表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
93/189

93.報告

 僕が『その連絡』を受けたのは、イリスが飲み物を買いに行ってからしばらく経ってのことだった。中々戻ってこないイリスの代わりにやってきたのは、周辺で警戒に当たっていた騎士の一人。

 その騎士に案内されてやってきたのは、海岸沿いにある廃屋。

 以前は倉庫として使われていたらしいが、すでに人の出入りがなくなって久しいという。

 その廃屋、一人の遺体があった。


「彼女は?」

「確認したところによると、ノウェ・レーシンという、この町では有名な占い師だったそうです。ここ最近は姿が確認されていなかったそうですが……」

「そうですか」


 彼女――遺体の名は、ノウェ・レーシン。肩から胸にかけての一撃で、抵抗した様子もない。

 それ以外に目立った外傷はなく、ノウェは正面から斬られて死亡している……それが、僕にはすぐに分かった。そして何より、これほどまでに綺麗な剣術は、彼女を斬った相手がよほどの手練れであったことを理解させる。

《剣客衆》がこの町の付近に潜伏していると分かっている状況だ。犯人も、おそらくは剣客衆の一人ということになる。


「正面からの一撃。強いね」

「なっ、君……! どこから入ってきた!?」


 騎士が驚きの声を上げる。そこにいたのは、アリアだった。

 僕は騎士を手で制止し、アリアの前に立つ。


「砂浜で待っているように言ったはずですよ。子供が見ていいものじゃないですし」

「アルタ先生も子供でしょ。それに、これくらいなら見慣れてる。もう、隠してる場合じゃないんじゃない?」

「――他の騎士達に警戒するように連絡を。それと、ここの処理は任せます。僕も動きますので」

「しょ、承知しました!」


 僕の言葉を受けて、騎士がその場を去っていく。僕はそのまま、廃屋を後にした。

 その後にはアリアが続く――そこで、僕は小さくため息をついた。


「分かりましたよ。こうなると、君は勝手に調べそうですからね。それに、調べようと思えば調べられたでしょうし」

「うん、それくらいはできたよ」


 アリアがそうしなかったのは、先ほども言っていた通り――僕のことを信頼してくれているということだろう。その気持ちに応えるのならば、何事もなかったかのように今回の課外授業も終わらせることだったのだろうが……彼女もいよいよ今の状況について知ろうという気持ちが強くなったようだ。


「剣客衆を覚えていますね? イリスさんの殺害を請け負った組織です」

「! あの殺し屋の人達、だよね。まさか、ここにいるの?」

「はい、確認されているのは一人ですが……現在この町に潜伏している可能性が高いです。もっとも、すでに名前や特徴もある程度分かっています。気が付いている通り、すでに騎士も十数名配備しています。向こうが仕掛けて来ないのも、警戒が強いことが分かっているからでしょう」


 剣客衆はいわゆる戦闘狂と言える組織ではあるが、勝てない戦いに挑む連中ではないということだ。頭目であるアディル・グラッツもまた、僕と斬り合った時に『微塵も負ける』とは考えていなかっただろう。


「はあ、その剣客衆がまたイリスを狙って……? それなら、イリスに教えるべきだよ」

「イリスさんが狙われているのなら、もちろん話しましたよ。ですが、今回は違います」

「……それって、狙われるのは先生ってこと?」


 まだ本題に触れていないが、アリアは察しのいい子だ。

 およそ僕の態度や話から、今回の状況について理解したのだろう。剣客衆がここにやってきて、仕掛けてくる可能性がある。それで狙われているのがイリスでないのなら――彼らの狙いは僕にある、と。

 僕がアリアの言葉に頷くと、彼女はやや怒ったように眉間に皺を寄せた。


「そういうことなら、もっと早く話してよ」

「あはは、それこそ話すようなことでは――」

「笑いごとじゃない。先生が狙われてて、敵が来てる。それなら、わたしのことを頼るべき案件」


 胸を張って、アリアはそんなことを言う。さらに、周囲を確認するような仕草を見せて言葉を続ける。


「わたしなら敵の居場所を探れる。仮に交戦になったとしてもやれる可能性がある。先生に、いくらでも情報提供ができる」

「アリアさん、気持ちはありがたいですが――」

「先生はわたしを助けてくれて、わたしが先生を助けないなんて不公平。先生が嫌がっても、わたしは自分で先生の手伝いできるよ」


 ……それはある意味、脅しにも聞こえるような言葉であった。アリアならばそれができる――僕もよく理解していることだ。

 早い話、僕が協力を求めなくても、アリアが自ら調べて僕に情報を提供する、そういっている。

 それならば、結局のところ協力した方がいい――そう、僕に言わせるつもりなのだろう。


「敵は剣客衆です。アリアさんも一度、交戦していますね?」

「うん。わたしなら、戦えるよ」


 僕が確認するように問いかけても、アリアはそうはっきりと答える。引き下がるつもりなどない、そういう答えだった。

 僕は肩をすくめて、それでもアリアの決意を受けて頷く。


「……分かりました。ですが、君に単独で調査を依頼したりはしません。僕の指示に従って動くこと――それが条件です。むやみに危険なことに首を突っ込んだり、危険だと感じる場所に行ったりしてはいけません。それができるのであれば、協力してもらいます」

「分かった。わたしはイリスとは違うから」


 アリアがイリスを引き合いに出してそんなことを言うが、僕からすればどちらもあまり変わらない。誰かのために動くと決めれば、平気で命を投げ出そうとするようなタイプだ。

 この若さでそれができるのはすごいことではあるが、故に心配なこともある。……だから、監視の意味も込めて僕の傍に置くのが一番いいだろう。


「……ところで、そのイリスさんが戻ってくるのを待ってもらうために、海岸沿いにいてもらっていたのですが。イリスさんは飲み物を買いに行っていたんですよね?」

「中々戻ってこないから、先生のところにきた。ひょっとしたら、こっちに向かう先生の姿を見たんじゃないかなって」

「なるほど。では、まずはイリスさんを迎えに行くとしますか。この付近で問題が起こった以上、彼女も一人にしておくのは危険です。アリアさんは、海岸沿いでそれとなく警戒に当たってください。何かあれば、すぐに僕に報せを」

「分かった。イリスにはこのこと、報せるの?」


 アリアがそんな問いかけをする。……アリア自身は僕のことを心配しているが、この事実をイリスに報せるとなるとまた別だ。


「いえ、イリスさんに報せるつもりはありません――それは、君も同じ気持ちのはずですね?」

「……うん。イリスはこういうこと知ると、危ないことするから」

「それをアリアさんが言いますか。相変わらず、難儀な子達ですね」


 小さく息を吐いて、僕は呟くように言った。

 剣客衆が動き出している――こちらも、そろそろ動き出さなければならないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ