34,黒幕
談話室、皆が出て行き閉じられていた校舎側の扉が開いた。
遅れている学生を迎えに来た。
そう一瞬、錯覚しかけた。
違うと理解したのは、その横にあらわれた影のせいだ。
校舎を案内すると言い学生を連れ立って出て行った兄の隣には、黒いローブを纏う男。
なんで、ここに。
レオンの表情がこわばるのが視界の端にうつる。
眉間にしわを寄せ、怒りという感情が双眸からあふれるように見えた。
兄のセイジは、柔らかな表情で首をかしげ、
「ごめんね。フェリシア」
と、妹へと極上の笑みをこぼす。
俺はラルフの袖をつまんだまま。
切り返す言葉もみつからなかった。
ラルフは眉一つ動かさず、じっと兄と黒いローブの男を見つめている。
「今日という日を待ち望んでいたよ」
兄の瞳に冷徹さがにじむ。
悪寒が走った。
「みんなはどうしたの」
絞り出した声はかすれていた。
「校舎にいるよ。
眠らせて、閉じ込めているだけだから。
今は安心していい」
今は、とはどういうこと。
「折り入ってフェリシアにお願いがあるんだ。
古い友人が今際の際にある。
助けてもらいたいんだ。
これはフェリシアにしか頼めない」
黒いローブの男が、兄の横に立つ。
「仮に、嫌だと言ったら」
俺が返す言葉に迷っていたら、先にラルフが返答した。
「校舎にはもう一人協力者を据えている。
彼女には合図をしたら、とらえた学生たちに例の白い粉をふりかけて良いと伝えている。
何が起こるか、想像はできるだろう。フェリシア」
肉塊と化した子供たちを思い出す。
「みんなを人質にしているのね」
ああ、なんでこんなことになったんだ。
こんな近くに黒幕がいるなんて。
気づなかかった。身内が身内じゃないって。
ラルフは今の俺をフェリシアだと思っている。
前世のフェリシアは微塵も知らない。
俺も、ラルフも、知らないのだ。
兄が本来どんな人物だったかなんて。
知らないものはわからない。
わかるはずないじゃないか。
「頼みごとを聞いてもらえるよう保険をかけておいただけさ。
あとは、あわよくば騎士を閉じ込めたかったんだよ」
騎士と言われ、意味が飲み込めなかった。
「隣にいる騎士についてこられても困ってしまうよ」
少し前に陣取るレオンと、俺のすぐ横に立つラルフ。
二人のことを、言っているのか。
セイジが、片手をあげる。
手のひらを俺たちへ向け、
「フェリシアだけ連れて行こうとすると、抵抗するよね。
青い髪の君なんて、今にも噛みついてきそうだ。
ラルフも、そんな冷たく睨まないでくれよ」
言い終わる間に、その手のひらを折った。
黒いローブの男が動いた。
いち早く反応したのはレオンだった。
ギィィンと金属のぶつかりあう音が響く。
いつの間にか彼の手に剣が握られ、ローブの男が振り下ろす剣を受け止めていた。
全然、見えなかった。
どこに剣なんか持っていたんだ。
そもそも、今何が起こった。
まごまごしていたら、腕を引かれた。
ラルフに肩を抱き寄せらる。
いや、これは近い。
すごく近い。
心音が耳奥で跳ね上がった。
ラルフが急に男になって、
俺が完全に女の子みたいなことになっていないか。
首筋から頬にかけて妙なほてりを感じる。
熱は収まる気配なく、そのまま脳天まで達しそうだ。
黒いローブの男が後ろへ飛ぶ。
「ラルフ。とりあえず、ここから逃げろ」
レオンが叫ぶ。
黒いローブの男が、逃がさないとばかりに身構える。
無理だ。
あの男は早く、正確に動き、獲物をしとめる。
躊躇はない。
逃げれない。
「いいよ。
ラルフとフェリシアは、後ろの扉から出ても。
そのまま、逃げてお行きよ」
セイジが余裕たっぷりな口ぶりで話す。
「妹のフェリシアは、けっして友人を見捨てたりしない。
見知らぬ小さな子供でさえ、捨て置けない、優しい娘だ」
俺が、彼らを見捨てないと確信している。
「ローブを着たままだと、戦いにくくはないかい。
せっかくだから、顔を見せてあげなよ」
セイジの言葉に、男はローブのフードに手をかける。
現れた顔を見て、息をのんだ。
抱き寄せているラルフでさえも呆然とする。
「ドリュー」
つぶやいたのはレオンだった。
もしかして、あの時、俺たちを殺したのも。
「ドリューは強いよ。
元騎士で、うちに剣術の師としてきただろう。
ラルフ。
君は、フェリシアと一緒に逃げるといい。
僕は追いかけるよ。
子どもみたいに、おいかけっこをしよう。
少し待ってから、探しに行くよ。
どうぞ後ろの扉から逃げてみておくれよ」
これではまるで、相手の手のひらで踊っているようではないか。
レオンは目の前にいるドリューだけで手いっぱいかもしれない。
ラルフが忌々し気に舌打ちする。
ラルフの舌打ちなんて始めて聞いた。
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