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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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31,学園へ

 学園の門は城門のように物々しい。

 要塞のように石を積み上げた塀が左右にのびている。

 手前には細く長く水が流れており、人工的な小川でも侵入者が乗り越えるには難易度が高い。

 そこに幅広い橋がかかっている。

 そこここからやってきた貴族の子弟の馬車が橋を渡り、門をくぐっていく。


 俺も馬車にゆられながら、学園の門をくぐった。

 車内にはラルフも一緒。

 屋敷から出るのは2年ぶりか。

 名実ともに完璧な箱入り娘になってしまった。


 門の向こうは、馬車を停めるために舗装された広い石畳が広がっている。

 貴族の子弟はそこで馬車をとめる。

 これより先は、身一つで学園へと向かえというのだ。

 馬車から降りた学生たちが、荷物を持ち各々校舎へと向かう。


 俺が乗る馬車もとまる。

 御者が馬車の扉を開けた。

 若葉の香りをいざなう風が吹き抜ける。

 ラルフが先に出る。

 追うように俺も馬車の扉をくぐった。

 目の前にラルフの手が差し伸べられる。その手を取ると、ラルフが少しほほ笑む。

 この2年で堅物だったラルフが、少し優しくなった。

 照れくさい。優しくされると目をそらしたくなる。

 細身で、身のこなしも柔らかい、執事の姿をすればその所作は流れるようだった。良い青年に成長したラルフは恰好良い。

 一応俺も女の子なわけで、それなりに女の子扱いされていると、なんとなく気恥ずかしい。 


 馬車をおりると、緑豊かな敷地が広がっていた。

 門前に広がっている石畳は一本の道へ集約されている。

 その道がまっすぐに伸び、大きな学園の建物の入口へとつながっている。

 道の両端には沿うように木々が等間隔で植えられ、彼方まで丹精こめて整備された庭が広がる。


 数歩前に進む。

「すごい、きれい、ひろい」

 身震いした。

 久しぶりの外の空気が気持ちよい。

 こんなきれいな庭で。

 大きく荘厳な校舎で。

 新しい世界に出向くことを許される日がくるなんて。

 軟禁生活が長くなり、もう二度と外に出られないと錯覚していた。

 

「フェリシア」

 ラルフによばれ、

「荷物はどうされますか」

 振り向く。

 ラルフが馬車から自分の荷物と俺の荷物を下ろしていた。

「私のは自分で持つわ」

 駆け寄って、自分の荷物に手をかける。

 持ち上げようとするとずっしりと重かった。

「無理しなくていいですよ。俺が持ちます」

 そう言って、軽々と鞄を持ちあげる。


 ラルフはこの2年の間に少し砕けて、名前で呼ぶようになった。


 御者と軽くあいさつする。

 送ってもらったお礼を伝えると、これからの激励が返ってきた。

 役目を終えた馬車は反転し、門を出て行く。


 学園では完全なる寮生活が待っている。

 学生は年に数回の帰省以外、寮と学園の往復で暮らす。

 学園では魔法から剣術、歴史、語学に算術など、様々な学問を学ぶ場だ。

 剣術は将来、軍職を希望する学生の選択。魔法は全生徒必須科目。

 学園の始まりは、教会が貴族の子弟に高度な魔法を教えるためにあったという。

 歴史を物語るように、大聖堂の敷地の隣接するように学園校舎は建てられている。


 校舎へ向かう途中、石畳の道を半分進むと、そこでもう一本道が伸びている。

 その一点から道は三本にのびるのだ。

 一つは今歩いてきた門へと続く道。

 もう一つが学園校舎への道。

 最後が、大聖堂へつながる道。


 大聖堂は、城のようだ。

 白く、青空の元に浮かび上がる。

 中心に塔があり、天高くそびえている。


「教会の大聖堂って、こんなにしっかり見るのは初めてだわ」

 街からは遠目にうっすらと浮かんでいるのが見えていたのだが、それほど気に留めてはいなかった。

 あの頃は、4人での街歩きが楽しかった。

「屋敷からはちょうど見れませんからね」

 歩きながらラルフと話す。

「ここにきて良かったのかしら」

 聖女の力を欲しているのが教会なら、学園に俺がいて大丈夫だろうか。

「宰相家のご令嬢がいないのもおかしいですからね。

 ましてや、王太子の婚約者候補です。

 立場上いらっしゃらないと、おかしなうわさも立ちかねません」

「そうよね」

「そのために、私が一緒なんですから」

 これが今の俺の立ち位置。籠の鳥だ。

 一人で動いてはいけない。ゆるい軟禁生活から監視生活に変わったようなものか。


 学園校舎の前まで歩く。

 建物は見上げるほど高かった。


「高いね」

「本当に」

 ラルフも驚いている。

 一緒にお城に行った時よりまだ驚いている。

「ラルフでも驚くことあるのね」

「貴族と混ざって自分が勉学に励む日がくるとは思ってなかったんですよ」

「そうだよね」

 昔のラルフは兄の付き人であって、屋敷での補佐役だったはずだ。

 俺がいなければ、こんな風に巻き込まれることもなかったろうに。


「きょろきょろしているお二人さん。

 道が分からないなら、案内しようか」

 ラルフの肩に肘を置き、慣れなれしく挨拶する見慣れた人物が現れた。

「レオン」

 群青色の髪。

 深い茶色の瞳。

 背格好はラルフと同じくらい。

 冒険者として腕を磨いてきたせいか、ラルフよりがっしりしている。

「俺、ここはじめてじゃないからさ。

 わからないことあったら、聞いてよ」

 人懐っこく笑う。

 彼女がフィーだった頃にはこんな表情は見られなかった。

 俺の人生を生きて、ずいぶん変わったように見える。


             ☆


 寮の部屋は狭かった。

 村で暮らしていた時の子供の部屋より少し広いくらいか。

 途中までラルフに運んでもらった大きめな鞄をベッドに置く。


 この広さを狭いと感じるようになったものだ。

 16年も貴族生活をしていると、その生活の方が板についてくる。

 慣れってのも怖いものだ。


 ベッドと机。小さな本棚。クローゼット。鏡。華美な装飾は見られない。

 先に届けてもらった荷物を入れた箱は二つ。

 学業で使う本が机の上に積まれている。

 クローゼットをあけると、用意されていた制服があった。


 真新しい深緑の制服は、デザインもシンプル。

 貴族らしい装飾もない。

 こんな動きやすい服なら普段着にしたいな。

 16年着続けても、ドレスはどこか動きにくい。


 鏡の前に立つ。

 いつもはただ流すだけの髪なのだが、横の髪を両方ひとつかみ分後ろでまとめ、小さなバレッタで止めた。


 鏡の中にいるのはフェリシア。

 この姿も慣れたよな。

 レオンだった記憶はあっても、少しづつ遠くなる。


 現実には生きているレオンがいて、当たり前のように話し、動き、笑う。

 あれはもう俺じゃないと示してくる。


 もう戻れないのか、戻れるのか。

 生き残れるのか、死んでしまうのか。

 約束された答えはない。

 

 ただ実感がわかなくなってきた。

 レオンだった頃の記憶がどんどんと薄れていく。

 フェリシアとして生きている記憶が濃くなっている。


 自分という存在が希薄になる。

 俺はレオンなのか、フェリシアなのか。

 

 愚問かもしれない。

 こうして鏡を見れば、フェリシアしかいないのだから。


最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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