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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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69.視察と作戦

 翌日――僕達は予定通りのルートを進むことにしていた。

 昨日に襲撃があった以上、視察自体を中止にするという選択肢もあった。

 むしろ、本来ならばそうするべきだ。だが、エーナの狙いはあくまで《影の使徒》を誘き出すこと。

 僕とイリスもアリアを連れ戻すためにはまず接触しなければならない。

 エーナの申し出もあり、こうして馬車で王都内を回っている。

 他にも帝国側から派遣された視察団はいたが、いずれも襲撃されるような事態はなかったという。


「奴らの狙いは人通りの多い場所、か」


 移動する馬車の中で、エーナが言う。

 襲撃は、暗殺者達が人混みに紛れてやってきたものだ。

 人のいないところではなく、多いところで襲撃をするのは明確に『エーナ・ボードルが殺害された』という事実を知らしめたいのだろう。

 大勢の前で帝国の軍服を着た人間が殺されたのなら、それこそ証明に繋がるからだ。


「護衛の騎士達には周囲の安全確保に全力を注いでもらうことにしています。昨日、捕えた暗殺者についてはすでに尋問は始まっているようですが――」

「得られるものは少ないだろう。おそらく、ただの雇われた者達だ。本命はあくまでクフィリオ・ノートリアだからな」

「ノートリア……」


 エーナの言葉に、イリスが反応する。

 アリア・ノートリア――それが、彼女の名前だ。……《影の使徒》のメンバーはノートリアと名乗る者達で構成されている。アリアがそれを包み隠さず名乗っていたのは、彼女自身がその姓についてまでは理解していなかったからかもしれない。

 王国では知られていないことだ――実際、イリスと出会ってからアリアは問題なく生活できていた。


(団長は団長で動いてくれるだろうけれど)


 今日にはおそらく、話を聞くためにレミィルがやって来るだろう。

 元よりアリアの捜索については彼女に依頼をしていたことだ。

 結果として、アリアが敵側についてしまったという事実も伝えなければならないが。何より気にするべき点はそこだろう。


「……昨日の今日で襲撃してくる可能性も、十分にあるわ」

「その通りだな。特に、向こうはこちらの動向をきちんと把握してから動こうとしているようだ。メルシェとイリス――二人が離れてから狙って襲撃をしてきたからな。それに、向こう側はイリスにも関わりがあるようだからな」

「そう、ね」


《影の使徒》が襲撃してくるタイミングは分からないが、昨日の条件を考えると絞られてくる。

 人混みでエーナの周囲に人がいなくなった場合だ。

 おそらくイリスが離れれば、アリアが接触してくると考えられる。

 どこかのタイミングで誘き出すためにわざと状況を作り出すという選択肢もあったが、


「おそらくですが、今日は襲撃をしてこないと思います」

「ほう、何故だ?」

「相手の行動は大胆なところもありますが、あくまで撤退することができると踏んでの動きですから。僕達が通常通りに行動しているところを見れば、間違いなく『罠』だと踏んでくるでしょう」


 向こうの仕掛けるタイミングがある程度分かっていれば、待ち伏せることくらい簡単だ。

 襲撃があったにも関わらず特にルートに変更もなく視察を続ける――僕なら、間違いなく罠だと考える。

 それに、何度も失敗するような仕掛け方はしてこないだろう。

 次は確実にエーナの命を狙ってくる……そう考えれば、少なくとも今日のルートを見る限りでは襲ってくる心配はなさそうだった。


「もちろん、あくまで推察の域は出ませんが」

「いや、確かに警戒はするだろう。奴らは慎重だ……失敗すると分かって仕掛けてくることはまずしない。必要であれば私が囮になるつもりだったのだがな」


 囮になるつもりというか、すでにエーナは自ら囮の役目を果たしている。

 このままエーナが一人で行動すれば、間違いなく敵はエーナに仕掛けてくるだろう。……その状況を作るわけにもいかないが。


「エーナ様が囮にならなくても、敵側が接触してくる可能性はあります――」

「私、ですね」


 僕の言葉に反応したのは、イリスだった。

 アリアがイリスに発した「関わるな」という言葉。それでもイリスがエーナと共に行動しているところが確認できれば、アリアが再び接触してくる可能性はあった。


「はい、機を見てイリスさんには一人で行動をしてもらおうと考えています」

「! 大丈夫なのか? イリスが一人で行動すれば、狙われる可能性だってあるだろう」

「狙われるのには慣れてるから、大丈夫よ」

「ふはっ、慣れている、か。随分と頼もしいな」


 イリスの返答を聞いて、嬉しそうに笑うエーナ。

 機を見てイリスが単独行動をする――それが、今アリアと接触できる唯一の可能性だ。

 僕達はできるだけ自然な形で視察を続け、イリスが一人になる状況を作り出せばいい。


「そういうわけですから、一先ずは予定通りに。今日の視察を始めましょう」


 僕の言葉に、そこにいた全員が頷く。

 二日目の視察は、こうして開始されたのだった。

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