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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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19/49

18,黒髪の少女

 ラルフと二人で、ベンチに座り、夜空を眺めている。


 会場から流れてくる音楽。

 大人たちの談笑。

 瞬く星と月。

 風が吹き、木々がざわつく。

 屋敷の庭より広く、植えられている花の種類も多い。

 昼に咲く花は眠る。

 夜に咲く花が屋敷からもれる明りに照らされる。

 深呼吸すると、花の香りでいっぱいになる。


 安らぐ。


「なんか、疲れたね」


「お嬢様に言われたくないです」


 そうだよな。

 何も知らず、ラルフは俺に巻き込まれている。

 

「ラルフ。

 信じてくれるかどうかは分からないけど」


 フェリシアの婚約はうまくいかないこと。

 地方の村へ飛ばされて、殺されること。

 俺はフェリシアではないこと。

 フェリシアの実の父は王様であること。

 聖女の力を有していること。


 ラルフに何を言えばいいのか。

 よくわからない。


「フェリシアが、未来に殺されるって言ったら信じるか」


 ラルフは驚いた顔で俺を見た。


「フェリシアは殺される。

 婚約もいずれ破棄される。

 地方に飛ばされる。

 そこで首を刈られて、殺されるんだ。

 そんな未来をどうしても変えたいんだ」


 今も。

 山へ行った時も。

 屋敷でも。


「婚約をしたくないのも、そのせいですか」


 俺は黙って頷いた。


「事情があるなら教えてください」


「信じてくれないと思ってさ」


 突然、未来に死んでしまうから助けてほしいと言って。

 笑い飛ばされるのが、怖い。


「山で、私はけがをしました。

 治したのはお嬢様です」


 ぎょっとした。

 覚えているとは思っていなかった。

 今までそんなそぶりを感じたこともない。


「自分の体のことです。

 あの時、骨は折れてました。

 村の少年の見立ては正しい。


 なのに、あなたの手がかざされ、光輝いた時。

 痛みは嘘のように消えた。


 傷も消えた。怪我も治った。

 そんな力を持つのは……


 聖女様だけです」


「何も言わないものだから。

 てっきり気づいていないと……」

 ラルフの腕をつかんた。

 俺の驚きとは裏腹に、覗き込んだラルフの表情は落ち着いている。


「あれ以来、あなたが聖女の力を使うことはなかった。

 魔法の勉強をする時も、けっしてあの力を使わなかった。

 あれだって、魔法の一種でしょう。

 使おうとしない姿から、魔法の力なんて持っていないふりをしているように見えました。

 その力を隠されているのですか」


「聖女の力は、特別だから。

 教会に知れてはいけないらしいの」

 王様と父の話し合いは今も覚えている。


「そうでしょうね。失われた力です。

 教会はその力を喉から手が出るほど欲しています」


「これから何が起こるかはわかっても、どうして起こったのかまでわからないのよ」


 ラルフは俺の言葉に耳を傾ける。


「助けてほしい。

 どうしていいかわからないの。

 断片的に知っている出来事を回避しようと選ぶ行動が、未来にどう働きかけるかわからない。

 一人では、事が大きすぎて、背景がとらえきれない」

 

「聖女の力を持つあなたです。

 未来を知っていると言われても、不思議には思いませんよ」


 涙が浮かんできた。


「いつも巻き込まれているんです。

 今更ないでしょう。

 巻き込みたくないなんてきれいごと」


 ラルフが俺の頭をなでる。


「フェリシアが、殺されると分かっていて。

 俺は黙ってはいられませんよ。

 山に勝手に行かれるぐらいなら、

 一緒に行きますよ」


 ラルフは本当にいいやつだ。

 子どもみたいに泣きそうになるよ。


                ☆


 パチンと枯れ木を踏み割る音が響いた。


 俺とラルフは音が鳴った方へ振り向いた。


「だれかいるの」

 暗く広い庭に問いかける。

 小動物が通りすぎたのだろうか。

 返事なく、気のせいかと思いかけた時だった。

 木陰から長い黒髪が美しい細身の女の子が現れた。


「ごめんなさいね。お邪魔をする気はなかったのよ」


 微笑みながら近づいてくる。


「誰かわかる?」

 小声でラルフに尋ねた。

「大臣家のご令嬢。アリアーナ様です」


「警戒なさらないで、フェリシア様。

 初めてお会いするのですから。

 挨拶から、いかがでしょう。


 私は、大臣家の末娘。

 アリアーナ・ウェニントンと申します」


 俺はベンチから立ち上がり、丁寧にお辞儀した。

「はじめまして、アリアーナ様。

 私は、フェリシア・ボールドウィンです」


 漆黒の髪が、まっすく腰あたりまで流れる。

 真紅のドレスが、彼女のりりしさを際立たせる。


「お城の中では、透明感のある白銀の髪色と見えましたのに。

 夜の闇。月夜に照らされますと、そのふわふわの長い御髪が、王家の黄金色の髪色を思わせる金色を帯びるのですね」


 アリアーナは夜空の月を眺め、目を細めた。


「きっと、月明かりのせいでしょうね」


 ラルフが、そっと俺の前に立つ。

 アリアーナは俺たちを見て、くすっと笑った。


「宰相家のご令嬢が、使用人と逢引きしているなんて。

 こんな余興を見れるとは思いませんでしたわ」


「お嬢様はお疲れで夜風にあたりに来ていただけです。アリアーナ様」


 アリアーナはくすくすと笑う。


「いいのよ。フェリシア様はお可愛らしい方ですもの。

 その淡い若葉色のドレス。透明感のある御髪。深緑の瞳。

 妖精のように、可愛らしい。

 そのような方のおそばにいて、惹かれたとしても、罪には問えませんわ」


「アリアーナ様。

 ラルフは執事長の息子であり、私の幼馴染です。

 いつも私の至らないところを助けてくれる、優秀な執事です。

 そういったご発言は困ります」


「それは、ごめんなさい。

 ただならぬ雰囲気でしたので、誤解してしまったわ。

 王太子様の夜会で、ずいぶんと大胆なことをと思ってしまいました」


 アリアーナは後方に目配せをした。


「ねえ、ウィリー。

 そろそろ出てきたら」

 

 木陰からしぶしぶ出てきた。

 面白くなさそうに髪をかき上げる。

 そこに立っていたのは、王太子殿下だった。


「王太子様。

 どうしてここに」

 

 主催者である手前、ホールから離れることはないと思っていた。


「彼もまたお疲れなのよ。

 フェリシア様と一緒」


「アナ。やめてくれよ」

 王太子様はあからさまに嫌そうな顔をする。


 くすくすと笑うアリアーナ。

 

 ばつが悪そうな顔をする王太子。

 

 初めて会った時と雰囲気が違う。


「お二人は、親しいのですか」


「フェリシア様、私たちも幼馴染なのよ。

 私はウィリーの母君、つまり王妃様の実兄の娘です。

 ウィリーから見たら、いとこにあたります」


 王太子は面倒くさそうな顔をする。


「フェリシア嬢。

 まともに取り合わない方がいい。

 アナは人をからかうのが好きなんだ」


「あら、それはウィリー限定よ。

 こんな可愛らしいお嬢様をからかったりはしないわ」


 なんだろう、これは。

 言うなれば、犬猿の仲なのだろうか。


 ラルフと二人で面食らっていると、アリアーナはこちらに気付く。


「気になさらないで。

 ウィリーは、もう決まっている婚約に、こんな大きな夜会など必要ないと内心膨れているだけなのよ」


「アナ、やめてくれ」


 うわ、すごく嫌そうな顔。

 これが王太子様の素なのかもしれない。


「もう決まっているのですか」


 アリアーナはほほ笑む。

 笑顔なだけに本心が読みづらい。


「アリアーナ様はご存じなのですか」


「察しているだけですわ」


「アリアーナ様。

 私は、婚約者になりたくありません。

 その決まった方は、私ではありませんよね」


 アリアーナは目を丸くした。

「あら、困ったわ」とつぶやき、王太子を横目で見る。

「振られちゃいましたわね」


「なんでそう面白そうに見る」

 王太子は本心から嫌そうな顔をする。

 大きなため息も吐く。

「婚約者は、フェリシア。君が第一候補なんだ」


 やはり、こういう未来は変えられないのか


「今、第一候補とおっしゃいましたが」

 ラルフが横から口をはさむ。

「他にもいらっしゃるんですか」


「ここにいる、アリアーナか、フェリシアか。候補はこの二人だ」

 王太子様は、なげやりで面倒くさそうだった。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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