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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
94/189

94.因縁の

 イリスはノウェに連れられて、人通りの少ない路地裏のところまでやってきていた。

 周囲の視線を気にする必要はなくなったが、ここはここで少し落ち着かない。

 だが、ノウェが正確な占いを行うためには道具が必要だという。

 この辺りで、ノウェはよく占いをしているということだった。


(……でも、先生とのことを占ってもらおうだなんで、私もどうかしてるわ)


 ここまでやってきて、その事実に嘆息する。

 イリスが今、占ってもらおうとしていることは、アルタとのことだ。

 アルタはイリスに何か隠し事をしている――それは分かっている。

 占いで、その『隠し事』について知るつもりはないし、知れるとも思っていない。


(ただ、たまにはこういうのもいいかなーって思っただけ。そうよ……軽く話して早く戻らないと)


 アリアの飲み物を買いに行く約束もしている――あまり時間をかけるわけにはいかなかった。


「あの、どこまで行くんですか?」

「ウフフ、もう少しですよ」


 イリスの問いかけに、ノウェが振り返ることなく答える。

 それから少し歩いていくと、ようやく小さな占い店が目に入った。


「さ、そちらに」


 ノウェに促されて、イリスは対面に座る。

 占い店らしく、水晶やカードといったものが、視界に入ってくる。

 イリス自身、占いに詳しいわけではないが、どういうことをするのか知っている。

 たとえば手相を見る、というのがシンプルでありがちなものだ。


「では、早速占いを始めたいと思うのですが……貴女のお名前を聞かせてもらっても?」

「……イリス・ラインフェルです」

「イリスさん、ですね。では、想い人の話を聞かせてください」

「で、ですから……想い人ではないです」

「ウフフ、そのお方との関係は?」

「関係……?」


 ノウェに尋ねられて、イリスは少し考え込む。今のイリスとアルタの関係は……『生徒と教師』で、『護衛対象と護衛の騎士』という関係にある。

 だが、それ以上にイリスが大事にしていることは、


「『剣の師と弟子』、です」


 その関係であった。

 イリスに剣を教えてくれて、より高みへと導いてくれる存在。きっと彼がいなければ、今のイリスはここにいない。

 それは護られたということもあるが……剣士としても経験を積ませてもらっているという実感がある。

 アリアを助け出すときもそうだ――負けたと思ったけれど、アルタが背中を押してくれたから、まだ戦えた。


「師匠と弟子……なるほど。では、そのお方との相性を占いましょうか?」

「相性、ですか」

「ウフフ、そうです。本来ならば二人の手相を見る必要はありますが、身体的特徴からでも占うことはできます。貴女の師匠は、どんな人物ですか?」

「えっと、私より背が低くて、黒髪で、少し女の子らしい顔立ちをしてて……そういう情報でいいですか?」


 色々と羅列しようとしたが、不意に不安になってイリスは問いかける。

 アルタの外見について話していたのだが、何だか妙に恥ずかしくやってきた。そう思っているのだと口にするのが、イリスにとっては何だか気恥ずかしい。

 ノウェがにこりとした表情を浮かべて、頷く。


「エエ、それで構いません。今ので大体確認できました」

「もう占――っ!」


 イリスはすぐに、その異変に気が付いた。

 ノウェの表情は変わっていない。にこやかで、優しげな笑みを浮かべたまま……けれども、言い知れぬ不安を覚える。

 かつて何度か味わった感覚――これは、殺気だ。


「ウフフ、少し遅かったわね?」


 ピタリ、とイリスの喉元に刃が突き立てられる。

 イリスは動きを止めた。刃が伸びているのは、テーブルの下からだ。


「……何者なの、あなた」

「ウフフ……『占い師』なのは本当。けれど、私はノウェ・レーシンではないの。貴女がそれを知らなかったから、自ずと外部から来た人間であることは分かるわ。あれだけの騎士がいる中で、中々接触するのは大変だったけれど……さっきの答えで確信したわ。貴女が、アルタ・シュヴァイツが護衛している《剣聖姫》ね?」

「――」


 イリスは驚きに目を見開く。

 目の前にいる女性はノウェ・レーシンではない誰か。そして、ノウェを名乗る女性は、アルタとイリスのことを探っているような話し方をしている。


「……私に何か用があるの?」

「……貴女に用があるわけじゃないの。けれど、貴女を使ってアルタ・シュヴァイツを誘き寄せたいの」

「シュヴァイツ先生を……?」

「エエ、誰にも邪魔されることなく、私が彼を殺すために。だから、貴女の『身体の一部』でも送れば……アルタ・シュヴァイツも従ってくれるかしらね?」


 ツウッとイリスの肌を撫でるようにしながら、刃先が下へと流れていく。

イリスの胸元の水着を軽く切断し、はらりと胸元を露にさせる。

 ――女性の目的は、ノウェという占い師に成り済まし、アルタを呼び出すことだ。

 イリスにではなく、アルタに用がある……それが分かったのなら、イリスもただ捕まるつもりもない。 


「残念だけれど、そんなことで先生は来ないわ」

「ウフフ……子供ながらに学校の先生もしているのよね。子供先生で《剣聖姫》の護衛……私が持っている情報はとても少なくて……けれど、貴女がイリスという名前で、『黒髪の少年』の話をするのなら、間違いなくアルタ・シュヴァイツのことだと分かるわ。貴女のことを守る騎士が、果たして貴女のピンチに駆け付けないのかしら?」


 女性はアルタの特徴をよく知っているようだ。何者か分からないが、イリスは女性を睨むようにしながら答える。


「ええ、私も……自分の身くらい守れるもの!」

「――!」


 言葉と同時に、イリスがテーブルを蹴りあげて、後方へと跳ぶ。サンッと小気味良い音と共に、女性はテーブルを切り裂いた。わずかな痛みが、イリスの足元に走る。


(……っ、斬られた。けれど、深い傷じゃない)


 イリスは怪我を確認するよりもすぐに、臨戦態勢に入る。右手に魔力を集約させ、イリスは《紫電》を呼び出した。

 すらりと、紫色に輝く刀身が姿を現し、イリスの周囲に雷を呼び起こす。

 パリパリと音を鳴らしながら、イリスは女性に向かって刃先を向けた。


「何者か知らないけれど、少なくともあなたが先生を狙っていることは分かったわ。だから、拘束させてもらうわよ」

「騎士みたいなことを言うのね? 勝気な女の子は好きよ……屈服させたくなっちゃうもの」


 先ほどのような言葉遣いとは打って変わり、妖艶な笑みを浮かべて、下なめずりをしながら女性が全容を見せる。――先ほど、イリスの喉元に当てられていたのは、女性の膝から伸びる刃であった。


「……っ!」

「ウフフ……そんなに驚いた表情をしないで。まだまだこれからよ? 剣客衆が一人――ラスティーユ・トメルネーマが、躾てあげる」

「剣客衆、ですって……?」


 イリスの紫電を握る力が強くなる。突然の襲撃は――かつての因縁の組織であったのだ。

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書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] ええ…ぜひともここの戦闘シーンも挿絵で見たいものですねぇ、深い意味はありませんけども。ええ。
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