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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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65.敵の正体

 僕が到着したときには、すでに戦いは終わった後であった。

 幸いにも、イリスとメルシェの二人に大きな怪我はなく、無事を確認することはできた。

《暗殺者》はイリスとメルシェのところにもやってきたようだが、僕らが駆け付ける前に逃げ出した――いや、あるいはそれも計算の一つだったのかもしれない。

 僕とエーナがあのまま一人を追っていれば捕らえることはできたのかもしれないが、少なくとも今の状況で言えば、敵は一人の手練れも失っていないことになる。


(……少なくとも僕らのところに来た二人に加えて、イリスさんやメルシェさんから逃げ切れるだけの実力がある者が二人――合計四人、か)


 エーナの言葉から察するに、メルシェも相当な実力者ということになる。

 何せ、基本は一人で戦おうとし、それを可能としてしまうエーナが認めているのだから。

 捕らえた暗殺者は単なる数合わせか、トカゲの尻尾切りのようなものだろう。

 あまり有益な情報は得られないかもしれない。


(ギリギリまで引き付けて、こちらの戦力を確認するつもりだったのか。まあ、結果的には向こうの戦力も把握できる形にはなったけど)


 さらに増員をしてくる可能性もある。こちらとしては、警戒を強める必要があった。


(さて、問題は……)


 僕は合流した後も、どこか浮かない表情のまま遠くを眺めるイリスの下へと向かう。

 あちこちに傷ができた彼女は、先ほどメルシェと共に治療を受けたばかりだ。


「イリスさん、大丈夫ですか?」

「あ、先生……。ごめんなさい、私が……敵を逃がしてしまって」

「いえ、それは僕も同じですから。むしろ二人が無事で良かったですよ。一応、何人かは捕らえましたが……おそらく僕やイリスさんの戦った奴らが本命の戦力でしょうね」

「……そう、ですね」


 僕の言葉に、イリスが歯切れ悪く答える。

 それだけでも、僕はイリスに何があったかを理解するには十分だった。――何故なら、僕の見た暗殺者達の動きが、アリアのものに近かったからだ。


「……イリスさんの戦った相手は、アリアさんでしたか?」

「……っ!? な、何で、それを……!」


 僕の言葉を聞いて、イリスはハッとした表情を浮かべる。

 視線を逸らして数秒の沈黙の後、


「……先生には、すぐに話しておこうと思いました。でも、どう説明したらいいのか、分からなくて……」

「そうですか」


 どう説明したら――それはつまり、アリアのことを明確に『敵』とは言いたくなかったのだろう。

 だが、現実にイリスを襲った相手はアリアだった、そういうことになる。

 僕の予想は悪い方向に当たってしまったことになる。

 アリアが姿を消したタイミングと、帝国からやってきた元帥の娘……状況からしても可能性としては十分にあり得たが、アリアはエーナを狙う組織についた。あるいは、初めからその組織に属していた、ということになる。


(……いや、その可能性は低いか。けど、それも作戦の一つだったとしたら――!)


 僕が考えを巡らせる中、ふとイリスと視線が合う。

 すがるような目は、今までイリスが見せたこともないものだった。


「先生……私は、どうしたら――」

「どうもする必要はない」

「!」


 イリスの言葉を遮ったのは、メルシェを連れてやってきたエーナだった。

 相変わらず威圧感すら覚えるその表情のまま、エーナがイリスの前に立つ。


「この件は、我々を狙ったものであることは明白だ。故に、我々で対処する」

「な、対処するって……どうするつもりよ?」

「決まっている。明確に敵は私を狙っているのだからな……その敵を始末する。それ以上もそれ以下もあるか」

「それは……」


 イリスが言葉を詰まらせる。

 狙われたのだから迎え撃つ――エーナの言うことは、確かに正しい。その相手の中にアリアがいるから、イリスは上手く答えることができないのだろう。

 もっとも、ここで答えるのは僕の役目だが。


「エーナ様の考えは分かります。敵を迎え撃つのは僕達、王国の《騎士》の役目ではありますが」

「! その件についても聞く必要があったな。いや、聞かなくても分かるが……王国最年少の騎士、か」

「後程、正式に紹介させていただくつもりでしたが」

「いや、構わない。普段なら護衛に子供を付けるなど舐めているのか――そう言うところだが、話には聞いている。《剣客衆》を単独で撃破できるだけの手練れだとな」


 どうやら、帝国側にもそれなりに情報は伝わっているようだ。

 ……まあ、《王》の息子が王候補の一人であるイリスの暗殺を企てたのだから、それだけの事件が伝わらないはずもない。調査もするところだろう。


「改めて紹介はさせてもらいますが、少なくともエーナ様の護衛については僕に任せてもらっていますので」

「それで手を出すな、と? 私が納得すると思うか?」

「もちろん、それで納得するとは思っていませんよ。ただ気になることがありまして」

「何だ?」

「確かにこれはエーナ様を狙ったものである可能性は高いと思います」

「……高いというよりは、それしかないだろう」

「僕もそう思います。けれど、エーナ様は捕らえた暗殺者のことなど気にかけず、すでに逃げた方の暗殺者のことしか見ていないですよね。それはひょっとして、相手のことがすでに分かっているからではないですか?」

「!」


 エーナが僕の言葉を聞いて、驚いた表情を浮かべる。

 もちろん、僕と全く同じ考えを持っているのなら、捕らえた暗殺者は情報など持っていないと切り捨てるのは簡単だ。

 だが、エーナは軍人だ――少ない可能性であったとしても、捕らえた暗殺者のことなど気にもかけずに、逃げた方ばかりを気にするのはどこか違和感があった。


「ふっ、やはりお前は面白いな。実力もあるが、状況を冷静に見極める能力にも長けている」

「お褒めいただき光栄です」

「確かに、私は狙われる可能性があることも分かっていたし、あえて狙われるように仕向けもした」


 エーナがそう答える――護衛の騎士を減らすように言ったのは、明確に守りを手薄に見せたかった、ということだろう。


「エーナ様は敵のことをご存知なのですか?」

「ああ、私も奴らのことを狙っている。……奴らは――《影の使徒》は帝国の敵だからな」


 そう、エーナがはっきりと答える。

 暗殺者の組織の名と、そこにアリアが関わっているということが、新たに分かったことであった。

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