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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
72/189

72.信頼する相手

 雷を纏ったまま、イリスはクフィリオと対峙する。

 クフィリオの見た目はほとんどアリアと変わらない――ただ、アリアが絶対にしないような、邪悪な笑みを浮かべている。

 手に持った短刀を構えて、クフィリオは言う。


「なるほど。イリス・ラインフェル――この王国における大貴族であり、《剣聖姫》と呼ばれている……確かに隙がないね」


 クフィリオは様子を見るようにして、距離を詰めようとしない。

 イリスの纏う雷撃を警戒しているのか。


「来ないのなら、こちらから行くわよ」


 先に動いたのはイリスだ。地面を蹴って、クフィリオとの距離を詰める。

それよりも先行するのは、イリスの纏う雷撃。触れれば、身体が痺れて動きを鈍らせることができる。だが――、


「分かっていると思うけれど、小手先の技はボクには通用しないよ」


 クフィリオが取り出したのは二本の短剣。

 それを無造作に地面へと投げ飛ばすと、イリスの周囲に流れていた雷撃がそちらの方へと流れていく。


(っ、避雷針ってこと……!? でも、関係ないわ!)


 イリスは元より、剣術による近接戦闘に持ち込むつもりだった。

 雷撃はあくまで、イリスの扱う《紫電》から生まれる副産物に過ぎない。

 距離を詰めたイリスは、クフィリオに向かって一閃。

 だが、クフィリオが手に握った短剣でそれを防ぐ。刃を滑らせるようにしながら、クフィリオがイリスとの距離を詰める。

 イリスはすぐに剣に力を込めて、クフィリオとの距離を取った。

 今度はクフィリオが動く。


(速い……!)


 動きはアリアを彷彿とさせる。

 だが、クフィリオの動きはそれ以上のものだ。

 瞬間的にイリスとの距離を詰めて、短剣を振るう。

 イリスはそれをギリギリのところで防ぐが、後方へと下がる。圧されている――クフィリオの狙いはイリスを戦闘不能にすることだろう。

 イリスが警戒しなければならないのは、目の前にいるクフィリオだけではない。

 後方に構える、残り三人の相手。いつ動き出すかも分からない相手に気を配りながら、クフィリオとの立ち合いに臨んでいるのだ。


「……舐めない、でっ!」

「!」


 イリスの声と共に、周囲へと放たれるのは強い雷撃。ただ纏っていたものではなく、純粋な魔力による攻撃だ。

 それに反応して、クフィリオが一度距離を取る。

 ステップを踏んで、イリスの様子を窺うように周囲を駆ける。

 イリスは動かない――クフィリオが仕掛けてくる瞬間を狙って、カウンターを仕掛けるつもりだ。


「あはは! 中々楽しいね!」

「……楽しいことなんてないわよ」

「いや、正直ボクの攻撃をここまで防ぐとは思わなかった。敬意を表するよ」


 そんなことを言われても嬉しい気持ちにはならない。

 イリスの視線の先には、不安げに戦いを見つめるアリアの姿があった。

 彼女には、彼らと共に行動しなければならない理由がある――本当は、すでにイリスはそれを知っている。

 アルタの言ったことが本当であれば、アリアは今も葛藤し続けていることだろう。


(だから、私は……)


 アリアを救うために、イリスには果たすべき役目がある。

 やがてその時は訪れる。

 クフィリオが地面を蹴って、再びイリスとの距離を詰めた。

 イリスはすぐさま反応し、身体を向けて剣を構える。

 にやりと笑みを浮かべるクフィリオの顔が視界に入る――後方から感じられたのは、別の気配だった。


「っ!」


 少し離れたところで、クフィリオの仲間の二人がイリスの後ろに構えていた。

 そちらに一瞬視線を取られた隙に、ガシャリと金属音が耳に届く。

 イリスの両手首にそれぞれ、《黒い穴》から伸びた鎖と枷が繋がれていた。

 イリスの後方に構えた二人は、クフィリオの動く瞬間に合わせて気を引くために動いたのだろう。……ほんの一瞬でも隙があればイリスを捕らえることができる。

 それくらいの実力を、彼らは備えていた。


「ま、わざわざ一対一でやり合う必要もないからね……それは分かっていただろう? だから警戒していたんだから」

「……ええ、私一人では正直、あなた達の相手は厳しいと思っていたわ」

「へえ、それなのに一人で来たんだ?」

「……私にも、頼れる人はいるのよ」

「――」


 イリスの言葉と同時にやってきたのは、一人の少年。

 その気配は近くに感じられるまで、ほとんどなかったと言ってもいい。

 まるで空から飛び降りてくるかのようにやってきた少年が放った《風の刃》が、イリスを捕らえていた鎖を切断する。

 地面に降り立った少年――アルタが、剣を構えてイリスの前に立った。


「時間ピッタリ、というところですかね」

「……はいっ、先生」


 イリスの信頼する師が、《影の使徒》と対峙した。

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