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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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32/49

30,宿へ戻る

 宿に戻ってきた。

 護衛の一部が、事件の処理と、王城への報告に奔走する。

 てきぱきと指示する王太子は別人のようだった。


 白い粉にやられて、意識がもうろうとしているアリアーナは衣類も破れ裂けている。

 着替える必要もあり、女性の護衛二人が肩を支えて部屋へ運んで行った。


 子どもたちも護衛達が保護している。

 昨今、誘拐された子供たちの一部だろうと話していた。


 宿の老夫婦がアリアーナの姿を心配そうに見つめていた。


 ロビーは少し荒れていた。

 壁やソファーなどに剣で切られた痕がある。

 煙は目くらましだったようで、火をつけられたわけではなかったそうだ。

 

 宿に残っていたのは、冒険者の護衛だった。

 レオンが現れると、彼らはうれしそうな顔をした。

 騎士の護衛達に、レオンは実力もあり信用もできるやつだと必死に話していた。

 がたいの良い男に頭を撫でられて、「今日は来れないって言ってたじゃないか」と言われていた。

「昼間の仕事が早く終わったんだよ」

 答えて、レオンが俺の方を見る。

「久しぶりに顔見れるかなと思って」

 何、女か。と、またからかわれる。 


「すごい、馴染んでる」

 ポロリとこぼれた一言。

 

 遠くから自分を眺めている。

 俺なのに俺じゃない。

 あの人生を生きているのは、もう俺じゃないんだと見せつけられる。


 村しか知らなかった。

 こんな生き方もできたのだろうか。

 いや、あの時、俺はこう思っていた。


 いつか街に行ってみたい。


 いつかっていつだよ。

 いつかは永遠にこないんだ。

 あの時踏み出せなかった俺は、元の人生に戻っても、きっとフィーのようには踏み出さないのではないか。


               ☆


「ラルフには全部話したんだね」


 ラルフと俺と、フィーの魂を宿したレオン。

 ラルフが宿泊する部屋に集まった。

 部屋のベッドが一つ空いているからとラルフがレオンの同室を申し出、今にいたる。


 ベッドに腰かけ、向かい合うラルフとレオン。

 その間に椅子を運び、座る俺。


「私一人ではどうしようもなくて。ラルフに助けてもらうことにしたの」


 レオンが笑う。

「なんか、もう……。

 お嬢様が板についているね」

「何が」

「しゃべり方」


「そうしないと、訝られるでしょ。いろんな人にぎょっとされるうちにこうなったのよ」

 心の中の一人称だけ「俺」を死守しているけど。

「自分を目の前にして、どうしたらいいか戸惑うわ。まったく違う人生を生きているんだもん」

「お互い様だろ」

「呼び名だって、レオンって呼んだらいいの。それとも、フィーって呼んだらいいの。小さいことだけど、分からなくなるわ」


「レオンでいいじゃないか。

 レオンとして俺は生きているし、君だってフェリシアとして生きている。

 俺は迷わず、君をフェリシアって呼ぶよ。

 お嬢様とは言う気にはなれないけど。

 それはかまわないよね」


「かまわないわよ」


「お嬢様」

 それはいけませんと、続けて言いたげなラルフ。

「あなただって、普段はお嬢様って言うけど。

 慌てたり、いざという時は、呼び捨てじゃない」

 ラルフがぐっと黙る。

「立場上、公ではお嬢様でいいけど。

 普段なら、別にフェリシアって名前で呼んでかまわないのよ」

「そういうわけには……」

「だから、レオンにどうと言う前に、あなたも自由にしていいの。呼び名くらい」


「呼び名はさておき」とレオンが続ける。「黒いローブの男が現れた。ラルフも聞いているだろう。俺たちを殺したやつのいでたち」

 ラルフも真顔になって、うなづく。

「冒険者になって、少しは情報を得られるかと思ったけど。さっぱりだった。こんなところで出くわすなんて思わなかった」

「そういえば、偶然あそこにレオンはいたの。助かったけど……」

「ギルドに手練れの冒険者を求めてたろ。俺も声かかってたんだけど、昼に先約があってさ。

 夜だし行けないと思ってたんだけど。

 こんな機会でもないと、フェリシアに会えないからさ。

 遅い時間だけど、行ってみることにしたんだ。

 顔見知りも何人かいるし、入れてもらえるだろうて思ってさ」

「楽観ね」

「修羅場もくぐってますから、それなりに。

 野宿もできますよ、箱入りお嬢様」

「そういう時に、お嬢様って言うのは嫌味じゃない」

「でも、相当守られているじゃないか」

「私が弱いからよ」

「仕方ないよ、女の子なんだし」


「……レオンは、男の子でいいの」


「いいよ。

 俺は、この人生が楽しい。

 フェリシアには悪いけど、俺はこの人生を生きていきたい」


「戻りたくないの」


「戻れると思えないだけだよ。

 戻り方なんてわからないじゃないか。

 体を生かしたまま、魂を入れ替えるんだぜ」


「そうね。ラルフも、戻れる保証がないと言っていたわ」


「生まれた場所で生きていくしかない。

 俺はそう思っている。

 しがらみのない平民の冒険者ってポジションが気に入っているんだ。

 正直、今更お嬢様には戻れないよ」


「そう」


「フェリシアには悪いと思っている。

 殺される可能性がある人生を押し付けてしまった」


「レオンが言ったじゃない。与えられた人生を生きるしかないって。

 死なないよう努めるわよ」


「俺はフェリシアが幸せに生きてないと嫌なんだよ。

 気持ちよくレオンとしての人生を楽しむには、君が幸せでいてくれないことには始まらない。

 自分だけ楽しもうとしていたら、罪悪感にさいなまれてしまうよ」


「そういえば、どうして冒険者になったのレオンは」


「金だよ。

 学園に行くにも金がかかる。

 俺、平民だから、自分で学費を稼がないといけないんだよ」


              ☆

 

 ラルフに送られ部屋に戻る。

 隣だからいいよと言っても、律儀にドアまでついてくる。


 部屋に戻ると、アリアーナが寝ていた。

 護衛の女性が一人付き添っていた。彼女は「迎えの部屋にいます。何かあれば呼んでください」と退出した。

 

 アリアーナの寝顔はきれい。

 ただれた顔の痕も消えている。

 ごっそり抜けた髪も元に戻った。


「ごめんね、アナ。怖い思いさせて」

 ベッドの横に座る。アリアーナの黒髪に触れる。

 つややかな髪。元に戻せて本当に良かった。


 アリアーナがうっすら目をあける。

「寝てていいの。

 私も着替えたら、隣で寝るわ」


 立ち上がろうとすると、服の端をつかまれた。

「今日だけ、一緒に寝てくださらない」

 臆病な女の子が懇願する。

 アリアーナではないみたい。

「明日には、戻るわ。だから、今日だけ」

 自分らしくないと彼女も思っているのかもしれない。

 それだけ、恐ろしかったのだろう。

 体の傷は聖女の力で消せても、心の傷までは癒せない。


「いいよ」

 俺も、所詮女の子。

 男ではないのだし。

「待っていて。一緒に寝よ」

 こんな夜は、一人が怖くて当たり前だ。


 俺は着替えると、アリアーナのベッドにもぐりこんだ。

 

              ☆


 屋敷に戻ると、無事に帰ったことを喜ばれた。

 そして、学園に上がるまで屋敷でゆるい軟禁生活をするように王命が下った。


 少しマシなのは、アリアーナと王太子が遊びにきてくれるのと、レオンがごくまれに会いに来てくれるぐらい。


 学園に行くまで、後2年。


最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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