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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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38/49

36,正体

 力抜け、腑抜けたラルフの体を押しのける。

 横をすり抜けるように前へ踏み出した。


「セイジ。

 いるんでしょ」


 建物の角から、兄と呼んでいいのかわからなくなった男が姿をあらわす。


「最後のお別れはすみましたか」


「そんなんじゃないわよ。

 でも、あなたが私を連れていきたいところへは行くわ」


「お一人で」


「そう、一人で」


 どういう理由で呼ばれてもかまわない。

 知ったところで変化があるなんて思えない。


「フェリシア」とラルフに背後から呼ばれても、決めたのだ。

 振り向くことはしない。


「だから、みんなにふりかけようとしている白い粉を取り払って。

 誰も犠牲にならないと約束してくれないならば行かないわ。

 レオンにも無駄な戦いはやめさせて。

 あなたが私に何をさせたいのかはわからなくても、

 私はあなたの言うとおりにするのだから」

 

「もの分かりが良すぎて拍子抜けしてしまいました。

 もっと逃げて、追いかけっこでも始まるかと思ってましたから」


「逃げれるわけないじゃない。

 こんな隔離された学園で。

 人質もいる。

 私に選択肢があるとは思えないだけよ」


               ☆


 レオンもラルフも納得してはいなかった。

 彼らの足を止めるため、ドリューが監視をする。

 白い粉は誰にもふりかけない口約束はむすんだものの、学生はそのまま校舎に寝かされている。


 俺が心変わりを確認すれば、すぐさま約束は反故にされるだろう。


 セイジが「案内します」と先んじて歩く。


 談話室へつながる校舎の裏門を抜け表門を出た。

 学園の門へと続くまっすぐな道が広がる。

 道の真ん中に、直角に伸びる一本道が伸びる。


 セイジはそこで立ち止まった。ゆっくりと向きを変える。


「大聖堂へ向かうのね」


「ええ、塔の下に案内人がいます。

 彼と共に上へ行ってもらいます」


「あなたも一緒」


「私は引き返します。

 あの二人がおとなしく捕まっているとも思えません」


「それもそうね」

 何やら今頃頭をひねって画策しているとも知れない。

 2年も嘘をつき通していたわけだし。

 本当に何を考えているか知れたものではない。

 そして、どうしてか俺にとって都合の悪いとところで妙に息が合うのだ。


「具体的には私は何をしたらいいの。

 塔へ登ればいいとはわかったけど」

 

「聖女の力の本質をご存じですか」


 質問で質問に返される。

 こちらが従順になっているからか、言葉遣いも丁寧になった。ぞんざいな態度も消えた。

 それほどに聖女とは特別なのだろう。

 喉から手が出るほど求めている存在らしいし。


「聖女は癒しをあたえるのでしょう」


 俺もろくなことを知らない。

 本をなぞっても、呪文一つ覚えていない。

 いつも唱えているのは、母さんの「いたいのいたいの飛んでいけー」みたいなもの。

 光と時の加護があらんことを。

 そう言って、手をかざしてくれる母さんの姿を真似ているだけだ。 


「聖女の癒しの本質は、時を操る魔法です」


「ときって、時間のこと?」

  

 セイジが頷く。

 

「聖女の癒しは、時間を戻すことにあります。


 時折、平民にその癒しをもって畏怖を示し。

 中堅の貴族には、金をもって若さと美を与える。


 しかし、本来教会が保有する聖女の力は、

 教会における経典、理想を体現するために、

 悠久の時を生きる司祭のものです。


 時をまき戻し、ケガや病気を癒す。

 もう少し戻せば、若返りになり。


 それをさらに繰り返していきますと、不死、の領域へといきつくのです」


「フシって」


「死なないということです」


「じゃあ、長い年月を死なずに生きているの。

 あなたも……」


 セイジは穏やかな笑みを浮かべ、肯定する。


「16年前に聖女を失いました。

 最後の不死の施しを受けたのが私でした。


 正確には私の前世の話です。

 

 私はあなたと同じ次元を生き、

 聖女の力が完全に消えたことを元聖女よりききおよび、

 

 もう一度やり直すために、この次元へと戻ってきたのです」


「あなたも……」

 同じ未来を知っている人。


「私の魂。

 いえ、前世の名はニコラ・シャルトラン。

 覚えておいでですか、

 お屋敷であなたに魔法を教えた講師を」


 二コラの魂が宿ったセイジ。速足の彼を追う。

 私たちは大聖堂へ向かって着々と歩いている。


「歩きながらでいいので」

 沈黙も嫌で、話しかけてしまう。

「そろそろきちんと教えてください。私のすることを」


「塔の上で、不死の施しを恵んでいただきたいのです。

 塔には、二コラがいます。

 彼と共に上まで行き、儀式を行っていただきたい。

 今はそれだけですよ」


「あなたは来ないの」


「ええ、

 お誘いはうれしいですが、

 どうしても邪魔を入れたくないのです」


「レオンとラルフを警戒しているなら不思議だわ。

 あなたのような人なら。

 印象でしかないのだけど、自分で儀式を見届けたそうなのに」


 そうですね、とセイジは肯定する。

「望むなら、十数年ぶりの尊い儀式を拝見したいところです。

 しかし、だからこそ、けっして邪魔もいれたくないのですよ。

 

 二コラに宿る魂は別人ですが、前世の記憶はないのです。

 いくばくかの命を犠牲にし、こちらへやってきましたものの、やはり完全なる聖女不在の儀式でした故、中途半端なものだったのでしょう。

 私が、記憶を残して転生できただけで良しとしておくべきなのです


 二コラは私の過去の記憶も見知っているがために、私の分身のようによく働いてくれています。

 我々の協力者も、過去よりずっと少なく、この機会を逃しますと、本来4人いた司祭も私一人となってしまいます。

 こちらの都合で、急ぎ申し訳ありません」


「私の役目は、塔の上に行き、不死の施しを老いた司祭に与えること。

 詳細は、そこにいる二コラが教えてくれるのね。

 わかったわ。

 

 だから誰も傷つけないで、それだけはお願い」


 セイジが満足そうに微笑んだ。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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