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28. 白く朽ちた灰の都




 目を覚ます。


 そこは真っ白な空間だった。床も壁も天井も、窓から見える外の景色も……唯一、床に敷かれている紅の絨毯を除く全てのものが、死んだように白く朽ちていた。


 ここはどこだ。自分はどうなった。確か、灰人に囚われて、それから……。


「お目覚めか? フレアガルドの娘よ」


「っ、誰だ!?」


 聞いたことのない女性の声。

 反射的に飛び退こうと体に力を入れ──一切の身動きが出来ないことを知る。


「なんだこれは!?」


 リーゼロッテの四肢を封じるかのように、灰が絡み付いている。

 いくら力を入れようとしても、ビクともしない。


「くくっ、抵抗しても無駄だ。貴様では決して逃れられぬ」


 その空間の再奥に続く階段。たった一つだけ存在する玉座のようなものに鎮座するのは、恐ろしいほどに白く、他の全てが霞んで見えるほどに麗しい女。


「貴女は、誰だ……」


 そう問いかければ、返ってきたのは嘲笑だ。


「あいつもそうだったが、どうして人はまず初めに名を聞こうとするのだろうなぁ? ……ああ、別に答えずとも良い。それを聞いたところで無意味なのでな」


「私はリーゼロッテ・フレアガルドだ。貴殿の名を聞いてもいいだろうか」


「裏切り者の末裔でも、最低限の礼儀は備えている、か……思い返せば、あいつは初めから名乗ろうともしなかったな。いや、名前すらも失っていたのだから当然か」


 女性が独り言を話している隙に、リーゼロッテはその女を観察する。

 自分を攫った化け物、灰人とは何もかもが違う。これがジャスパー達の言っていた特殊個体なのか、それともまた別の存在なのか。


「──私をあの駒どもと同じだと思わないことだ」


「っ……!」


 心を読まれている。


「心を読まずとも予想は付く。我が使徒……貴様らで言う灰人が、貴様を連れ去った。それが運び込んだ場所がここだ。灰人と関連付けるのは当然のことであろう?」


「使徒、だと……?」


「あれは私が作り出した使徒だ。これからはそう呼んでくれて構わないぞ?」



 それが真実であるならば、彼女が、このお方が──。



「まさか、貴女様が火継の……イルミナ様、なのですか?」


「──、──チッ」


 彼女が露骨に舌打ちをした後、締め付けが強くなった。手足の骨がミシミシと嫌な音を立て、これ以上は変な方向に折れ曲がる寸前まで縛られる。


「我らを拒絶し、自らを優先した裏切り者が……その名を呼ぶな」


 先程の発言が逆鱗に触れたのだと、リーゼロッテは理解する。


「申し訳、ありません……」


 すぐに謝罪の言葉を口にしたが、彼女の機嫌は悪くなる一方だ。


「その言葉は、何に対してだ? 私達を見捨てたことか? 裏切り者の分際で平和を得ていたことか? それとも、あの人の名を口にしたことか?」


「くっ、ぐぁ……」


「ならば、なぜ貴様らは今も生きている。なぜ息をしている。なぜ五体満足で生活出来ている。謝罪するならば死ね。騎士の分際で卑しい豚に成り下がった罪を償うというのであれば、全てを投げ出し、命すらも無意味に捨ててみせろ」


 気が付けば、女性はリーゼロッテの目と鼻の先まで迫っていた。


「っ、ガッ!」


 首を掴まれ、ギギギッと徐々に力が込められる。


 そうしている間、彼女はどこまでも冷酷にリーゼロッテを見ていた。

 まるで人を殺すことを何とも思っていないように、目の前にあるゴミを処分するのと同じで、自分は当たり前のことをしているのだと言うように。


「私の名は、イルシェーラ・レ・フレイム。火の時代、騎士であったフレアガルドに剣を向けられ、人間どもに見捨てられた女王だ」


「あ、がっ、くるし、ぃ……」


「やめてほしいか? 助けてほしいか? その言葉を聞こうともせずに我らの全てを拒絶した貴様らが、この私に命乞いをするのか?」



 ──本当にどこまでも卑しい豚であるな。

 嘲笑うイルシェーラ。だが、その目は一切笑っていない。苦しみ足掻くリーゼロッテの様を、ただ見つめている。



「アッシュには感謝せねばならない。あいつのおかげで貴様らを見つけることが出来たのだからな。何かしら褒美を考えてやろう」


「あっ、しゅ……だと」


「ああ、そうだ。貴様はあいつの友人だったか? ……くくっ、最後まであいつのことを人間だと信頼し、縋り付く姿は誠に滑稽であったぞ」


 喉を握り潰される寸前まで力を込められ、最後は乱暴に振りほどかれる。

 何度も咳き込み、荒い呼吸を繰り返した後……ようやく先程の言葉を考えることが出来るようになった。


「アッシュは私が作り出した使徒だ。その中でも特殊なものでな。灰の騎士と名乗ることを許した唯一の駒である」


「……っ、……アッシュが、にんげん、じゃない……? そんな、嘘だ」


「嘘ではない。私が奴を見いだし、その体を焼いて使徒に作り上げたのだ。あれは私の物だ。貴様のような泥棒猫が色気を使うな。汚らわしい」


 イルシェーラは不快感を露わにし、汚物を見るような目でこちらを睨みつける。


「誠、不愉快だ」


 頬を殴られる。強制的に思考を中断され、意識を手放そうと目を瞑る寸前、再びイルシェーラの拳が降ってきた。


「眠らせるわけがないだろう。折角見つけ出したのだ。最後まで私に苦しむ姿を見せろ。これまでの罪を謝罪し、悔やみ、生きることを諦めろ。言葉も出ぬほどに痛み付けた後、貴様を灰に変え、自我を持たせたまま体を操ってやる。騎士の心が死ぬまで一生、貴様は灰人と同じく人間を殺し、私の手足となって火を奪うのだ」





「…………ころ、……ぃ」





「ぁん?」


「今すぐに、殺してください。これ以上は償いでも謝罪でもない。ただの屈辱と拷問だ。ならば、この身を捧げて最後の謝罪とします。だから他の皆は──」




 助けてください。


 それはリーゼロッテの──最後の望みだった




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