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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
83/189

83.《暗殺少女》と《剣聖姫》

 エーナはメルシェを連れて、帝国へと戻る馬車に揺られていた。

《影の使徒》との戦いから数日、外の景色を眺めながら、エーナはメルシェに問いかける。


「良かったのか? 王国に残らなくて。せっかく妹と再会できたというのに」

「私は別に構いません。いつでも会える――そう、アリアと約束しましたから。エーナ様こそ、もうしばらくアルタ様とお話されてもよかったのでは?」


 エーナは戦いの後、《黒狼騎士団》の団長であるレミィルとは捕らえた暗殺者達の引き渡しなどについて話し合い、アルタとはこれといって話をすることもなく帝国へと戻っていた。

 エーナはふっと笑み浮かべる。


「それこそ、また会う機会もあるだろう。今回の視察は途中で終わってしまったからな。近く機会を作ろうと思う」

「エーナ様がそれで良いのなら構いませんが……アルタの傍にはすでに二人の女性がいらっしゃるというのに」

「二人の、というのにはお前の妹も含まれるのか?」

「あの子が信頼を寄せているのですから、もちろんその通りです」

「ふはっ、恋のライバルというやつだな」

「……ふふっ」

「お前、このことについては私をバカにしているよな?」

「いえ、そういうわけではないのですが……。でも、そうですね。今度は気兼ねなく、こちらにも来てみたいものです」


 メルシェがそう言って、離れていく王国の方へと視線を送る。

 帝国と王国――まだ国同士の交流は決して深いものではないが、それでも今後は友好な関係を築けるようにしていかなければならない。

 今回、エーナは王国側を利用するような形を取ってしまった。その点については、いずれ謝罪しなければならないことだろう。それくらいのことはエーナも理解している――彼女はいずれ、本気で帝国を背負って立つつもりだ。


(そういう意味ではイリス……お前も私と同じ立場だな)


《王》候補の第一位にして、王国最強と謳われるイリス・ラインフェル――彼女の本当の実力を目の前で見る機会はなかったが、アルタも含めて王国には実力のある人間が揃っている。

 視察は途中で終わってしまったが、王国と帝国の交流を深めるには、良い催し物ならすでに考え付いている。


「ふっ、楽しみだな……また戻ってくる日が。次に会う時には、アルタをデートにくらい誘ってみるとしよう。メルシェ、手配を頼むぞ」

「デートのお誘いくらい自分でされた方がよろしいのでは?」

「……誘い方が分からん」

「では、戻ってから最初の小隊の議題にしては?」

「む……確かに小隊には既婚者もいたな。それはありかもしれないな!」

「……冗談ですよ?」


 エーナの反応を見て、メルシェが嘆息する。

 二人を乗せた馬車は、帝国を目指して真っすぐ駆けていくのだった。


   ***


 イリスが退院してから数日が経過していた。

 ようやく、学園の講師の立場に戻った僕は、今まで授業に出るのが遅れたイリスとアリアの補習授業の一つを担当していた。

 結局数日どころか、十数日近くの休みだ。どちらかと言えば学業の遅れを取り戻す方が重要だと思うけれど、一応学園で決められたルールだ。

 練武場で模擬剣を構えて、僕は二人の少女と向き合う。


「普通の授業の補習のはずなんですけどね……何か本気の雰囲気が感じられますが」

「身体を動かすのは久しぶりなんです。だから、ちょっとくらい……その、本気でもいいですよね?」

「うん、わたしも先生とやるなら本気の方がいい」


 直剣と短剣――それぞれが得意とする得物を持って、嬉々として言うイリスとアリア。

 僕の生徒であり弟子でもある少女達は、どうしてこうも血の気が多いのだろう。

 そんなことを考えながらも、僕は彼女達に言い放つ。


「分かりましたよ。では、特別ルールです。僕に一撃でも当てることができれば、剣術の補習については全て修行の時間としましょう。それができなければ、しっかり授業を受けてもらいますからね」

「! はいっ、先生!」

「絶対当てる。魔法は使ってもいいよね」

「アリアさん、一応剣術の授業ですよ?」

「分かった――じゃあ、先手必勝」

「あ、待ちなさい!」


 アリアが先行するように駆け出して、イリスが後を追うように動く。

 二人の息の合った動きを見るのは久しぶりだ――僕はそれに呼応するように動く。アリアの短剣と、僕の剣がぶつかり合った。


「さすが、《剣聖》だね」

「! アリアさん、剣術の授業で精神攻撃はなしですよー」


 苦笑いを浮かべながら言うと、アリアが後方に視線を送る。すでに後ろにやってきていたイリスが僕に向かって剣を振るった。

 アリアの短剣を弾いて、僕は左側へと回避する。わずかに距離を取って、再び二人と向き合った。


「惜しかったわね。でも、慣らしには丁度いいわ。アリア、次こそ決めるわよ」

「うん、分かった」


 笑顔を浮かべる少女二人と、僕はまた剣を交える。

《暗殺少女》と《剣聖姫》――二人の少女が親友として、そして家族として、また肩を並べる日が戻ってきたのだ。

これで第二部は完結となります。

お読みいただいてありがとうございました!

アリアメインのお話にエーナも加わったので予定より少し長くなりました。

主に『家族』がメインのお話となっております。

第三部についてはすでに最初の展開は考えまして、個人的に好きな《剣客衆》をまた出す予定です。

『《剣客少女》編』ということで、第三部は書いていこうと思っております!

主人公のアルタにも関わる話だと思いますので、楽しんでもらえるように書いていきたいですね。

とにかく頑張っていきたいと思いますので、ブクマや評価、感想などお待ちしております!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 姉が残ってたハッピーエンド [一言] 主人公楽できてる…?
[良い点] 今更ですけど《剣戦領域》めちゃかっこいい…。 ロマンとかカッコよさとか純粋な剣の力を比べる為とかじゃなく、絶対的な自分の力を確実にに発揮する為のもの…。「うおおおおおおお!!!!すき!!!…
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