王都ファミチキン
次の日、とっても気持ちの良い快晴の朝。
「本当にいいの? あなたにとっては、東の魔女の形見になると思うんだけど」
あたしはお菓子の家の玄関先で、魔女のホレさんに『銀のくつ』を渡そうとしたの。
すごい魔法の力が秘められてるって話だったし、モブキャラのあたしには過ぎたモノだと思うし。
だけど、ホレさんは首を振り。
「いや、それはお前さんのものだ。東の魔女様が命を懸けてお前さんを召喚したのも、銀のくつがお前さんの手に渡ったのも、きっと運命に導かれての事だろう。気にせず遠慮なく使うがよい」
うーん、ぜんぶベートーベンみたいに『運命』だけで片付けられるのもなんだかなー。
まあ、このくつにも愛着がわいて来たから、そう言ってもらえるのはありがたいけど。
「ほれっ、私のお古だがこれもお前さんにやろう」
ホレさんは、茶色の皮革で出来たおしゃれな背負いカバンを出してくる。
「これは?」
「そいつは、『アイテムボックス』さ。見た目は小さいが、ちょっとした倉庫ぐらいは物が入り、重さも変わらず持ち運びができる。あと、中では時間が経過しないから、食糧とかを腐らせずに保管する事ができるぞ」
「えっ!?」
キターッ!
異世界モノのお約束、アイテムボックス!
RPGの矛盾の1つ、運搬の悩みを一発で解決してくれる、まさに未来の世界の猫型ロボットのアレ!
「うわー! マジでうれしい、ありがとう! これで旅がすっごい楽になるよ」
「お前さんたち、次に行く所のアテはあるのかい?」
「ううん。とりあえず西の方に向かうつもりだけど」
「ならば、マンチキン王国の王都『ファミチキン』に行くが良い。この辺では一番栄えた街であるし、昔の魔女様とマンチキンの王様はズブズブの関係だったから、なにか有益な情報を得られるかも知れないからな」
ズブズブの関係って、なんかエッチいね♡
「ドロシーさん、キンタローさん、カカシさん、トトさん。いろいろお世話になりました」
「道中、お気をつけて」
「うん! ヘンゼルくんもグレーテルちゃんも、魔法の修行がんばってね!」
「今度は、お前たちが作ったお菓子を食わせてくれよ!」
「また、いつかお会いするでござる」
「ワン!」
「「はい!」」
こうして、あたしたちはお菓子の魔女たちに別れを告げて、次の目的地に向かって出発したの。
目指すは、マンチキン王国の都『ファミチキン』!
もらった背負いカバンには、お土産にもらったたくさんのパンやお菓子。
昨日の晩ごはんの残りのホーンラビット肉20体分と、キンタローが捕まえたジャイアントボア肉を詰め込んで、しばらくは兵糧の心配はいらなさそう。
これだけ入って重さが変わらないんだから、アイテムボックスってホントに便利!
「ドロシー、昼メシは昨日獲ったヘビを蒲焼きにして食おうぜー」
「あなたの国は、カバを食べるの!?」
すごい食文化だねっ!?
*
あたしたちが田園地帯を突き抜けて、黄色いレンガの道を半日ほど歩くと、遠くに青いお城が見えてきた。
この辺までくると、お城に向かう旅人や商人の姿もちらほら。
「なんだ? みょうちきりんなカッコしたやつらばかりだな」
「あなたがそれを言う?」
みょうちきりんかは分からないけど、鎧カブトで武装した人たちがけっこういる。魔法使いや僧侶っぼい格好の人もいる。
いかにもファンタジーの世界に来たって気分。
そして、王都にだんだん近づくにつれて、その全容が明らかになって来たわ。
まず、びっくりするほどバカでっかい!
石積みでできた城壁は、城下街をぐるっと取り囲むようにできているみたい。
この世界のお城はだいたいこんな感じで、凶悪な魔獣が外から入って来ないようにしているらしいね。
原作もアニメも見たことないけど、進撃なんちゃらのウオールなんちゃらって感じ?
あと、壁はぜんぶ青一色に塗られているわ。
さすが、青色大好きマンチキン王国!
あたしたちは、入国審査みたいなのを受けるために、城門の前の列に並んで順番待ちをする。
ようやく、あたしたちの番が来たと思ったら。
ピピピーッ!
「そこの君たち、止まれっ!」
えっ、えっ!?
長い棒を持った兵隊さんたちに囲まれちゃったよ? あたし、何か悪いことした!?
もしかして、取調室に連れてかれて、太陽にほえなきゃいけないの?
「カツ丼はまだですか?」
「君は何を言ってるんだ?」
警備の隊長さんっぽい人が、カカシくんをビシッと指差す。
「そこの魔獣!」
「せっしゃのことでござるか?」
「魔獣を放し飼いにしたまま、都市に入っちゃだめじゃないか! 君たちバケモンボールは持ってるのか?」
あたしは慌てて、赤白ツートンカラーのボールを取り出す。
「は、はい! ここにあります」
「うむ、ならばきちんとボールに入れておきなさい。もしその魔獣が人を襲ったら、責任問題になるからな」
「えっ? でも、カカシくんは礼儀正しくて、とっても良い子ですよ。人を襲ったりなんかしません」
「しないでござる」
大人しく一本足のポーズを見せるカカシくんだけど。
「ふむ。だが、魔獣は人々に恐れられる存在だから、むやみに出しっぱなしにしておくのは良くない。討伐されても文句は言えないぞ」
「そんなあ」
この世界では、魔獣ってそんなあつかいなの?
あのゲームみたいに共存共栄してる訳じゃないんだね。
「ドロシーどの、せっしゃのせいでご迷惑をかけるわけにはいかぬでござる。せっしゃを球に入れてほしいでござる」
「ごめんね。せまくるしいかもしれないけど、がまんしてくれる?」
「心配ご無用でござる。実は球の中は一流旅館なみに設備が整ってて、とても過ごしやすいのでござる」
なにそれ、いいなー。あたしも入ってみたーい。
次に警備隊長さんは、ビバッとキンタローを指差し。
「それから、そこの少年! 後ろを向いてみろ!」
「?」
キンタローはきょとんとしながら後ろを向くと、デカいおしりがブルンと現れる。
「なんだ、その格好は! 女性ならともかく、男の裸エプロンはありえんだろ!」
「なあドロシー、おいらの服って変なのか?」
「うん、かなりね」
「もし君が、変態なら門を通すことはできんぞ!」
まずい! このままだと王都に入れないわ。ここはあたしがなんとかしないと!
「これは、民族衣装です」
「どこの蛮族だ」
だめだあ、ごまかせなかった。
「せめて、マントか何かを羽織りなさい。尻丸出しで街中を歩いてはダメだ。近くに武具屋やよろず屋があるから買いなさい」
「買うって言ってもなあ。おいら、金なんか持ってないぞ」
「キンタローなのに、お金持ってないの?」
とは言っても、あたしも無一文なのよね。
北の魔女もあたしたちを勇者っていうなら、50Gとひのきの棒くらいくれればいいのに。
「君たち、何か換金できそうなものはないのか?」
「金目のものと言っても、ホーンラビットの角ぐらいしか……」
「十分じゃないか。『冒険者ギルド』で引き取ってもらえばいい」
「えっ!? 冒険者ギルドがあるの?」
とりあえず、門番から解放されたあたしたちは『冒険者ギルド』を探しながら、青い屋根の街並みと青い石を敷きつめた道路の城下町を歩く。
キンタローは、警備隊長さんからマントを借りて着てる。意外と良く似合ってるね、銀河鉄道9◯9の主人公みたい。
「これを着てたら、ちょっとだけ強くなったような気がするな」
「新しいのを買ったら、返しに行かないとね」
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ITEM:旅人のマント(借用品)
種類:防具
耐久値:+1
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わいわいわい、がやがやがや。
王都ファミチキンは、マンチキン王国の都だけあって、背が低くて青い服を着たマンチキン族の人たちがたくさんいる。
でも、多民族に門戸を開いているから、人間族や獣人の姿も多く見る事ができるの。
わいわいわい、がやがやがや。
賑わいを見せる大通りを進むと、ひときわ立派な建物が現れたわ。
「ほおー、でっけえ家だなあ。熊が50匹くらい住めそうだ」
「単位がおかしいわよ」
そこは、小錦何人分とかじゃないかな? 違うか?
あたしたちは、いわゆるウエスタン扉の入り口をばかかんと開ける。
わいわい、がやがや。
ガハハハ、がやがや。
「うわー、いかにも冒険者ギルドってかんじだね」
建物の中は板張りの壁と床。木のテーブルが乱雑に並べられてて、ゴツくてガラの悪そうな人たちが、ギャハハと笑いながら昼間から酒をかっ食らってる。
あたしたちは、カウンターにいる事務員っぽい、カッチリ眼鏡のお姉さんに話しかけた。
「あのー、ホーンラビットの角をお金に替えてもらいたいんですけど……」
「初めて見る方々ですが、冒険者登録はお済みですか? 冒険者の方でなければ、お引き取りはできませんが」
「えっ、冒険者じゃないとダメなんですか?」
「はい。ですので、先に冒険者登録をされたら取引をいたしますよ」
「えっ!? あたしも冒険者になれるの!?」
キターッ!
冒険者……。それは、テンプレファンタジーには欠かせない、夢の職業!
ギルドで依頼をこなしたり、モンスターを討伐したり、経験値をためてクラスを上げて……。
やっぱりクラスは、ベタな感じでABCとかに分かれてるのかな? それとも、甲乙丙丁の十段階で、新人は癸からかな?
「クラスは『ファースト』、『ビジネス』、『エコノミー』に分かれており、最初はエコノミークラスからのスタートになります」
「なんか、飛行機の座席みたい」




