表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/49

27,誘拐

 アリアーナの考えが深すぎて、ついていけなかった。

 のぼせたと言い訳して、アリアーナから逃げるように温泉からあがった。


 今はロビーにある大きな一人掛けのソファーに身を沈ませている。


 部屋に戻るのも気が引けた。

 アリアーナに驚かされるにしても、心臓がいくつあっても足りない。


 ラルフに会いたいなあ。

 王太子と同じ部屋なんだろうか。

 だとしたら、災難。

 いつも俺のせいで巻き込まれて。


「何をされているんですか」と頭上から声がした。

 見上げると、脳裏に思い浮かべていた顔がある。

「ラルフ」

 うれしい。会いたかった。


 目を少し丸くするラルフ。

「こんなところでどうしたんです」

「ちょうど、ラルフは何してるかなと思っていたの」

「アリアーナ様とは一緒では」

「一緒には一緒だったんだけどね。

 ちょっと緊張しちゃって。

 ラルフだって、ウィリーと同じ部屋ではないの」

「違いますよ。

 殿下は護衛の方に引きづられてお一人部屋です。

 さすがに、お風呂は一緒に入ろうと、子犬のように部屋まで来たので、今さっきまで付き合っていました」

 髪が少し濡れている。

 手を伸ばすと、ラルフの湿った髪に届く。

 指先で少し遊ぶ。

「私だけでなく、ウィリーにも懐かれて大変ね」

「全くです」


「ラルフはどこに泊まっているの」

「お嬢様の隣ですよ。

 私は、どこまでも宰相家のご令嬢のお目付け役です」

「そうよね。そうでなくてはね。

 私も、アナよりラルフと一緒の方がリラックスできそうだわ」

「やめてください。

 王太子殿下もご一緒なんです。立場を考えてください」

 ラルフはため息を吐いた上に、頭をふる。

 

「部屋に戻りますか」

「戻るわ」

 アリアーナも待っている。

 俺はソファーからぱっと立ち上がる。

「少しでも、顔を見れてよかった」

「隣におりますから、いつでもお呼びください」


 ラルフと会うとほっとする。

 そう思って横顔を見つめる。

「なんですか」と表情少ない素っ気ない返事一つ。


               ☆


 夕ご飯はロビー横にある広間だった。

 王太子のぼやきに、時折グサッとアリアーナの一言が刺さる。

 周囲には、宿泊客の装いの護衛達。

 宿の雰囲気を損なわないように物々しさは控えられていた。

 こういうのもアリアーナの配慮なのだろう。

 俺みたいな単純な人間は、周囲が護衛だと聞かされていても忘れてしまいそうだった。


 温泉は何度入ってもいいと言うので、食後もつかった。

 湯上り老夫婦とぱったりと会う。にこやかに「湯加減はどうでしたか」とアリアーナと他愛無い談笑をしていた。 


 部屋に戻り、ベッドにゴロンと横になると、体の奥からじわーっと重みを感じた。

 こんなに疲れていたの。

 横を見ると、ベッドに腰かけたアリアーナが丁寧に黒髪をすいていた。

 窓の外は真っ暗。いつの間にか夜は更けていた。

 草木が風になびく。

 湧き出るお湯の流れ。

 夜目のきく野鳥の声も遠く響く。

 

 目を閉じると、村を思い出す。


 ドオン。

 轟音が響いた。

 部屋が揺れ、俺は飛び起きた。


 窓の外が煌々と明るい。

 窓の向こうに火柱が立っている。

 ベッドから窓辺に駆け寄る。

 

 天に向かって伸びた火柱がバチバチと音を立てながら、徐々に細く小さくなる。

 人が数人、宿の玄関に押し入っていくのが見えた。


 程なく入り口から白い煙が噴き出した。


 振り向くと、アリアーナが立ち上がっていた。

「アナ、侵入者よ」


 口元をきつく結ぶアリアーナの蒼白な顔。

 いつもの不遜な雰囲気が消えている。

「一体、何が……」

 アリアーナが狼狽している。

「大丈夫よ。下には護衛の方もいるのでしょう」

 目が合う。

 少し正気を取り戻す。

「アナが手配した護衛がいるんだもの、けっして問題ないわ」

 

 ドアが何度も叩かれる。

「お嬢様」とラルフの声。

 ドアの隙間から、煙が漏れてくる。


「ラルフ、何があったの」

 ドアノブに手をかけた時だった。

 ガチリと鍵が外れる音が鳴ると同時。

 体がふわっと浮き上がった。

 強い力で背後に体がもっていかれる。


 ドアが勢いよく開く。

 ラルフが現れる。

 足元から、白い煙がわいてくる。


 状況が分からないうちに、体だけ強い力で宙に浮き、窓の方へ引っ張られる。

「フェリシア」

 アリアーナが、後ろへ運ばれる俺の腕をとった。

 アリアーナの体も一緒に浮かび上がる。

「風魔法だわ」


 アリアーナの腕が俺の胴をつかむ。

 そのまま二人、窓の外へ引っ張られる。


「フェリシア」

 ラルフの手が伸びる。

 その手をつかもうと手を目いっぱいのばす。

 届かない。

「ラルフ」

 窓の外へ背中から放り出された。

 地面に向かって逆さまに落ちる。

 窓辺から身を乗り出すラルフが見えた。


 

 地面に叩きつけられそうになる時、ふわっと体が浮き上がる。

 内臓が浮く。一瞬気持ち悪くなった。


 そのまま地面を水平に引きずられる。

 宿の入口から煙がまだ出ている。

 その煙をかき分けるように、数人が飛び出てきた。


 視界が暗くなる。

 急にドスンと落とされた。


 尻もちをつき、背中を打った。

 むせながら、起き上がる。

 横には、アリアーナが倒れていた。

「アリアーナ、大丈夫」

 肩をさする。

 もう片方の肩をひどく打ったのか、痛そうに顔をゆがめる。


「ここは……」

 床はささくれが目立つ木の板。

 上を見るとしなる細い木で作られたアーチ型の骨組み。くすんだ厚手の布で覆われている。


 見覚えがある。

 村の移動手段の一つ。

 幌馬車だ。


 アリアーナにそばに行き、体を起こす。

「痛む」と聞くと、「少し」と力ない返事。


 なんでこんなところに連れさられたんだ。


 ガクンと幌馬車が動き出す。貴族用の馬車よりゆれる。

 アリアーナがバランスを崩す。

 前のめりに倒れ、両手をつく。


 揺れに気を取られ、人が近づいているのに気づかなかった。

 背後から腕をとられる。

「痛い」

 叫んだ間もなく、後ろ手に縛られてた。


 アリアーナと目が合う。

 不安げな女の子が目の前にいた。


 俺は、背後の人間の気配に振り向く。

「あなた方の目的は何」

 食いつくようににらんだ。


 山賊かと思う、大柄な男がいた。

 後ろにも数人の男たち。

 多勢に無勢。

 ぞわっと背中に悪寒が走る。

「どうしてこんなこと……」


 言い終わる前に、両ほほをつかまれた。


「黙ってろ。お嬢ちゃん。

 余計なおしゃべりしていたら、どうなると思う」


 知らないよ。と言いたかったが、頬を掴かむ手が強すぎて、声が出なかった。

 背後の男たちの卑猥な笑い。

 耳の中に蛆がわくような響き。

 気持ち悪い。


「いい加減にしろよ」

 声がし、鋭い風が吹く。


 頬をつかむ男の額で何かがはじかれた。

 首からがくんと後ろに折れる。

 掴んでいた手の力が弱まる。

 男の手が頬から離れた。


「傷つけては身代金のあても、売り飛ばすのも値が落ちる」

 振り向くと、手綱をとる御者の隣に座る男が腕をまっすぐこちらに向けていた。


「兄貴、冗談だよ。冗談」

 俺をつかんでいた男がヘラヘラ笑う。

 

 この男がリーダー。

 今男の額をうったのが風魔法なら。

 この男が、二階から私たちをさらった魔法使いということなのか。


最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をぜひお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ