気がありますね。スッキリしました」
すると、ギルドの受付にいたカッチリ眼鏡のお姉さんがやって来た。
「いやあ、こういうのは良くある事なので、慣れてまして」
ギルドでモメるのは、テンプレだし。
「『ブレーメンの音楽隊』は、元いたパーティーを追放された乱暴者の集まりなんですよ」
「乱暴な吟遊詩人って」
「ブレーメンだけに態度は無礼ですが、なまじ腕が立つだけに、私たちも手に負えなくて困ってるんです」
ふーん。ラノベだったら、パーティーから追放されたらすぐ主人公なのに。意外とテンプレどおりにいかないもんだね。
「もうすぐ『化け物カエル退治』の受付を締め切りますが、あなた方も受注されますか?」
「あ、お願いします」
*
「うわー、やっぱり出遅れちゃったねー」
カエル退治の受付を終えたあたしたちは、王都ファミチキンの中央広場にやって来た。
どこを見ても黒山の人だかり。
それもそのはず、マンチキン王国の王様が直接、今回の依頼の説明をするらしくって、関係ない一般市民も集まってるみたい。
全然前が見えなくて、あたしがピョンピョンしていると。
「ドロシー、おいらが肩車してやろうか?」
「それはちょっと……」
肩車したら、あたしのおまたでキンタローの頭を挟む事になるんでしょ?
それは、なんかエッチいよ?
なんとか広場に設置された舞台を見ると、そこには背が低くて青いローブを着た王様と、背が低くて青いドレスをまとった、可愛らしいお姫さまがいたの。
「うわっ、すっごいロリ巨乳!」
何より目を引くのは、開いたドレスから見える豊かな胸元。
マンチキンの女性は、年齢を重ねてもずっとチビッ子に見えるらしいけど、あのお姫さまはいったい何歳だろう?
合法ロリかな? 違法ロリかな?
「あれが、この国のお姫さまかー。おいら、ちょっくら行ってくる!」
「えっ? 行くって、どこに?」
あたしの疑問を聞くか聞かないか、キンタローはドゴンッ! とその場からジャンプすると、人の群れを一気に飛び越えて、舞台にいるお姫さまの目の前にズダンッ! と着地する。
そして、キンタローはとんでもない事を言いだしたわ。
「なあお前、お姫さまだろ? おいらのお嫁さんになってくんねえか?」
うえええーっ!! いきなり!?