11,再会
「レオン、けが人だ。けっこうひどい。どうする」
友達の一人が、レオンに駆け寄っていく。
もう一人が、俺の肩に手を乗せ、「大丈夫だよ。レオンならなんとかしてくれるよ」と優しく言ってくれた。
今の俺は不安げな女の子にしか見えていない。
一緒に遊んで、バカやってるレオンはあっちなんだ。
「レオンはね。村で一番賢い、俺たちのリーダー格なんだよ」
はっ! 俺が。
記憶の中の関係性と違わないか。
俺はリーダーでもないし、賢くもなかった。むしろ、ただのお調子者で。この二人といつも同じようにバカやっているだけだったはずだ。
俺はレオンを見つめた。
フィーの魂が俺の体にやどっているのか。
十八年もの生きた記憶を持ちながら、子供として生きているから賢いなんて評価なのか。
駆け寄って行った子と、レオンが話し込んでいる。
まとまったのか、こちらを向きゆっくりと歩いてくる。
そばまできて、レオンを見上げる。
フィーなのか。本当に。
レオンはまわりこみ、ラルフのそばに座った。
俺のそばにいた男の子に木の枝を持ってくるように言う。
「どうするの」
俺が恐る恐る問うと、レオンがはっと顔をあげ、まじまじと俺の顔を見た。
中にフィーがいるかもしれないと思うと、妙に恥ずかしくなった。
「腕が折れているから、添え木する。
悪いんだけど君、立ってもらえる」
「私が」
言われるままに立ち上がる。
すると、レオンの腕が伸びて、スカートのすそをつかんだ。
「今、ひもが必要なんだ。この裾を少しくれないか」
えっと言う顔をすると、すかさず、ラルフの方が顔をしかめた。
「お嬢様になんと」
言いたい気持ちもわかる。でも、ラルフに必要なら迷うことはない。
俺はレオンを見つめて答えた。
「いいわ」
レオンは腰に差していた短剣を抜き、上手に切れ目を入れて、すそを裂く。俺はレオンのなすがまま、くるっとその場で一回転する。スカートの長さが、10センチくらい短くなった。
「ありがとう」
レオンが静かに言った。
「こちらこそ、ラルフを助けてくれて、ありがとう」
レオンの中にフィーがいるかもしれない。
だとしたら、今この瞬間、生きていてくれてよかった。と、思える。
その後、見つけてきた添え木を当てて、ひもで縛る。その間に、さっきレオンのそばにいて何やら相談していた子が大きな布をもって戻ってきた。
その布を広げる。けが人のラルフをそっと持ち上げ、のせた。
両はじを持ち、ラルフを布で包むようにして、運んでいく。
レオンは、俺に「ついてこれるよね」と言った。「もちろん」と答え、彼らの後をついていった。
「ここが俺たちの秘密基地だ」と、招かれたのは岩かげだった。ものすごい大きな岩が、斜面に斜めに刺さっている。その下に空間があり、岩がちょうどいい具合に屋根になっている。
俺の記憶にもうっすら残っている。居心地の良い場所。
奥に木箱がいくつかある。
手前には焚火のあともある。
俺が遊んでいたときは、木箱なんか用意していなかった。
焚火の後も新しい。
そんなに頻繁に火を起こしていた記憶はない。
俺の記憶と、同じ場所なのに、雰囲気が少し違う。
ラルフは奥へ運ばれ、寝かされる。
木箱からさらに大きな布を出す。それをラルフにかけてくれた。
俺の中の聖女の力を使えば、きっとラルフのけがは治せる。
でも、今、ここでフィーかどうかもわからないレオンと友達の前で、使っていいとは思えない。
ごめん、ラルフ。もう少し待って。レオンがフィーかどうか確かめてから、治すから。
レオン達は3人で話し込む。
まとまったのか、俺の方にレオンが寄ってきた。
「今、仲間二人に大人を呼んできてもらう。
その間、ここで待つことになる。
君の靴では下山が難しい。体力も持つかわからない。
子供の俺たちにはけが人を安全に運びきるには心もとない。
現状、助けを待つのが良いと俺は判断した。
君もいいかい」
俺はレオンを見つめ、うなづいた。
すぐに二人は出て行った。
彼らの背が小さくなり、消えていくまで見送った。
寝ているラルフ。俺とレオン。三人が残った。
「フェリシアって呼べばいい?」
並んで立っていたレオンが、まっすぐ前を見つめたまま、朴訥とつぶやいた。
俺は名を名乗ってはいないはずだ。
「それとも、君こそ、レオンなのか」
俺をまっすぐ見つめてきた。
俺はうなづく。そして核心を問うた。
「君は、フィーなのか」
レオンの顔がほころんだ。
驚くほど、嬉しそうで、泣きそうな顔だった。
「レオン。ごめんね。あなたまで、巻き込んでしまって」
「いいんだ。俺だって、フィーを守れなくて、ごめんよ」
そう言って、手を取ろうとするよりも早く、レオンの体が動く。
俺はレオンこと、フィーに強く抱きしめられた。
フィーはそのまま、「ごめん、ごめんよ」とかすれた声で繰り返した。顔は見えないけど、泣いているような気がした。
俺だって泣きそうだったのに、涙が引っ込んでしまった。先に泣かれては、こっちは泣けない。レオンの体の中にいる泣きじゃくるフィーの背を撫でる気持ちで、手を背にそえて何度も撫でた。
「泣かないで、フィー。誰も悪くない。
そして、今、こうして出会えたのだから。
今度こそあんな未来にいかないように、一緒にがんばろうよ」
フィーが今ここにいてくれて、本当にうれしい。
やっと安心できた。
レオンはフェリシアとさえ出会わなければ、幸せに暮らせる。村の男として、生きて死ぬ人生は約束されているだろう。
フィーが俺と同じように生まれ変わり、安全な地にいてくれることがうれしかった。
このままフェリシアと出会わず、生きてほしい。
フィーの体を抱きしめて、俺は心から安心していた。
「レオン」
レオンの体と声を持つフィーが、俺の本当の名を呼ぶ。
「今は、いっぱい話したいことがあるんだ」
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