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唐突邂逅四天王!~主導権は敵にあり。優先順位は味方にあり。俺は生き残れば全然あり。そして対あり~

作者: ノーサリゲ

 今日もリーダーの俺、無愛想な女魔法使い、いつもにこにこしている女僧侶、豪快な女戦士で構成されている俺達パーティはいつも通り依頼を受けて、いつも通りそれをこなす――――――――はずだった。

 あいつに会うまでは。

 魔王軍四天王が一人、大悪魔フロイデウズ。

 どうしてそんな奴と、この平凡で当たり障りのない森の中で出会ってしまったんだろう。

 一応抵抗はしたが、全員ぼっこぼこにされて俺達は地面に這いつくばっている。


「クックックッ、暇つぶしになればと思って戦ってはみたが口ほどにも無い。もうよい、飽きた。貴様らを順々に殺してやろう」


 ガタイの良い体と背中に生えた鋭い翼、黒曜石と勘違いするほど鈍く光った頭から生える角を生やしたフロイデウスは、低い声で愉快そうに笑いながら俺達を見つめる。


「クソッ!!こんなところで死んでたまるかよ!!あたいは最強の戦士を目指すって決めたんだ!!」


 女戦死はそういいながら立とうとするも、ダメージを受けた体は言うことが聞かないようでもぞもぞと動くだけ。立ち上がる事は出来そうになかった。

 それでも瞳は死んでいなく、フロイデウスを睨んでいる。


「ほう、よい瞳をしているな。面白い、貴様を殺すのは後にしてやる。目の前で仲間が殺されるのを見とくが良い」


 フロイデウスは愉悦を体現したような表情をして女戦士を見下す。あの顔、自分が圧倒的な立場と知っていて見下してるな。

 クソッ、俺も死にたくないのに体が一切動かねぇ!!


「私達、死ぬんだ…」


 魔法使いのあんな表情始めて見たぞ。

 いつも無愛想にしている魔法使いがしたその顔はとても悲しそうで、目じりには涙が浮かんでいた。


「クックックッ、良いぞその表情。貴様を殺すのを後回しにするのもまた一興だな。もっと絶望を我に見せろ!!」


 フロイデウスは女戦死に向けたあの愉悦の顔を、今度は魔法使いに向ける。

 さっきから一方的に上から見下しやがって。怒りの感情がこみ上げてくる。


「待ってください!!せめて、せめて命を奪うと言うのなら私に祈りを捧げさせていただけないでしょうか!!」


 僧侶は一番ダメージを受けていない。

 這いつくばれども、まだ動く両手を顔の前で組んで祈りを捧げようとする強い意思をフロイデウスに示す。


「クックックッ、神に仕える者の前で無残に命を奪っていくのも愉快そうだ。貴様を殺すのは後にしてやる」


 そう言いながらあの愉悦の僧侶に向けるフロイデウス。ヤロウ、ひたすらに俺達を見下してやがる!!あの目!!あの目が気に食わな……あれ?

 俺の目の前で倒れている三人は、フロイデウスの殺す優先度が後回しになってるんだよな?ってことは。


「となると、最初に殺すのはお前だな。人間の男よ」

「待ってください大悪魔フロイデウス様。たんま、たんまで」

「何だ?」

「お前!!何四天王に敬語なんて使ってんだ!!」

「うるさいぞ戦士!!ちょっと黙ってろ!!」

「なっ!!お前!!」


 女戦死に怒号を飛ばされるが今はそれ所じゃない。俺は一分でも、一秒でも生きたいんだ。っていうかできることなら死にたくない!!

 生き延びるために状況を整理しよう。


 この悪魔は愉悦を感じて殺す優先順位を決めていた。そして見事にその愉悦を引き出した前の三人は殺すのを後回しにされている。ってことは俺も何か愉悦を引き出せる様なことを言えば殺す優先順位がリセットされる、もしくは後回しにされるってことになるよな?多分なるはず。

 何か、何か言葉を紡いで少しでも生きれる選択をしよう。


「……ああ!!このまま俺は死んじゃうんだ!!絶望!!俺の人生において史上最強の絶望だよ!!」

「クックックッ、絶望に落ちる人間の様を見るのは実に心地よいな!!先に魔法使いを見ていなければ貴様を後回しにしていたところだ!!」

「えっ、魔法使いの方が生かす優先順位高いんすか?」

「ああ。こやつの方が絶望指数が高い」


 絶望指数ってなんだよ聞いたこと無いよ!!悪魔の業界用語出してくるのやめてよ!!


「すんません、またたんまでお願いします」

「何だ?」

「君は何をしようとしてるの?」

「魔法使いその顔でこっち見ないで。ギャップが凄すぎて思考が停止しそうだから」


 普段無表情の魔法使いがあんな弱弱しい表情をこっちに向けると、衝撃が凄すぎて思考停止しそうになるから視界から排除する。魔法使いの目じりから零れた涙は地面に滴っていたがそんなのどうでも良い。

 また生きる思考を始めよう。

 本物の絶望に、所詮偽者は適わなかった。いや、言うほど俺も絶望はしてるけどね?それでも魔法使いが見せる絶望には適わなかった。ならば次は違う手だ。


「クソッ!!俺に力があればお前なんて倒せるのに!!」


 俺は戦士の真似をして全力でフロイデウスを睨む。頼む、頼むからこの目を良い目だって褒めて俺を後回しにしてくれ!!


「クックックッ」


 笑った!!これは確定演出だろ!!こいつさっきからずっと笑ってるし!!


「その死んだような目で睨まれても凄みは無いぞ」


 悪魔から死んだ目って評されたけど、その死んだ様な目で俺は切に生きたいって願ってんだけど?全力で誠心誠意を込めて願望を視線に乗せてんだけど?


「ちなみに殺す順番は?」

「依然変わり無い」

「左様で御座いますか。しばしお時間を」

「またか」

「なあ!!お前まさか」

「うるさいぞ戦士!!ちょっと黙ってろ!!」

「またかよ!!」


 思考だ!!今、動かない体に残された武器は思考だけだ!!頭を、脳を、俺の全てを信じて解を導き出せ!!

 興味を引いたサンプリングは、後僧侶の祈りしかない!!俺は聖職者じゃないが、祈りを捧げたいって心は誰もが持てる愛の権利だろ!!なら今は俺の中の愛を搾り出せぇぇぇぇえええええ!!


「子供の頃に飼ってた恋人の命日が明日なんです。どうにか見逃していただけないでしょうか」

「あなたに恋人なんていましたっけ?」


 勝った!!愛に対象は関係ない!!

 どれだけその者を愛しているか、どれだけその者を思うことが出来るか。これが祈りの本質だろ!!だったら俺が生きてきた中で一番心を痛めたのが、愛用していた性処理器具型スライムが宿屋で弾けてお亡くなりになったときだ!!あのときはあまりの虚しさに、思わずこの森に埋めて埋葬したほどさ!!でも、命日は一昨日だったのは内緒。

 そういえばここら辺に埋めた気がするな。


「クックックッ。恋人に祈りを捧げられずに死ぬ姿を見るのもまた一興」

「殺す順番は?」

「貴様がトップ高更新を続けている」

「なんてこったい!!このままじゃ俺が真っ先にお先真っ暗じゃん!!」

「とうとう本音を言ったな!!お前が何を企んでたのかあたいは薄々気づいてたぞ!!」

「戦士何の話?」

「私も気になります」

「やめろォ!!お前らは口を開くな!!大人しく格付けの変更を待ってろ!!」

「クックックッ。クックックッ」


 俺達がわちゃわちゃしている姿を、あの悪魔はまた笑みを浮かべて見下してくる。こいつずっと俺達を見下しやがって、首痛めちまえ。


「この男はな」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「五月蝿い」

「耳に…響きます」

「まだ足掻くかこの下種が!!」

「それが仮にもリーダーの俺に向かって言う言葉かよ!!」

「こんなみっともないリーダーはこのパーティが史上初だろうよ!!」

「だから何の話をしているんですか?」

「教えて欲しい」

「この男は」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 他のやつらに気づかせてたまるか、俺だけが気づいたこの優先順位の法則を!!戦士には気づかれたようだが、殺しの優先順位を繰り下げるにはまだ他の二人には知られてない!!


「クックックッ、面白い奴だ」


 嘘だろ!?この攻防でフロイデウスは俺に面白みを見出したっていうのかよ!!怪我の功名じゃん!!


「貴様を殺すときはさぞかしいい声を上げるのだろうな」

「マイナスの方向に見出しちゃったよ……」


 どうする?どうする!?フロイデウスが段々と俺に近づいてくんじゃん!!俺を真っ先に殺す気じゃん!!


「おお、神よ」

「うぅ…」

「至極当然の結果だな」


 仲間達全員俺を見殺しにする気だ。誰も止めに入るような言葉を言ってくれない!!

 どうする!?どうすればいい俺!?

 思考を巡らせている俺を他所に、フロイデウスは俺の目の前に立つ。

 そしてその腕に黒い魔法の刃を携えると。


「愉快な余興だったぞ。貴様はどんな声を出して死ぬのだろうな?」


 そう言って魔法の刃を振りかざした。

 ああ、もう俺はお仕舞だ。ごめんよ、皆。約束を果たせなかった。俺が死んだら世界は闇に…。


「ぐおっ!!なんなのだこの光は!?」


 死を覚悟して目を瞑り、ひたすらに命の終わりを待っていると、フロイデウスがなんだか驚いたような声を出していた。

 なんだろう。瞑った瞼の向こうから光が透けてくる。

 俺はまだ死んでいないことを実感しながら目を開けると、そこには……。

 後光が差している巨大なスライムが居た。


「なんじゃこりゃ……」

「グオッ!!ゴオォ!!」


 俺があんまりな光景に呆けていると、そのスライムはフロイデウスに絡み付いて飲み込み始めた。


「ねえねえ」


 いつの間にか近くまで這いずって来ていた魔法使いが俺の肩をちょんちょんとしてくる。


「何だ?」

「あれって、もしかして…あれ?」


 魔法使いの顔に少しの恥じらいがある。ちょっと不意打ちやめてよ。

 あれって何だ?…………いや、待てよ?めったに表情を変えることの無い魔法使いが赤らむほどのこと、そしてスライム。ってことはあれしかない。こいつあれのこと知ってたのかよ。

 うっわ。言いづれぇ…。でも言うしかない。こいつ分かってんだろなぁ。


「ああ、お前の予想通り。あれは俺が愛用していた性処理用スライムだ。一昨日お亡くなりになってここら辺に埋めてたと思ったが…なんでこんなことに」

「ごめん。あなたのってことまでは知らなかった。本当にごめん」


 魔法使いはますます顔を赤らめて俺から目を逸らす。


「……っいん!!」


 どうやら俺は必要の無い墓穴を自分で掘ったらしい。

 俺が失意のどん底に居る中、フロイデウスはどんどんスライムに飲み込まれていったが、俺としてはもうどうでも良かった。


「でも、これで分かった。多分、あれは君の…その、せい……あれを長年吸収していて、そして、私の涙によって超常的な進化をしたんだと思う」


 そうだ、思い出した。あのスライムを埋めたのは丁度魔法使いが倒れていたところの真下だ。

 人の体液ってのは魔力が芳醇だって聞くし、俺のあれも、魔法使いの涙もあのスライムは吸収したのだろう。


「え゛っ!!でも進化って、性処理用スライムってスライムの死骸を利用したもんだろ!?なんで死んだのが復活した挙句、進化してんだよ!!」

「最近の研究で分かったことがある。スライムは死ぬ事は無くて、魔力さえ与えられれば活動が可能だって」

「うっそ…じゃあ、今まで俺は仮死状態のスライムに突っ込んでだってことかよ…」


 なんなら致してる途中、不意に復活する可能性もあったのか…。


「でね、あれは私と君の魔力が合わさったものだから、その、実質」

「ストップ、止めろ。それは乙女が口に出していいことじゃない」

「ぐ、ぐわあああああああああああ!!この我がああああああああああ!!」

「ぽわぽわぽわぽわ」


 あ、いつのまにかフロイデウスとスライムは争い合って対消滅した。

 なんだったんだこの一連の出来事は?


「一体何が起こったのでしょうか?」

「私達は生き延びたんだ」


 比較的ダメージを受けてなかった僧侶と、元来タフな戦士は立ち上がって、フロイデウスとスライムがいたところを見つめる。

 俺は魔法使いから現状の解を教えて貰ったが、何も知らない二人からしたら謎も謎だろうな。


「……魔法使い。俺、お前の言うこと何でも一つ聞くからこのこと黙っててくれ」

「いいよ。貸し一つ」


 俺以外に現状を唯一知っているやつの口止めを成功した俺は、今後の活動をスムーズに行うために戦士が俺に抱いていた不審を解くことにした。


「これぞ、俺の計算通りって奴よ!!」

「まあ!!さすがはリーダー!!やったー、ばんざーい!!」

「そう褒めんなよ、僧侶ぉ~」


 僧侶は俺を賞賛するように手を上げて俺に笑いかけてくる。

 でも、その横で戦士が怖い顔をして俺を見てきた。どうして?


「あたいさ、耳。良いんだよ」

「へー、初耳」


 戦士は耳が良かったのか。初めて知った。


「だからあんたらの会話聞こえてたわけ」

「ん?」


 雲行きが怪しい。


「全部知ってんだからね?」

「wow!!」

「はぁ…色々言いたい事はあるが、お前のおかげで生き延びられた気もするし…。帰ったら酒、奢れよ。それでチャラにしてやる」

「仰せのままに戦士様」

「何の話ですか?」

「いいんだ僧侶。あんたは穢れ無きままで居てくれ」

「?。私はいつでも清いですよ?」


 トホホ、この戦いの結果は俺に何の利益ももたらしてくれなかったじゃないか。

 でも、生き残れたから結果オーライってことにしておこう。むしろ戦士が俺の行いを酒で見逃してくれんなら行幸だろ。

 ちょいちょい。


「なんだよ魔法使い」


 また魔法使いが袖を引っ張ってきた。


「責任取ってよね」


 魔法使いはいつもの無表情だが、なぜだか分からんが顔にウキウキ気分を感じた。


「……はぁ!?なんの!?」

「てめぇ…魔法使いにてぇ出したのか!!」

「その反応おかしいじゃん!!さっきに話し聞いてたんだろ!!」


 戦士は俺に向かって大剣を振り回して突っ込んでくる。


「ふふっ」

「あら?魔法使いさん今笑いました?」

「気のせい」

「待てゴルァ!!」

「トホホー!!もう四天王なんてこりごりだー!!」

 

 これが、後に魔王殺しパーティと謡われる俺達の、初四天王討伐話って訳。

 思いつきからの衝動で書いた短編小説。

 普段は別の小説を書いてます。

 Twitterでたまに絵を描いています。最近自分の中で渾身の絵が描けました。とっても嬉しかったので、単純な自慢です。

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