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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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61.二人の行方

 僕とエーナはすぐに行動に出た。

 僕は一人の暗殺者の方に向かい、エーナがもう一人の方へと向かう。エーナから離れすぎない距離を保ちつつ、僕は《暗殺者》と相対する。

 こちらの動きを見てか、暗殺者は後方へと下がろうとする――無論、深追いをすることはない。


(さて、エーナ様の方は……)


 反対側――エーナもまた、作戦通り僕からは離れすぎない距離を取っている。馬車を背にして、お互いに暗殺者と向き合う形だ。

 エーナの傍には誰もいない状態……僕は周囲を確認する。

 逃げる人々に紛れて動いている暗殺者が他にいる――けれど、もう馬車からは人が離れつつある。

 エーナに仕掛けるのなら今、このタイミングしかないだろう。


(四方から感じられる殺気はまだある。こっちはどうかな)


 相対した暗殺者は、僕の動きを観察するように見ている。

 大きな動きはない。それどころか、暗殺者はほぼ動きを見せない。右手に持った短刀を構えたままだ。


「来ないのかな?」

「……」


 僕の言葉に、暗殺者は答えない。やはり、僕を引き付けることが目的なのだろう。

 瞬間――僕の背後から、大きな物音は響く。


「ふはっ、逃げるだけでは私は殺れんぞ!」


 そんな声も、僕の耳には届いた。……エーナが魔法による攻撃を仕掛けたのだろう。

 それと同時に、周辺に動きがあった。

 逃げる動きとは違い、こちらに向かってくるような動き。単独行動をしているエーナを狙おうと動き出した暗殺者達だ。

 僕も、それに合わせて動く。


「まずは一人――」


 後方へと跳び、馬車の上へと飛び移る。

 僕の《インビジブル》の間合いは、近ければ近いほど殺傷能力は高くなる。

 だが、相手を制圧するだけなら距離が遠くても十分だ。

 ヒュンッと風を切る音と共に、暗殺者の足に目掛けて剣撃を放つ。

 人混みに紛れていても問題ない。

 ほんの少しの隙間があれば、僕の風の刃はそこまで届く。


「ぐあっ!?」


 僕の攻撃を受けた暗殺者の声が響く。

 その声で動揺した動きを見せたのは、さらに数人。


「二人目――三人目」


 タイミングに合わせて、二人の暗殺者に対して風の刃を放つ。

 ほぼ同じタイミングで、二人の人陰が倒れた。

 制圧したのはこれで三人……先ほどの二人の暗殺者と比べると、僕の攻撃に気付いて避けようとする様子はない。

 やはり、実力が違うのは僕とエーナの前にいる暗殺者だけのようだ。


「……」

(! わずかに下がった――逃げる気か)


 ここで、ようやく暗殺者は逃げる素振りを見せる。今のタイミングではエーナを殺すことはできないと悟ったのだろう。

 だが、こちらの暗殺者を追うことはできない。

 後方では相変わらずエーナが戦いを繰り広げている。

 エーナの戦っているところをしっかりと見たわけではないが、荒々しいように見えてしっかりと周囲の状況を確認している。

 おそらく、彼女も暗殺者の動きを把握していただろう。

 それよりも先に僕が暗殺者を制圧した――いや、作戦通りになった、というのが正しいか。

 エーナの単独行動によって、暗殺者数名を釣ることができたのだから。


「――」


 僕の前にいた暗殺者は、後方へと跳んだ。

 先ほどの風の刃を見て、僕の間合いをある程度把握したのだろう。

 この距離ならばまだ追いかけることはできるが、今の僕の役目はそこではない。


「悪いね。一先ずは三人いれば十分だ」


 僕は前方にいる暗殺者を追うことはなく、後方にいるエーナの方に振り返る。

 エーナ周辺には水の壁が作り出されており、周囲への警戒は怠っていない。

 エーナが相対している暗殺者もまた、付かず離れずの位置を保っていた。

 そのまま戦闘に持ち込んでもエーナを殺せる保障はない――そう考えてのことだろう。


(大胆かと思えば慎重なところもある……やっぱり、少し引っかかるね)


 その戦い方が、どこかアリアに似ているということが、僕の気になっているところだった。

 可能であれば、こちらの方は捕えたいところではあるが……。


「逃げてばかりだな……。貴様、私と戦う気はあるのか?」


 エーナが攻撃の手を止めて、暗殺者に問いかける。

 周囲にいた人々は騎士の誘導に従って離れ、先ほど僕が制圧した暗殺者三人がすでに護衛の騎士によって捕らえられている。

 一先ずは、エーナが作戦通りに僕から離れないようにしてくれたおかげで上手くいった。


「投降してください。そうすれば、怪我を負わせる必要もありませんから」

「……怪我、か。周りの奴らを捕えただけなのは、情報がほしいからか?」


 ここで初めて、暗殺者が口を開く。

 この状況でも冷静な声で、それでいて若い青年の声だった。

 若いならがも相当な実力者であることは分かっている――顔や素肌は一切窺うことはできないが、少なくとも慌てる様子は一切感じられない。

 すでに、僕の後方にいたもう一人の暗殺者がこの場から逃げ出していることも、分かっているようだった。


「答える必要はないですね。投降しないと言うのであれば――」

「イリス・ラインフェル。それと、メルシェ・アルティナ、だったか」

「!」


 僕の言葉を遮り、暗殺者から出てきたのは二人の名前。

 まさか、暗殺者からその名前が出てくるとは思わなかった。


(イリスさんがエーナ様の傍にいることを知っているのは一部の人間しかいないはず……)


 僕は思考を巡らせる――だが、すぐに答えは出てこない。

 どのみち、暗殺者が彼女達の名前を出したということは、少なくともイリスやメルシェに対して何かしようとしていると警告しているのだろう。

 実際、イリスとメルシェはまだこちらの方に戻って来る気配はない。

 エーナもまたメルシェの名を聞いてか、表情が険しいものになる。


「……貴様、メルシェに何かしたのか?」

「俺の相手をしているよりも、そちらの心配をしたらどうだ――」


 そう言い残して、暗殺者が後方へと駆け出す。

 先ほどの暗殺者もそうだが、その動きが常人とはかけ離れている。……それこそ、僕が全力で追いかけて追いつけるかどうか、といったところか。

 暗殺者がその場を去ると、エーナがすぐにイリスとメルシェの去っていた方向へと駆け出す。


「エーナ様!」

「作戦は終わりだ。イリスとメルシェを探しにいくぞ!」

「分かっています」

(……イリスさんなら無事、だとは思うけど)


 そう考えながらも、僕もイリスのことは心配だ。

 他の護衛の騎士に合図を送る。イリスとメルシェが戻ってきた場合は、こちらに知らせてほしい、と。

 エーナを守り切ることはできたが、どうやらまだ安心できる状況にはなりそうになかった。

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