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第7話 人生泥棒

「結局、家宝は見つからなかったのか」


 俺は意識が途絶えてからの今までの経緯をリサの口から聞いて、あれだけのことをしたのに関わらず探し出せなかったという事実に打ちひしがれていた。もし今ベッドに座っているのではなく、立っていたのならまた倒れこんでしまうほどのダメージだ。


 俺が気を失った後、どうなっていたかというと、リサが縄を掴んだまま塀の向こうへと飛び降りて、シーソーの原理で俺を無理やり塀の上へと引き上げた後、外で待機していた黒服たちが落下してきた俺を受け止め、回収をしたらしい。目が覚めた時には気を失ってから一時間ほどが経っていた。


「最有力候補だった保管室と書斎のどちらにもなかったそうですわ。他も黒服がくまなく探したそうですが、見つからなかったという話です。そもそも情報戦で負けていたということですわね」


 リサがたんたんと話して聞かせる。


 リサも内心では落胆している部分があるのだろうが、同時に終わってしまったものは致し方ないと割り切っている様子でもあった。


「まあ、見つからなかったものは仕方ないか。そういえばウエストバッグに入ってた懐中電灯を衝撃で壊しちまったんですけど」


 声を向けた先は、リサの隣で控えていた執事長だ。俺はがさがさとウエストバッグをあさり、中から懐中電灯を取り出そうとする。


「いえ、気になさらずともそう高いものでもありません。あなたの身体が第一ですよ。はっはっは」


 執事長は大したことではないと笑ってのける。リサはそんな執事長をジトッとした目で見ているが、どういう意図を持つものか俺には分からなかった。


「ん?なんだこれ」


 ウエストバッグに見たことのないものが混入しているのを確認し、疑問の声をあげる。


「なにかありまして?」

 リサは怪訝な声をあげ、眉を寄せながらこちらへと近づいてくる。


「いや、見覚えのないものが中にあって」


 俺は緋色に金色で縁取られた長方形の箱のようなものを持ち上げて見せる。


「それ、家宝ですわ」

 リサは唖然とした顔をして声を漏らす。


「え、これが! おお、すべて解決だな。けど、なんで入ってるんだろう」


 いつの間にこのようなものがバッグの中に混ざったのか。思い巡らすと、ふと一つの可能性に行き着いた。


「ああ、暗い部屋で中身をぶちまけた時に気づかずに一緒に回収したのか」


 何かの拍子でバッグが開いていて、中身が出てしまったんだったな。完全に偶然ではあるが、家宝はあの部屋の中に安置されていたらしい。


 家宝の中身はなんなのか。俺が取り返したわけだし、見る権利くらいあるだろう。


 そう思い、箱を開けようと指を動かす。リサの懐中時計が近くにあるのだから、おそらく開いてくれるだろう。


「あ、ちょっと」

 リサの制止もやや遅く、俺は中を覗いてしまった後だった。


「これが俺の求めた家宝なのか」

 中に鎮座されていた物は数枚の紙切れだった。その紙切れには絵とフキダシのようなものが鉛筆描きで多数描かれている。いわゆる、漫画だ。右上のほうに小さくリサと名前が書かれているのも見受けられる。


 これは家宝というより黒歴史だな。


 リサは顔を真っ赤にして俺から紙を引ったくり、なにやら言葉にならない何かを呻いている。俺を睨み付けようとするものの、まともに顔を合わせられないのか、視線を上下させている。恥じらいを怒りでかき消そうとしている様は実に可愛らしい。


 不意にコンコンと扉がノックされ、「失礼します。お茶をお持ちしました」という声が届く。


 開いた扉の先に現れた人物を見た俺は相当間抜けな顔をしていたと思う。


「俺を突き落としたメイド!」


 俺は紅茶のいい香りを漂わせながら現れた女性に指を差して叫ぶ。


「あら、人を指差すのは失礼ですよ」


 非難の声を気にした様子は微塵もなく、ふふふと優しげな笑みを浮かべて諌める。


「メイド長、あなたもなにかしてらしたの」


 リサはなんとか落ち着けてきたものの、開放されない怒りの矛先をメイド長に向けることで解消する。


「彼女には裏で仕事をしてもらっていたのですよ」


 紅茶の入ったカップを受け取りながら執事長は答える。


 突然執事長は目を細めてにっこりと笑いこちらを見た。その笑顔は、新しいおもちゃを得た子供の顔に似ていた。


 頭の中で警鐘が鳴り響き、心臓がドキドキと嫌な音を立て始める。


「いやあ、しかし金森君、君は危機を乗り越える、家宝を取り戻す、実に素晴らしい。君にはこの家の執事になってもらおう」


 執事長が予想に違わず恐ろしい提案をしてくる。


「そもそも、あれを見られた以上、放置するわけにはいかないわ」


 間髪いれずにリサは頑として譲らない口調でそう審判を下した。


 つまり、デッドオア執事。


「い、いえ。遠慮しておきます」

 そんな俺の出そうとした言葉は出る機会なく、次の絶叫で置き換えられた。


「嘘だろおぉぉぉぉぉぉ」


 声はむなしく響いた。

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