98.ルイノ・トムラ
少女――ルイノは跳ぶように移動を続け、やがて町外れまでやってくると、ピタリと足を止めて振り返る。
くすりと笑みを浮かべて、
「危ない危ないっ! あそこで出会ってたら、問答無用で斬り合ってたところだよー」
吐き出すように言った。
イリスに足止めをされている間にやってきた『彼』。姿は見えなくても、ルイノには分かる。
イリスの下にやってきた彼は、常人とは比べ物にならない異様な圧を感じた。
《剣客衆》を半ば不意打ちのように殺し、イリスとも斬り合わなかったルイノは、不完全燃焼の状態にある。
今、この瞬間にアルタ・シュヴァイツと会うのは――まずいと判断した。
「約束は約束だからねー。まずは剣客衆……あいつらさえいなくなれば、万全な状態で戦える……にひっ。あーあ、こんなことなら全員殺っとけばよかったかなぁ。一人には逃げられるし……それと、《剣聖姫》」
呟きながら、ルイノはまた、先程のことを思い出す。
剣客衆との戦いを、ルイノは遠巻きに確認していた。
イリスは十分に強い――それこそ、ルイノが戦ってもいいと思えるくらいには。
だから、今のイリスでは物足りなかった。
ルイノに対して明確な殺意を持たない……紛れもなく剣士でありながら、彼女の剣は『紛い物』である――そう、断定する。
イリスは自分のためではなく、他人のために剣を振るう……それが、ルイノにはよく分かった。
「剣も刀もそう……自分のために振らないと。でも、素質はあるかもね」
だが、ルイノの去り際に、なおもイリスは一歩前に踏み出そうとした。ルイノが『殺し合い』になることを示唆したにも拘わらず、だ。
故に、まだイリスには可能性がある。
もう少し刺激してやれば、イリスは確実にルイノと戦う道を選ぶだろう。
そうなれば――彼女もまた、ルイノが戦うべき相手となる。
ルイノの目指す道に、『強い者』はいくらいても足りないくらいだ。
「にひっ、惜しかったなぁ。あと少しで、『死合』ができたかもしれないのに……。ま、いっか! また後で、だね」
腰に下げた刀の柄に触れて、ルイノは駆け出す。
気持ちを発散させるため――そしてあわよくば、剣客衆を見つけ出して仕留めるために。
ルイノパートのため、少し短めです。