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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
63/189

63.交わる刃

「アリア……?」


 イリスは、目の前にいる親友に驚きを隠せなかった。

 動揺によって見せた一瞬の隙に、イリスの手足や身体に《糸》が絡み付き、動きを制限する。


「っ!」

「動かないで。下手に動けば、その糸は身体を簡単に切断できる」


 アリアが淡々とそんなことを口にする。

 イリスを拘束する糸は、周囲に作り出された《黒い穴》から伸ばされたもの――アリアが得意とする魔法だ。

 嘘であってほしい――そう思ったけれど、その顔もその声も……イリスの知るアリアそのものだ。


「どうして……!」


 イリスはアリアに問いかける。だが、アリアがイリスの言葉に答えることはない。

 アリアの瞳はかつて出会ったばかりの頃のように冷たく、そしてイリスのことを見ていないようだった。

 姿を消したはずの親友が目の前にいて、イリスとメルシェを襲撃している――何もかも整理ができない状況の中でも、イリスは自身のやるべきことを理解していた。


(先生達と合流しないと……そのためには……)

「……っ!」


 イリスの動きに迷いはない。

 糸が身体を締め付けても、自らの剣である《紫電》を呼び出すために身体を動かそうとする。

 食い込んだ糸が肌を傷付けて、出血しても、イリスは気にすることはない。


「……」


 アリアもまた、それを見て動揺する仕草を見せることはなかった。ただ、今すぐにでも動き出せるはずなのに、アリアが動く気配ない。

 ――動きがあったのは、反対側の方だ。


「――イリス様、ご無理はなさらないように」

「……え?」


 耳元に届いたその言葉と同時に、イリスの動きを縛っていた糸が軽くなる。

 メルシェの投擲したナイフが、糸を切断したのだ。


「メルシェさん……!?」

「敵は二人ですね――そちらは……」


 ちらりとメルシェがアリアの方に視線を向ける。

 わずかに驚いた表情を見せたが、メルシェがすぐに反対側を向いて駆け出した。

 メルシェの動きに迷いはなく、イリスを手助けした後は正面にいる敵へと駆け出す。

 懐から取り出したのは短刀――メルシェと暗殺者の交戦が始まった。


「イリス様、そちらはお任せ致します」

「……ごめんなさい、ありがとう」


 メルシェもまた、エーナの護衛としてここにやってきている――むしろ、戦闘経験では彼女の方が上なのだろう。

 イリスは改めて、アリアと向かい合う。


「……聞きたいことはたくさんある――けど、そのためにはアリア。あなたと戦う必要があるみたいね」

「いいよ、こっちに来て」


 アリアがそう答えて、身軽な動きでイリスから距離を取ろうとする。

 イリスはそれに追従するように動いた。

 少し離れたところで、二人は動きを止める。

 アリアが二本の短刀を構え、イリスは雷を纏い、自らの剣を手元に呼び出す。

 お互いに模擬剣で切り合ったことはあっても、自らの持つ力を全力でぶつけ合ったことはない。

 《剣客衆》と相対したときは、協力しあった二人は今――向き合って戦おうとしている。


「……本気、なのね」

「イリスもでしょ」

「ねえ、何であなたが……ここにいるのよ。私はずっと心配して……それなのに、あなたは、私達を狙っているの……?」

「……イリスには関係ない」

「関係ないわけないでしょう! 私達は――」


 イリスの言葉を遮ったのは、闘技場の外から輝きを放った照明弾と――迷いのないアリアの一撃。

 短刀と剣がぶつかり合い、二人の視線が交錯する。


「今、イリスと話すことはない」

「……っ!」


 説得も何も通じることはないのだろう。

 イリスは魔力を増幅させ、周囲の雷の威力を高める。

 それに気付いたアリアは、すぐにイリスから距離を取った。

 彼女の周囲に現れたのは《黒い穴》。そこに投擲することで、アリアはあらゆる方向からの攻撃を可能とする。……まさに、《暗殺者》が使うような魔法そのものだ。


(今は迷うな……私が、アリアを止めないと)


 イリスは剣の柄を強く握り締めて、構えを取る。

 再び二人は駆け出して――アリアとイリスの戦いが始まった。

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