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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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19,婚約なんてしたくない

「フェリシア様が選ばれます。

 大臣家の長たるおじい様は私を押しません」


 アリアーナの微笑は、どこか冷めていて怖い。


「おじい様にとっては、ウィリーの外戚であることは変わりませんもの」


 やはり、婚約という未来は変えることは難しいのか。


「お嬢様」

 ラルフが心配そうに声をかけてくれた。

「大丈夫。分かっていたことだもの」

 力なく笑むも、心底自分の無力さを痛感する。


「そんなにお嫌なんですか」

 不思議そうにアリアーナは首をかしぐ。


「そこまで嫌がられると、ちょっと落ち込むな」


「殿下が嫌いと言うわけではないんです。

 どうしても、婚約は嫌で……。

 先ほど、王様にも婚約は嫌ですと伝えてしまいました」


「父上に」

「まあ」


 目を丸くした王太子とアリアーナの驚いた声がはもる。


「よく言えたね。あの場で」

「身の程を考えれば到底できないわ」


 称賛されているのか非難されているのか。

「そんな、言われよう……」

 ない、ひどい。と続けようと思ったら、

 ラルフにまで「その通りです」と肯定されてしまった。


「あそこで言わないと、もう王様と会う機会なんてないと思ったんだもん」


 ラルフに向かって放った言い訳に、王太子が吹き出した。


「これはいい。

 傑作だ。

 何を話しているかと思えば、婚約したくないだって」


 お腹を抱えて笑い出す姿は、年相応。

 ホールで手を取った仮面の面影は消えていた。


「そこまで、笑うことですか」

 俺が真っ赤になって反論すると。

「こっちだって、色々事情があるんです」


 そう、命がかかっているんだから。


「ウィリー。笑い過ぎです」

 笑ってばかりの王太子をぴりゃりとアリアーナはたしなめる。


「すまない。

 あの父上に申し出る命知らずがいたことが、もう……」


「フェリシア様。

 どんなに私たちに事情がありましても、所詮子どもの事情。

 それをもって覆すことは難しいことです」


 アリアーナは大人だ。

 現実をしっかりのみこんでいる。


「ウィリーも、ホールで見られているように、人前では王太子としての役割を演じています。

 あなたも、宰相家の方ならおわかりでしょう」


「はい」

 怒られているようで悲しくなる。必死だった分だけ、無茶がすぎたということか。


「それでも、私はフェリシア様でよろしいと思います」


「そうだね」

 アリアーナの真面目な声に、涙目になって笑う王太子が苦しそうに頷いた。


「何がですか?」


「決まっているじゃないか。

 婚約者の件だよ」


「それはもう決まっているって」


「決まっているよ。アリアーナか君に。

 たぶん、僕にも権限はない。

 父が決めれば、そうなる」


「なら、私ではなくアリアーナ様ではいけないのですか」


「私は二番手です、フェリシア様。

 あくまでフェリシア様に目に余る減点があれば、可能性がある程度です。

 あなたと私では、大きな開きがあるのです。

 その上で、幼馴染として、どのような方々が候補になっているか見ておりましたの」


 アリアーナに王太子が手のひらを向け、一歩前へ出る。

 彼女を制して、話し始めた。

 

「正直、取り巻きにくるような女の子はごめんだった。

 かと言って、アリアーナは兄妹みたいなものだ。

 取り巻きよりは、アナの方がましというのが元々の見解だ。


 素の自分を隠して生きていられるほど、僕は器用じゃない。

 取り巻くようなご令嬢が期待する姿を演じ続けることは難しい」


「ウィリーは不器用なのよ。

 まっすぐならまっすぐにしか進めない。

 盲目の猪突猛進型」

 

 いろんな方面から少女たちは値踏みされていたということなのか。

 取り巻きの一人だったら、候補から外れていたのかもしれない。

 判断を間違えたのは、俺の方か。


「ですから、彼に休むことを忘れないで居させてくれる方が良かったの。

 期待に応えるばかりにならないよう、少し抜けているくらいのご令嬢ね」


 ラルフに助けを求めても、額に手を当て困った顔をしている。

 目が合うと、首を横に振った。

 無理です。と言いたげだった。


「壁の花になるような可もなく不可もない子であればまあよし。

 まさか。父上に直訴するような子がいるとはね」


「面白いではありませんか」


 アリアーナが笑む。

 面白いってどういうことだ。


「フェリシア、あの冷静沈着な宰相を焦らせ、ご令嬢唯一従者まで連れてくる。

 父上にものを言うのは俺だってそうとう緊張する。

 初対面でそこまでできるなんて驚きだよ」


 それは、赤子の頃に見慣れている顔だっただけだ。

 白銀の髪の母へ向けられた優しさを見ている。

 王様としての印象は薄い。

 そういう意味では、俺と王太子が見ている王様の顔はまったく違うのだろう。 

 

「フェリシア。改めて、自己紹介するよ。

 僕の名は、ウィリアム・フェザーストーン。

 ウィリーと呼んでくれてかまわない。

 幼いころより、アナはそう呼んでいる」


 助けを求めても、ラルフは難しい顔をする。

 立場がある以上、何もできないと言いたげだ。


 ウィリアム王太子殿下が、目の前へひざまずく。

 俺の手を取り、真顔となる。


「フェリシア。

 正式な申し入れは日を改めて行うことになる。

 しかし、この場を持って、婚約を申し入れたい」


「えっ、あっ、はい」


 間違った。

 ここは断るところじゃないか。


 そして、肩にポンと手を乗せてきたのは、アリアーナだった。


「私のことも、アナとお呼びください。

 ウィリー同様、仲良くしてくださいませ」


 にこやかな笑顔が怖い。

 きっとアリアーナも、大人や人前では、こんな腹黒そうな性格は出してない。


「表の顔ばかり見てくる令嬢より、こんな面白い裏の顔を持つご令嬢なら。

 僕も素で向き合えると思うんだ」


 そう言って、ウィリアム王太子殿下が手の甲にキスをした。


 無言で、ラルフに助けを求めても、なにもできませんと口が動いた。  


 結局、俺は、婚約からは逃れられないということか。

 しかも、大臣家とのつながりもできて。

 猛獣のような友達が増えてしまった。 


最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をぜひお願いいたします。

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