閑話①
「あなた、レオンが殺されたわ」
「わかるのか」
「最後の力が、ほんの少しだけ残っているの。残りかすみたいな力よ」
「そうか。俺があの子が屋敷へ行くことを許したせいか」
「いいえ。
その方がいいのよ
あの子の運命はきっとここにはないもの」
「俺が最後まで反対すれば、そんなことにはならなかったなんてことはないか」
「ないわ」
「ここにいても、あそこにいても、変わらないということか」
「違うわ。
レオンが、あそこにいるから、次元がつながっていくの」
「次元?」
「そう。子供はいずれ親から巣立っていくでしょ。
でもきっと、その旅の果てに、大きくなって帰ってきてくれる。
帰ってきてくれますようにって。
私のわがまま」
「君の?」
「母としての、私のわがまま。
あの子が無事におうちに帰ってきますようにって」
「普通じゃないか」
「そうね。普通なんだけど。
あの子が存在しない子であったことへの修正が今働いているのかもしれない」
「君から聖女の力が失われつつあることか」
「聖女は、子供を産まない。そんな習わしが継承されてきた。
だから、本当は聖女の力ってどういう風に継がれるものか忘れられているんじゃないかってこと」
「レオンは産まれたよ。元気でまっすぐないい子だ。
女の子じゃないから、聖女ではないはずだ」
「そう。男の子だから、聖女にはなれないの。
でも、あの子の方に、力は移っている。
それは、分かっているのよね。
もしかしたら、これはあの子が自分の存在を証明する旅なのかもしれない。
証明して、きっと帰ってきてくれるわ」
「君がそう言うなら、きっとそうなのだろうね。
実感はわかないな。
レオンはもう帰ってこない。
俺たちも、どうなるかわからない」
「そうね。
私たち自身は、とても悲しく、苦しい現実を迎えるだけだもの」
「俺たちが次元を飛ぶことはないんだろ」
「ないわ。私には、あの子だけで手いっぱい」
「いや、レオンだけでもどこかで無事でいてくれると思えるだけ、ましだよ」
「雨、激しいわね。さらに激しくなってきた」
「ああ、事件を起こしても、逃げ足を隠せるな」
「数がくるだろう。
俺は君を守れないかもしれない。いや、きっと守れない。多勢に無勢だ」
「ずっと守ってくれたわ。
20年前から」
「こんな、つつましい暮らししかさせてあげれなかった男がか」
「レオンがいてくれて、あなたがいて、十分幸せだってこと。皮肉らないで」
「そうだね。こうなるってわかっていて逃げたんだ。今更だな」
「私は、裏切者の聖女。
彼らには私を殺す理由が十分にある」
「聖女の力なんてもうほとんどないだろう」
「そうね、きっと彼らには、私が生きていることと、私の姿かたちが憎いのでしょうね。
レオンの魂には、私の聖女の力のすべてが刻まれていることを、彼らは知らないのだもの」
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