33,あれは誰
俺とラルフは顔を見合わせる。
レオンの大げさな反応の意味が分からない。
「誰って……お兄様のことですか」
おずおずとたずねる。
うつむいていたレオンが顔をあげた。
「あれは誰だ」
蒼白な顔。
いったい、何にショックを受けているのか。
「誰って」
「セイジと名乗るあれは誰なんだ」
「お兄様でしょ。フェリシアの兄の」
血はつながっていないけど。
レオンが、大きく頭をふる。
「あれは、違う」
「俺だって、二人がいた世界とは性格が違うんだろ」とラルフ。「何かきっかけあって、雰囲気が変わることもあるんじゃないのか」
片手を額に当てるレオンが、頭をふる。
「魂が違うっていうのは、性格が違うとか、そういうことじゃない。
その人間の根本が違うんだ」
「確かに私の魂がレオンの肉体に戻り、フェリシアの肉体にフィーの魂が戻ったら、それは別人によね」
レオンが頷く。
「そっくりな双子がいたって、顔は似ているけどどこか違うと感じるだろ。
そういうことだよ。
もし元の魂が入ったフェリシアを知っている人がいたら、気づくんだよ。
今のフェリシアは別人だって」
それは分かるかもしれない。
レオンを見て、自分であって自分じゃない存在として認識している。
双子の片割れ。
彼の言うようにとらえたら、しっくりくる。
「ラルフにしろフェリシアにしろ、俺が知っている兄を知らない。
だから、今まで気づかなくても、それは、きっと、仕方ないんだ」
「じゃあレオンと私以外に、
同じ未来からきている人とでもいうの」
「わからない。
そうなのかもしれないし、違うかもしれない。
魂を入れ替える方法はあるのだし……」
「えっ」
今、魂を入れ替えるって。
レオンがしまったという顔をする。
「せっかく黙っていることにしてたことを、自分で言うか」
ラルフがため息をつく。
レオンがラルフを恨めしそうににらんでいる。
ラルフは目を閉じて、「もういいだろ」とつぶやいた。
「もしかして、知ってたの」
二人とも。
戻れないって言っていたのに。
「戻る方法はある」
苦しそうにレオンはつぶやく。
「聖女の本。
『教会と聖女』
『聖女の魔法 光と時の加護』
に記載されていた」
「私も、読んだけど」
正直、字をなぞるだけ。
文字を覚えたての子どもが読んで残るものはなかった。
魔法を習う頃には本棚からも消えており、内容も朧気。
聖女の力は癒しの力ではないのか。
「歴代の聖女は魂を入れ替えて力を継続してきたんだよ。
聖女は教会に魂そのものを囚われていたんだ。
大聖堂の塔があるだろ。
あのてっぺんが聖女の間になっている。
あそこにはいくつかの魔法陣が描かれている。
その陣の力を借りて、魂の入れ替えができる」
「どうしてそんなことを知っているの」
「母さんから聞いた」
「母さんって」
「さすが元聖女様だよ。
俺がレオンの魂を保有してないと看破した。
大人の目を盗んでは、熱心に聖女の本を読んでいたからね。
しばらくは好きにさせてくれていたものの、ある時母さんから切だされて白状した」
俺がラルフに助けを求めたように、レオンは母さんの助けを借りていたのか。
「山まで俺を探しにきた経緯を伝えたら、母さんが笑い転げていたよ。
絶対に父さん似だ。間違いないって。
突拍子もないことをしでかすかもしれないから、元に戻れることはギリギリまで隠すようアドバイスされてたんだよ。
知っていると、良からぬことを考えて、おかしな行動をして、引っ掻き回すんだろ」
横のラルフが激しく同意している。
「父さんは、聖女をさらって、教会の根幹をこわしている。父似なら、前科もち扱いで、手綱をとっとけと」
「ひどい。そこまで言うの」
この世界でまだあったこともない母さんにそこまで言われるのか。
「じゃあさ、元に戻れるって知って、黙って2年間屋敷でのうのうと暮らせるの」
じとっとレオンににらまれる。
「もちろん」と即答できない自分が悔しい。
「できるわけない、でしょう」
「ラルフまでひどい」
まったくもって恨めしい。
「相手がどう出てくるかわからないうちに、余計な事されたら困るんだよ」
ラルフとレオンが激しく同意している。否、この点において、俺の評価は完全に二人の間で一致しているんだ。
「昔は、レオンなんて儚げな女の子だったのに」
「世情疎い、自分しか見えない愚かな女の子だったんだよ」
面白くない顔で自身を酷評し、目線を床に落とす。
寂しげな陰りが見えた。
「俺は魂の上では母さんと父さんの本当の息子ではない。
半分は他人なんだよ。
それでも、息子として愛してくれて、父さんも色々教えてくれた。
あの二人に、君の魂を会わせたい。
それがせめてもの恩返しなんだよ。
戻れるか、戻れないかは、今は保証できないけど」
俺はラルフの袖をつかんでいた。
戻れる。
でも、戻ったら。
ラルフは真顔で。
何も言わない。
昔よく見た横顔があった。
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