42,小さな懺悔
レオンが身をひるがえす。
と思ったら、目の前に現れた。
瞬きする間に移動してくる素早さに息をのむ。
二コラの姿をしたセイジが持つナイフをいとも簡単にはじき飛ばした。
腕を引かれる。
バランスを崩して、転びそうになった。
その横を、レオンの片足が蹴り上がる。
ドンドン、バンとひどい音が背後から響く。
振り向くと、セイジが後ろに飛ばされていた。
け飛ばされ、転がったセイジが、せき込んでいる。
もう、これは女の子の動きじゃない。
なんでこんなに強くなっているんだ。
この16年、何をして、どうしたら、こうなるんだ。
信じられないよ。
あまりのことに驚き、青ざめていたら、脇に手を差し入れられ、ひょいと持ち上げられた。
「こんなに軽かったっけ」
すとんときれいに立たせられる。
愛嬌のあるいたずらっぽい笑みを浮かべて「すっかりお姫様になっちゃって」とまで言い、俺を見下ろした。
かとすれば、真顔になり「無事でよかった」とつぶやく。
今は、俺がフェリシアで、フィーがレオン。もうそれでいいよ。
にくいほど、男らしく育ってしまって。
レオンの背後にいるセイジが動いた。
手から長剣を出現させ、襲ってくる。
「兄さんは、剣は苦手だったはずなんだけどなあ」
背後も見ないで、レオンはつぶやく。
素早くポケットに手を入れたかと思うと、赤々と光る小石を出す。
セイジの長剣がうねるように流れ、しなる。
真横、一文字。水平に切るよう様に刃がうねる。
レオンが振り向く。
右横から迫りくる剣に、小石を持った拳をぶつける。
切られる。
そう思い、目をつむる。
衝撃はなかった。
目をあけると。
レオンの右腕が青い炎に包まれていた。
その手が剣の刃をつかんでいる。
剣を構えたセイジの目がおののく、
「お前、その炎。
王族か」
「さあね」
レオンが不敵に笑む。
セイジの姿をした二コラが後ろへ飛ぶ。
「なぜ、お前が王族の力を」
「生まれた時から使えるもんで」
「その魔力量も。まるで無尽蔵に炎を出せるかのようだな」
「出せるよ。この塔一つ破壊するぐらいわけないさ。
心中する気はないから、あんたを始末してからフェリシアと降りるよ。
彼女を心配しているやつに届けないと悪いからな」
レオンの手には、赤い小石が二つ。
ぼっと炎が立ち上る。
青い炎が濃さが増す。
濃くなるほどに暗くなる。
炎が夜のように黒くなった。
炎を振り上げようとする。
「待って」
セイジの肉体が焼かれてしまう。
「待って。セイジの帰る場所がなくなってしまうわ」
「セイジって……」
その名に驚き、レオンがひるむ。
その隙を見逃さない。
セイジの姿をした二コラが、踏み出す。
その切先が俺たちに向く。
まっすぐ剣が迫ってくる。
レオンが、ぐっと俺の体を背後に回す。
それより早く目の前が揺らいだ。
剣は突き出されたはずなのに。
俺たちには届かかった。
目の前に広がるのは波紋。
「……水かがみ」
俺は振り向いた。
二コラの姿をしたセイジが両手で水かがみを作り出している。
腹当たりに縦に、まるい水かがみの面が光る。
水かがみが揺らぎ消えた。
二コラの腹部があらわになる。
衣服が真っ赤に染まっていく。
「セイジ」
俺は思わず駆け出していた。
「セイジお兄様」
どさりと二コラの姿のまま、セイジが倒れこむ。
ゲホゲホと鮮血を吐きながらも、身をひねり、あおむけになる。
苦しそうに笑う。心配ないと言いたいのか。
「動いてはダメ」
涙が出てきた。
「動いてはダメよ。
今、治すから。治す……」
差し伸べて、手首をつかまれた。
「ダメだ。
これでいいんだ。
この体は、このまま逝く。
頼む。
魂の入れ替えを……。
僕が死ぬ前に」
背から血が流れ続ける。
「頼む。
忘れたなら、僕が先に口ずさむから
これで元に戻る。
俺も、君も……」
セイジが目を閉じる。
呪文をつぶやく。
その言葉を真似て、俺もつぶやく。
聞こえてくる言葉そのままに続けようとして、言葉が詰まった。
セイジがうっすらと目をあける。
視線でどうしたと問いかけてくる。
脳裏に浮かぶ姿に、ごめんよ、奥深くで謝罪する。
いつも一緒にいてくれてありがとう。
ちゃんと言っておけばよかったのか。
何も言わないで良かったのか。
わからないけど。
俺が俺を想うよりずっと、俺を好きな人。
どうしてこんなにも俺のことを好きでいてくれるんだろう。
不思議だった。
でも、それが心地よくて。
愛されているうちに、これが女の子の幸せなんだと感じた。
包まれているとそれだけでなんでもできる気がした。
ラルフ。ちゃんと好きだって言ってあげれなくて、ごめんよ。
俺は最後の呪文の一節を口にする。
「……『神々が与えし尊き魂をあるべきところで返せよ』」
想いを知っていて、応えなくて。
後悔するのは、きっと君だけじゃないから。
逃げたのは俺も一緒だ。
さよなら。
「『御霊を入れ替えよ』」
最後まで、お読みいただきありがとうございます。
続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、
ブックマークや評価をぜひお願いいたします。




