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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
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89.水着の少女達

 生徒達には荷物を宿へと預けさせ、僕は海辺へとやってきていた。

 今回の日程的には二泊三日――それほど長くはないが、一応海にただ遊びに来たわけではない。学園の授業の一環であり、海辺に隣接する町の暮らしや仕事。そのほか海洋の魔物について学ぶ目的もあるのだが……。


「海だーっ!」

「泳ぐぞー!」


 颯爽と水着に着替えた生徒達が、はしゃぎながら浜辺を走っている。

 僕はそんな姿を見守りながら、小さく嘆息した。


「まあ、海に来たらまずは遊びになりますよね」


 僕もそれを咎めるつもりはない。荷物を置いた生徒のほとんどは水着に着替えて、早速海辺で遊び始めていた。

初日の午後は主に浜辺での活動が中心となる。浜辺の砂で山を作る子達や、海で水をかけあう女子生徒達。それを砂浜から見つめる男子生徒など様々だ。

僕の役割は生徒達が危険な場所に行かないように監視すること。浜辺では太陽を遮るようなものもなく、僕はパラソルを借りて少し離れたところから様子を見守っていた。

 海水浴を楽しんでいるのは生徒達だけではない――他にも、町に暮らす人々や観光に来ている一般の客なども目に入ってくる。そんな中に、《王国騎士》の姿もあった。


「アルタ君、オイル塗ってよ、オイル!」


 椅子に座っていた僕に、一人の女子生徒が声をかけてくる。

 彼女の名前はミネイ・ロットー。仲のいい女子生徒と三人組で行動していて、僕が最初に『授業』をした時にも三人組で仕掛けてきた子の一人だ。

 ちらりと胸元も水着を引っ張りながら、誘惑するような格好で言ってくる。……どうやら最近は、子供ながらも驚いたりする姿を見せない僕をどうにか動揺させようとする遊びが流行っているという噂も聞いた。

 確かに、女の子の裸を見たくらいで動揺するような生活を送ってきたわけでもないし、今も見せられたくらいで大きな反応を見せることはない。


「アルタ君ではなく先生ですよ。他の二人はどうしたんですか?」

「んー、先に海で遊んでるよ。私だけ遅れちゃったからさ! だから、アルタ君……いいでしょ――」

「私がやってあげましょうか?」

「へ……? イ、イリス様!?」


 ミネイの言葉を遮ってやってきたのは、にこやかな表情のイリス。

 彼女の肩に手を置いて、もう片方の手にはオイルを持っている。


「あ、あはは、冗談、冗談ですよ!」

「遠慮しなくていいのよ。そこに横になって。代わりに私もやってもらうから」

「や、その……だ、大丈夫ですから!」

「あ、ちょっと!」


 だが、ミネイは早々に慌てた様子で去っていく。……イリスの威圧感にやられてしまったか。

 今のイリスからは中々に強い圧力が僕も感じられた。以前からそうだが、イリスはラインフェル家という王国の《四大貴族》の一つに数えられる。

 イリスの父、ガルロ・ラインフェルは騎士団長であったが、それ以前から王国に大きく貢献してきた家柄の一つなのだ。

 現王であるウィリアム・ティロークの家柄も、この貴族のうちの一つである。

 次期《王》としての筆頭候補はラインフェル家のイリスであり、ゼイル・ティロークの件もあってティローク家が次に王の座に就くことはないと言われている。

 現王であるウィリアムは隣国との戦争時から活躍してきた男であり、その功績や騎士達の信頼もあってまだ王という座に就くことができている。

 だが、本人も遠くない未来にはその座を退くつもりでいるらしい。――息子の不祥事のことも含めて、本来ならば今すぐにでも交代すべきであると考えていたようだ。今の王国に、ウィリアムに代わるとなる者達は、まだ若すぎるというところが問題なのだろう。

 そんな王の候補の一人であるイリスは、去っていくミネイの方を見ながら嘆息する。

 他の生徒達とは、あのように距離感があるのは最初からだ。

 元より王の候補として以前から知られ、十歳にして剣術大会で優勝するような貴族の一人娘――普通に接しろ、と言う方が難しいのかもしれない。

 イリスが僕の方に向き直ると、何かに気付いたように水着を隠す仕草を見せる。

 純白のビキニ――彼女らしいと言えば彼女らしい、とてもシンプルな作りのものだ。


「あ、すみません……恥ずかしいところを」

「いえ、助かりましたよ。最近ああいう感じでちょっかいを出してくる子が増えてきましたからね。僕にオイルを塗らせても作業にしかならないんですが」

「! やっぱり最近そういうことが増えているんですね……。私から注意しておきましょうか?」

「そこまでの話ではないですよ。それに、そういうのは講師である僕の役目ですから」


 イリスに注意されてしまっては余計に他の生徒達も委縮してしまうだろうし、距離も遠くなってしまうかもしれない。同じクラスなのだから、少しくらいは仲良くした方がいいだろう――そうは思うが、こればかりは僕の方から促しても中々難しそうだ。

 そんなイリスの後ろから忍び寄るようにやってきたのは、一人の少女。


「先生、まずはイリスの水着の感想教えて」

「ちょ、アリア……!?」


 隠す仕草を見せていたイリスの両手を後ろで掴んで、無理やり見せるようにそんなことを言う。

 顔を赤くして動揺した表情を見せるイリスに対し、アリアが後ろから僕に視線を送る。

 水着の感想――そう聞かれても僕から期待に応えられるようなことは言えないが。


「とても似合っていますよ」


 だから、正直に思っていることを言うしかない。無理やり見せるようにしたアリアに怒るのかと思えば、僕の答えを聞いたイリスは、視線を泳がせてやがて俯くと、


「あ、ありがとうございます」


 そう小さな声で呟いた。

 そんなイリスの隣にアリアが立つ。


「わたしは?」


 イリスの姿に隠れていたが、アリアは真っ白な肌とは対照的に黒の水着であった。私服は何かを忍ばせているからか、サイズの大きく布面積で肌も隠れていたのだが……水着の方は逆に布面積が少なく見える。むしろ、かなりギリギリを攻めているのではないだろうか。


「アリアさん、あまり男子生徒の目を引く水着は感心しないですね」

「イリスが学園指定の水着で行こうとするから、せっかくだから買ったの」

「そ、それは言わなくてもいいでしょう!?」

「学園指定……? 水泳の授業はなかったですよね?」

「授業はないけど、それこそこういう授業で水着は着るでしょ。だから、一応学園が指定する水着はあるよ。誰も着てないだけで」


 そうだったのか。あまりその辺りのルールについては把握していなかった。……まあ、学園の水着を着なければならないというルールもあるわけではない。

 むしろ、僕も把握していなかったルールをしっかりと守って水着を着ようとしていたイリスの方がすごいと思う。


「ま、まあ……ルールと言っても守らないといけないものではないので、私もこの水着にしました」

「どの水着がいいかなって、イリス結構ノリノリで選んでたよね?」

「だからそういうのは言わなくていいのよ!」

「あはは、イリスさんも楽しみにしてくれていたのなら僕も嬉しいですよ」

「あ、その……楽しみにしていたというわけでは、なくて」

「いえ、丁度僕も見張りをするだけでは飽きてきたところです。そろそろ行きましょうか」

「え、行くって、どこに……?」


 イリスが怪訝そうな表情で僕のことを見る。

 僕も上着を羽織ってはいるが、中は水着だ。イリスも水着を着てきた以上、やるべきことはすでに分かっているだろう。


「海ですよ、海。泳ぎの練習、今から始めますよ」


 時間も限られている――今のうちに、泳げないイリスに基礎くらいは教えておいた方がいいだろう。

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