【ゲラコン3応募作】漫才「熊に出会って」
二人「はいどうもー」
ツッコミ「いやぁもう春ですね! 随分暖かくなってきて。
ボケさんはこの冬どうでしたか? なにか楽しい思い出出来ましたか?」
ボケ「それがですね。実は僕、この冬熊と遭遇しまして」
ツッコミ「またいきなりぶっこんで来ましたね」
ボケ「まあ色々あって無事に帰ってこれたんですけど。ツッコミさんの方は?」
ツッコミ「ちょっとちょっと!」
ボケ「はい?」
ツッコミ「ここまで気になる色々もないですよ。何が色々あったんですか?」
ボケ「えっ、話していいんですか?」
ツッコミ「ええ勿論」
ボケ「そうですねぇ。まあ、その話のほうが僕らの漫才よりウケるかもしれませんしね」
ツッコミ「辛辣〜」
ボケ「あれは僕がログハウスの材料を取りに登山をした時のことなんですけど」
ツッコミ「ログハウス?」
ボケ「ええ」
ツッコミ「なんでまた急に」
ボケ「そろそろ漫才だけじゃ辛い年齢じゃないですか、お互い」
ツッコミ「世知辛い。世知辛いやめよう。熊に会いましょう、熊に」
ボケ「あー、そうですね。
で、いい木材を探してたら、木立の向こうに黒い影があるんです」
ツッコミ「ほうほう」
ボケ「『不法投棄かな?』ってワクワクしながら駆け寄ったわけですよ」
ツッコミ「ワクワクの湧き所ありました?」
ボケ「近づいてよく見れば、どうもソファーじゃない。これがなんと、熊で!」
ツッコミ「おお!」
ボケ「パッと目があった瞬間、僕びっくりして!」
ツッコミ「怖いですもんね」
ボケ「『あれ、オフではシャケ持ってないんだ!』って!」
ツッコミ「そこですか!?」
ボケ「やっぱり少し残念に思うわけですよ。『あれって観光客向けのファンサービスだったんだな』って」
ツッコミ「いやいや、熊さんファンサービスでシャケ持ってるワケじゃないからね」
ボケ「でも確かに今年の流行にはワンポイントのシャケ合わないし、そういうとこ意識してたのかも」
ツッコミ「ファッションでもないの! 餌だからね、あれ!」
ボケ「僕がそんなふうに考えてると、熊が立ち上がってこっちに歩いてくるわけですよ」
ツッコミ「だいぶ下らないことで逃げるタイミング失いましたね」
ボケ「僕慌てちゃって! でもふっと思い出したんです!
有名な、熊と出会った時の対処法!」
ツッコミ「あー、あれですね。でも効果ないって言いますよね。
逆に熊が興味持って近づいてきちゃうって」
ボケ「ほんとほんと。こっちが四股踏んだら寄ってくるもんで、腹を括ってがっぷり四つに組んでね」
ツッコミ「なんで熊と相撲取ってんの!?」
ボケ「子供の頃によくおばあちゃんが教えてくれて」
ツッコミ「いやそれ金太郎読んでくれただけでしょ! 寝る前とかに!」
ボケ「でもツッコミさんの言う通り、効果なかったんですよ」
ツッコミ「でしょうねえ」
ボケ「勝ったけど言う事聞かないの。熊」
ツッコミ「勝ててる時点で凄いんですけれどもね」
ボケ「ひっくり返したのにヌーっと起き上がって、がばーっと口を開けて!」
ツッコミ「わ、わ、わ!」
ボケ「『驚かせて失礼。これ落としましたよ』って」
ツッコミ「滅茶苦茶紳士じゃん……」
ボケ「僕落とし物してたみたいで」
ツッコミ「優しい熊で良かったですね」
ボケ「まあもう一回投げたんですけど」
ツッコミ「恩を仇で返すなぁ、君は」
ボケ「いやでも怖いじゃないですか!」
ツッコミ「だいぶ怖さに時間差ありましたね」
ボケ「だって考えてもみてくださいよこの状況!」
ツッコミ「熊が目の前にね」
ボケ「『この熊さっきまでずっとあそこで寝てたのに、なんで僕の私物持ってんの!?』ってなるでしょ!」
ツッコミ「どこ怖がってんですか」
ボケ「ストーカーかもって思うと怖くなって、咄嗟に上手投げでえいやっと」
ツッコミ「ちょくちょく野生を侮ってますよね、ボケさんね」
ボケ「流石の熊も観念したのか、物だけ置いて逃げましたよ」
ツッコミ「本当に優しい熊でしたね」
ボケ「今思うと惜しいことしたかなと」
ツッコミ「どうして?」
ボケ「アイツに乗って下山したら楽だったはずで」
ツッコミ「金太郎惜しんでんじゃないよ!」
ボケ「でもこれが返ってきたならそれでOKかな」
ツッコミ「ところで何を落としてたんです?」
ボケ「マサカリですよ」
ツッコミ「結局金太郎じゃねえか!」
ボケ「いや未来のログハウスオーナーだよ!」
ツッコミ「どっちでもいいよ! いいかげんにしろ! どうも」
ボケ「いやそこは『漫才師だろ!』って言えよ! 相方やってくんだろ!」
ツッコミ「もういいよ!」
二人「どうも、ありがとうございましたー」