43,終わりにても
体が浮いていた。
浮遊感に驚愕する。
何をしていた。
俺は、セイジの傷を治して。
手が、大きい。
体の大きさが違う。
「レオン」
目の前に、セイジの顔。
「俺は……」
風に巻き上げられる。
ゆっくりと床へ落ちる。
遠くに、横たわる二コラとそのそばで彼を見守るフェリシアがいた。
俺は手を見た。
大きく、力強い手。
髪に触れると、短髪で短い。
指に残った数本の毛が、群青色だった。
「戻っている」
俺は床へへたり込んだ。
床に拳をたたく。
良かったんだ。
これで、これで。
始まりに戻っただけなんだから。
「フェリシア、二コラを殺せ」
セイジの叫びが、脳天を打つ。
俺ははっとした。
フェリシアは立ち尽くし、動かない。
俺は立ち上がる。
走った。
体が軽い。
一歩踏むごとに風のようだ。
ずっと鍛えてきたのだろう。
女の子の体と全く違う。
「フェリシア」
名を呼び、肩に手を置く。
「フェリシア。
フェリシア……
フィー!」
フェリシアが振り向いた。
見開かれた目が絶望の色を帯びていた。
何もしなくてもいい。
何も見なくていい。
そう思った。
セイジが俺に語った言葉を思い出す。
『水差し程度の水でもね、要は使いようなんだよ』
俺は手から水の球体を作り出す。
流れ出た血が衣服を真っ赤に染め上げている。
二コラの目は映ろだ。
ヒュー、ヒューと喉がなっている。
虫の息だ。
「終わりにするよ」
作り出した水球を二コラの頭部へ落とす。
水で頭部を包みこむと、一瞬目が見開かれる。
瀕死の肉体にもがく余裕はない。
倒れたまま、その命は消えていった。
終わった。
背後から、セイジが近づいてきた。
「長かった」
死んだ二コラを見ながらつぶやく。
「本当に長かったよ」
三人三様沈黙する。
それぞれが生きた、自分とは違う人生。
それぞれに失ったものがある。
知らず生きれたら良かったのに。
フェリシアなら、自由。
レオンとしての自由を生きて、今また縛られる現実に返され、絶望せずにはいられないだろう。
俺が失ったものは。
言葉にも今はしたくない。
たった16年でも、その時間は自分の中にくっきりと刻まれている。
その時、崩れる音がした。
見回すと、壁がはがれ落ちんとしている。
ほどなくボロボロと天井の文様が崩れ落ちた。
よく見れば、壁におびただしい皹と、床には亀裂が走っていた。
「よく暴れたものだねえ」
セイジが感心する。
「数秒違ったら魔法陣が崩れおちてて、成功しなかったかもしれないな」
その後、崩れ落ちる塔内部から降りるのは危険だということで、
風魔法を使い、窓から落ちることにした。
幸い、セイジとフェリシアが風魔法を使えるので、俺も運んでもらうことになった。
降りる途中、
「重い。
フェリシアの時と大違いだ」
と、フェリシアが嫌味を言った。
☆
塔の入口に降り立った。
遠くから、歩き近づいてくる影が一人。
ラルフだった。
セイジと、俺と、フェリシアを見つけると、駆け寄ってくる。
一見表情少ない彼の目線が見つめる先に、彼の求めるものはない。
「フェリシア」
そう呼ぶんだ。
いつもそうやって。
俺は天を仰いだ。
「すまない」
フェリシアの声音が痛い。
「元にもどっている」
ラルフはどんな顔している。
直視するのが怖い。
「……そうか」
ラルフの声音は静かだった。
俺は恐る恐る前を見る。
ラルフが、いつもと変わらない笑顔を浮かべいた。
眉だけが少しゆがんでいる。
「そうか良かったな」
いつものように言うのか。
また我慢して。
本当に変わらないな。
「戻れたんだ、ラルフ。
色々あってさ」
無視する俺も俺か。
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