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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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37,伝えたいこと

 セイジが塔の扉を開けた。

 どうぞと言われ中へ入る。

 背後で、扉がゆっくりと閉まった。


 セイジは、二コラがいると言ったけど。

 

 誰もいなかった。


 遠くで見るより、中は広かった。

 筒状の壁を螺旋状に階段が巻き付いている。


 闇や夜と称するほどは暗くないものの、内部全体を照らす光はない。

 ところどころ開いている小さな窓、いや換気用の穴から漏れてくる光ではこの広さと高さを照らすには不十分だった。


 見回せども、人影はない。

 二コラが待っていると言っていたのに。

 

 見上げると、丸い小さな天井が見えた。

 そこだけが妙に光っている。

 仮にあそこが塔の最上部としたら。

 床が光って見えるっていうのも、何かの魔法なのかな。


 足元は見える。

 階段を上ってみるか。

 待っているか。

 このまま黙って過ぎる時間に苛立っても、仕方ないか。


 動きやすい制服でよかった。

 時間はかかるかもしれないけど、登ってみよう。


 俺は一段目に足をかけた。


 静かだ。

 足音しか聞こえない。

 壁に手をかけ、階段を上る。


 塔の上を目指しながら、

 俺は本当はどこに向かって歩いているんだろう。


 死を回避すること。

 レオンの中にいるフィーにこのフェリシアの肉体を返すこと。

 そう願って生きてきた。

 

 過去の出来事。

 今起こっている事。

 わからないことばかりだ。

 

 俺自身のものすごく小さくて。

 小さすぎて、世界の断片しか見えていない。

 背景もわからず、翻弄されて。

 限られた情報で行動しても、それが良かったのか悪かったのかわからない。


 ただただ、未来はこんな風に俺の前に訪れた。

 その現実のただなかにいて、階段を一歩一歩登っている。 


 もがいていただけだ。

 良い行いか、悪い行いかもわからず。

 もがいていた。


 一人ではなかったから。


 いつもラルフがそばにいた。


 アリアーナと王太子とも友達になって。

 再会したフィーはレオンというただの村人の人生を楽しんでいた。

 幸せそうで、楽しそうで、ほっとした。


 今もって、過去に起こった出来事も一つも理解していない。今起こっていることもわかっていない。

 知らないことだらけの中で、よく逃げずにこんなところにいるもんだ。


 今は何のためにここにいるんだろう。


 フィーのため。

 レオンのため。

 人質の学生のため。

 上にいる不死を欲する司祭のため。


 違う。

 誰も犠牲にしたくないなんて嘘。

 

 失いたくない人は誰か。

 問いかければ、脳裏に浮かぶ。


 あのまま逃げても、捕まるのは分かってた。


 あのまま逃げたら、ラルフは何を投げ出していたかわからない。


 レオンだって、無傷では済まない。


 一度殺された相手に、二度殺される姿を見たくはない。

 フィーを魂を宿したレオン。長年、助けたいと思っていた人。

 

 馬鹿みたいにそばにいて、

 何もいわないで、

 ずっと助けてくれた人。

 ラルフを犠牲に逃げようなんて考えられない。


 前世で助けたかった人と今世で助けてくれた人。


 もう目の前で誰かを失う痛みを味わいたくない。


 自分が殺されるのは怖い。


 でも、もっともっと、大切な人を失うのはつらいんだ。


 弱い俺は、持ち去られるフィーの生首を見ているしかなかった。


 ラルフはまだそんな痛みをしらない。

 大事にして、守って、俺が幸せならいいやって。

 そんな風に割り切っている。


 元に戻っても、生きてればいいとか考えちゃっている。


 大事なものを失ってから、それがどれだけ大事だったかって気づいたって遅いんだよ。


 俺がレオンに戻るってどういうことだと思っている?


 俺の生まれ変わりも、元聖女である母さんの恵みかもしれない。

 帰ってきて。

 確か、そんな風に送り出されている。

 今登っている塔を降りたら母さんに会いにいけるだろうか。

 ただいまって言いにいけるだろうか。

 

 ラルフにも、ただいまって言ってあげないと。


 息が苦しくなってきた。

 まだ半分も登っていない。


 俺はその場でへたり込んだ。


 女の子の体力じゃあ、この階段は攻略できない。


 壁にもたれかかった。少し休もう。


 額から汗があふれてきた。

 止まったことで、体の方が休もうとする。


 息苦しい。

 目をつぶり、両足を手繰り寄せ、小さく身を小さく縮めた。


 風が吹いた。

 柔らかい風だった。


 螺旋状の階段。

 その中央の空洞に、二コラが浮いていた。


「申し訳ありません。

 迎えが遅れまして」


 前に俺たちを飛ばした風魔法の一種だろうか。

 螺旋階段の中央に浮いている二コラが手を差し伸べる。


「上に飛びます。

 お手を」


 俺は肩で息をつきながら、二コラの手を取った。


 足元から浮かび上がる。


 バランスが取れず、体が左右に揺れた。


 慌てる俺のもう片方の手を二コラが掴むと、振り子のように揺れていた体の動きが止まった。


 そのまま、上部まで一気に飛んだ。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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