モブ娘、家ごと異世界転移する
あたしの名前は、ドロシー・ゲイル!
アメリカ合衆国はカンザス州出身の、ピッチピチピチの14歳美少女!
あたしは今、家ごと竜巻にさらわれて、空を飛んでいる最中なの。
いやーっ! ぎいゃあーーっ!
しぬーっ、しいいぃぬーーっ!!
誰か、助けてえええーっ!!
なーんて、はじめは見苦しく取り乱したりもしたけど、さすがに3日も同じ環境にいると慣れるものね。
竜巻で飛んでるっていっても、家がぐるぐる回ってる訳じゃなくて、ふわふわと気球に乗っているみたいで非常に快適なの。
そして、眺めは超バツグン!
窓を覗けば、上は雲ひとつない青空。下に広がるのは敷き詰められた白い雲海。
もう、こんな景色は一生かかっても見れないかも。
いつかは落っこちる時が来るかもしれないけど、それは明日かもしれないし、何年も先の事かもしれないし。
考えてもしょうがないから、あたしは腹をくくって、黒犬の『トト』といっしょに優雅な空の旅を楽しんでいるってわけ。
今日のごはんは何を食べよっかなー?
なんて事を考えていたら。
ピタッ。
あらっ? 家が止まった?
ヒューン!
あれ? なんか下に落っこちてる感じ。
どんどん、重力加速度がかかっているわ。
えっ! えええっ!? ちょっと急すぎない!?
しぬの? あたし、今しぬのっ!?
ちょっと待って! あたし、まだ若いのよ?
こんなにピチピチギャルなのに!
まだ、恋だってしたことないのにっ!
あたしには、王子様みたいな人と大恋愛するって夢があるのに!
あと、『書籍化作家』になってラノベ界を席巻するっていう野望もあるのに、志半ばで潰えるっていうの!?
ひやあああーっ! ぎいいいやぁあーーっ!!
誰か、助けてえええーーーっ!
ゴゴゴゴゴゴゴ、チュドォォーン!!
*
結論からいうと、派手に落ちた割にはあまり衝撃も無く、家もあたしもトトも無事でした。
てへっ、心配して損しちゃった。
「ていうか、ここどこ……?」
扉を開けて外に出てみると、目の前に広がるのは朝露で輝く青い芝生、色とりどりの花が咲き乱れ、木には見るからに美味しそうな実が鈴なりに生っていて。
それはもう、なんというか、おとぎ話のような美しい世界。
「『東の魔女』がしんだぞーっ!」
「救世主が現れたーっ!」
「俺たちは、自由だーっ!」
気づいたら、青い服を来たおじさん達が、わーっと家の周りを取り囲んでいたの。
青い帽子をかぶっていて、不思議な事に大人なのに全員あたしより背が低くって。そして、期待のこもった眼差しで、あたしを見ながら瞳をキラキラさせてるの。
すると、ちっちゃいおじさん達の中で1番偉い感じの人が近付いて来て、かしこまったようにあいさつを始めたわ。
「おおお、救世主様! この度は悪逆非道の東の魔女を倒し、我々を解放してくださってありがとうございます」
「えっ……? えっ? 東の魔女?」
「我々にとってあなた様は、神様、女神様、ゴッド様でございます!」
ぜんぶ同じ事言ってるよ?
「えっと……、あたしが救世主ってどういうこと、ですか?」
すると、そこへ北の国からみたいなBGMが流れ始める。
ラーラー、ララララ、ラーラー。
「それはわたくしが、ご説明いたしましょう」
音楽とともに、白いとんがり帽子と白いガウンを纏った魔法使いのような、ぽっちゃりおばさんが現れたの。
「ようこそいらっしゃいました、のっぺりとした地味なお顔のお嬢さん」
いきなり、ごあいさつだね。
そりゃあ、鼻ペチャとかモブ顔とかは散々言われ慣れてるけどさー。
髪も赤毛でゴワゴワだしー、三つ編みだしー。
でも、一人称視点で黙ってりゃ分かんないんだから、もうちょっとだけ美少女キャラで押し通したかったなあ。
「わたくしは北の地方を守護する、『北の魔女』と申します。コマネチ!」
北の魔女は太ももの付け根を両手でV字型に擦り上げるポーズをしたわ。
もしかして、『北の』にかけたギャグ?
「あたしは、ドロシー。カンザスから家ごと竜巻に飛ばされてやって来ました。一体、ここはどこですか?」
「ここは、東の地方の『マンチキン』の国ですよ」
マンチキン? なんかエッチな響きね♡
「あなたは、東の魔女の召喚魔法によって、元の世界から『異世界転移』をして来られたのです」
「ええーっ!?」
ラノベでお馴染みの、あの異世界転移ですって?
でも、それって魔法陣とかでシュッって移動するものじゃなかったっけ?
なんだか、すっごい物理的に連れて来られたけど。
「あれ? さっき、東の魔女は倒されたって……」
「ああ、東の魔女でしたら、それそこに」
「えっ……? きゃあああああっ!!」
北の魔女が指差す先を見ると、あたしの家の下から女の人の足がにょきーんっと出ていた。
まさか、家が落っこちた時に下敷きになっちゃったの!?
「東の魔女はあなたを召喚した際に、家につぶされてしまったのです」
「自分の魔法でしんじゃうなんて、ドジっ子すぎない?」
「あなたが東の魔女を倒してくれたおかげで、奴隷のように支配されていたマンチキンの国の人々も、牢に囚われていたわたくしも自由になる事ができました」
やっふーっ! と喜ぶ、青い服着たマンチキンの人たち。
あたしがやった訳じゃないんだけどなあ。
まあ、悪い魔女だったのなら自業自得という事で良いのかな?