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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
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84.《剣客衆》と《剣客少女》

《剣客衆》――それは、どんな相手であろうと斬り殺すと言われる殺し屋集団。

 かの《剣聖》ですら、依頼であれば殺しの対象とすると言われていた。

 組織に属する者は十名――そんな剣客衆には、序列がある。強さを基準としたものであり、第一位は頭目であるアディル・グラッツであった。

 ……だが、そんな剣客衆の頭目であるアディル・グラッツは、《ガルデア王国》にて《剣聖姫》暗殺の依頼を受けて、敗死する。

 それに追随する形で向かった三人の剣客衆もまた、全て敗北する結果に終わった。

 それも、たった一人の《騎士》によって、殺されたというのだ。


「仇を取る――などと言うつもりは毛頭ない。だが、剣客衆の名を地に堕としたままではいられん」


 男――ロウエル・クルエスターは、そんな剣客衆の一人である。

 序列は第九位……敗死した剣客衆の一人であるアズマ・クライよりも上だった。

 長身で屈強な身体つき。髪は目元が隠れるほどに長く、返り血によって赤く染まっていた。

 ここに来るまでに、大型の魔物を何体か斬り殺した。それでも疲れを一切見せる様子もなく、身の丈を超える《長剣》を手に、見据えるのは《ベルバスタ要塞》。ガルデア王国が管理する北方の拠点であり、周囲は高い金属製の壁で覆われている。

 要塞であれば当然のことだが、ロウエルはそんな壁を軽々と切り刻み、中へと足を踏み入れた。

 この付近では凶悪な魔物も多く、訓練された騎士達がロウエルを出迎えた。

 ……それでもなお、彼の前では全てが無意味である。

 長剣を片手で軽々と振るう彼の前で、数十人と集まった騎士達はほんの一瞬で戦死した。

 倒れ伏した騎士達の前で、ポタリと長い刀身が鮮血を垂らす。

《グロアリィル》という地下鉱山から取れる鉱石は魔力の伝達が早く、ただでさえ長い刀身を魔力の刃でさらに伸ばしたそれは、もはや剣という域を超えた攻撃範囲を誇る。

 そこから繰り出される高速の斬撃に、反応できる者などいなかったのだ。

 ――これは復讐ではない。この王国の要塞を襲撃し、自らの拠点とすることで、ロウエルはその者を待つつもりであった。

 剣客衆のおよそ半分近くを葬り去った、王国の騎士を。

 そのために、一人でこの要塞を制圧する――そのつもりだったのだが、


「何か用か? 小娘」


 ロウエルは後方に視線を送る。自分で切り刻んだ要塞の壁を通ってきたのか、彼の背後には一人の少女が立っていた。

 花柄模様の入った着物を着た、桃色の髪の少女。腰に下げるのは一本の刀。

 胸元がはだけるような着方をした少女は、にこやかな笑みを浮かべながらロウエルへと近寄ってくる。


「にひひっ、通りすがっただけのつもりだったんだけど、面白そうなことしてんね?」


 本来であれば、この要塞で起こった出来事は惨劇にしか映らないだろう。

 だが、この状況を見て笑顔を浮かべる少女はすでに異常――ロウエルは表情を変えることなく、振り向きざまに剣を振るった。

 長い魔力の刀身が少女に向かって伸びる。ギィン、と周囲に金属の震える音が響いた。


「――!」


 ロウエルは驚きに目を見開く。少女は腰に下げた刀を抜いて、ロウエルの一撃をまともに受け止めたのだ。

 力を籠めるが、やがてその状態で拮抗する。


「……小娘、何者だ?」

「にひっ、ようやく興味持ってくれたんだぁ? うんうん、まずは自己紹介からしないとね。あたしの名前はルイノ・トムラ。見ての通りの《剣客少女》ってわけ!」


 少女――ルイノの言葉に、ピクリとロウエルは反応する。

 ロウエルは一度剣を戻すと、今度は少女に向かって振り下ろした。十数メートルにも及ぶ長い距離で地面が割れる。ルイノはすでに、その場にはいなかった。


「それくらいじゃ当たらないってー。あたしも名乗ったんだからさ、おじさんも名乗ってよ。……ま、その剣を見れば大方分かるけどさ。ロウエル・クルエスター――剣客衆の生き残りだよね」

「生き残り、か。剣客衆にそんな概念はない。欠けた四人の枠はいずれ埋まり、再び我々が最強の剣客の集団となる。小娘、俺の前に現れたということは……それが狙いか?」

「それはそれで面白そうなんだけどね。さっきも言ったでしょ。たまたま通りがかっただけ。とある人に興味があってね! ま、そういう意味だとおじさんと一緒の目的かもねー」

「……同じ目的?」

「そ、剣客衆を一人で四人も殺したっていう騎士に興味があるの! あなたと同じ剣客衆を、それも一人で四人も! そんなの、興味が出ないわけがないよね!」

「……自ら《剣客》を名乗ったかと思えば、次は同じ目的ときたか。小娘、俺は相手が女だろうと子供だろうと容赦はしない」

「にひひっ、そんなの分かってるよー。最初に一撃で殺そうとしてきたじゃん! でも、丁度いいよね」


 ルイノがそう言って、ロウエルに剣先を向けるようにして構える。

 ロウエルには、ルイノがやろうとしていることがすぐに理解できた。彼女が口元を三日月のように歪めて、言い放つ。


「死合、しようよ。お互い狙いは一緒なんだし。あたし的には、あなたを殺して拍車を掛けたいなって。にひっ、好きでしょ、こういうの」

「……そうか。小娘――お前には、後悔する時間も与えることはない」


 ロウエルは再び剣を振るう。それに合わせるようにして、ルイノが駆け出した。

剣客衆と剣客少女――二人の剣士の戦いの決着には、それほど時間はかからなかった。

 ……残る剣客衆はあと、五人。

ノリノリで書けたので第三章開始です!

よろしくお願いいたします!

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