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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第一章 《剣聖姫》護衛編
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6.《剣聖姫》

 僕に向かって、女子生徒三人が同時に駆け出した。

 三方向に展開し、お互いに視線を合わせながらタイミングを計る。

 おそらく仲の良い者同士なのだろう。よく連携は取れているが――


「同時に同じ個所から攻撃するのは防ぎやすいですね」

「なっ……!?」


 揃って上からの攻撃だ。息を合わせることは決して悪くないが、そこまで一緒である必要はない。

 トンッと軽く三人の身体を小突いて倒す。


「きゃっ……」

「いたっ」

「うっ」

「いい感じの連携ではありましたね。ですが、まだ届きません」


 すでに先行してきた男子生徒四人組は地面に伏している。

 他にも二人組や三人組と仲の良い者達で組んでやってきたが、いずれも僕は軽く模擬剣で防いで倒している。

 簡単な戦術くらいならば理解しているようだけれど、やはり二十人で連携して攻撃する――そんな発想は出てこないようだ。

 僕に一撃を与えれば勝利――だというのに、生徒たちの息はすでに上がっている。

 幾度となく挑まれても、僕はそのすべてを防ぎきり、そして打ち倒す。

 それでも、周囲を囲むように構えるのは一定の評価をするべきところではあるけれど。


「そんなに様子見をせずにどんどん来た方がいいと思いますよ。僕に一撃を与えれば勝ちなんですから。君達は別に一撃を受けたら負けというわけではないですよ。時間も、すでに半分を切りましたし」


 無制限ではさすがにいつまでかかるか分からない――三十分の制限時間でたった一撃を加えればいいという、聞けば簡単そうなもの。

 僕の言葉を聞いても、中々動き出そうとはしない。

 少しやりすぎてしまったか――そう思った時、二人の女子生徒が前に出てきた。


「皆、下がって。後は私がやるわ」


《剣聖姫》と、もう一人はイリスに次ぐ実力の持ち主――イリスとアリアだ。

 今までは遠巻きに様子を見ているだけだったが、どうやらようやく戦う気になったようだ。

 まるで、僕の実力でも見定めるかのように。


「イリスさんとアリアさんですね。次のお相手は君達ですか?」

「……シュヴァイツさん、私はあなたを見くびっていました。その非礼はお詫びします」


 頭を下げて、そんなことを切り出すイリス。

 僕はその態度に少し驚いた――けれど、イリスの表情は真剣なままだ。

 模擬剣を構えて、イリスが言い放つ。


「それでも、あなたの剣はもう見切りました。確かに速いし学生のレベルではないかもしれませんが、私にとっては子供騙しのようなものです」

「! 子供騙し、ですか」

「イリス、わたしも」

「ううん、私一人で十分」


 加勢しようとするアリアに、イリスはそう言って前に出る。

剣聖姫――そう呼ばれるだけの実力が、彼女にはあるのだろう。


「十分……?」


 その言葉を聞いて、僕は目を細めてイリスを見る。

 どうやら、彼女はまだ理解していないらしい。


「イリス・ラインフェル――参ります」


 彼女が構えたのは、細剣だった。

 レイピアというレベルではないが、剣としては相当細身だ。

 一撃一撃の威力よりも、手数や速度で圧倒するというタイプなのだろう。

 イリスが地面を蹴ると同時に、僕との距離を詰めた。

 その速さは他の生徒とは比べものにならず、あっという間にお互いの剣の間合いとなる。

 先に繰り出したのはイリスの方だ。

 細剣から繰り出されるフェイントを挟んだ連撃――だが、僕にその剣先が届くことはない。

 金属の擦れるような音と共に、互いの魔力でできた模造剣がぶつかり合った。

 続く連撃――先ほどよりも速度は上がっている。剣はまるで生きているかのように、自在にあらゆる方向から繰り出される。

 なるほど、剣聖姫という名は伊達ではないらしい。学生のレベルどころか、彼女の剣の腕は騎士団でも並ぶ者はほとんどいないかもしれない。

 それでも――


「……っ」

「どうしました?」


 イリスが攻撃を止め、一度距離を取る。

 その表情は驚きに満ちていた。

 どうやら彼女も気付いたようだ。

 一度目の連撃で仕留められると考えたのに、届かなかった。二度目の連撃はさらに上をいったにも拘わらず、僕はそれを防ぎ切った。

 彼女クラスなら理解できるだろう――僕と彼女に、明確な実力差があるということに。


「すぅ……」


 イリスが小さく息を吸い、再度攻撃を仕掛ける。

 今度は真っすぐな動きだけではない――ステップを加えて左右に移動をしながらのフェイント。

 さらに僕の死角を取ろうとその動きは加速していく。

 他の生徒とは一線を画す動きで、僕に対して確実な一撃を加えようという意思が受け取れた。

 剣術において、真正面から斬り合うというのは決して間違った選択肢ではない。

 だが、お互いの実力が均衡していないのであれば、その方法は悪手にしかならない。

 実直な剣のように見えて、彼女はそのあたりをよく理解しているのだろう。

 僕は、そんな彼女の剣をまた受け止める。


「死角を取ろうとするのは正解ですが、こう広い場所では難しいですね」

「くっ……!」

「――それなら、わたしがやる」


 そんな言葉が、僕の背後から聞こえた。

 視線を向けると、そこにいたのは短刀を構えるアリア。

 それが彼女の得物のようだ。剣術、という意味ではそれも武器としては含まれるだろう。


「アリア!?」

「イリス、二人でやろう。一人じゃ無理だよ」


 僕はその場で地面を蹴って、距離を取る。

 イリスとアリア――二人が僕と向き合って対峙した。すぐに二人が動き出す。

 左右に分かれて、僕の隙をついて一撃を加えようとする。

 他の生徒達も息の合う者はいたが、彼女達はそこも別格だ。

 動きも、連携も優れている――けれど、もう間に合わない。


「――そこまで!」


 ピタリ、とイリスとアリアの動きが止まる。

 二人の剣は、それぞれ僕の死角から一撃を加えようとするものだったが、オッズが宣言したのは終了の合図。

 制限時間いっぱいの、時間切れだ。


「惜しかったですね。では約束通り、これから僕が担任と剣術の講師を務めさせていただこうと思いますが、異論がある方はいますか?」


 改めてそう宣言する僕の言葉に、今度は反論する声は上がらない。

 模擬試合は、僕の勝利で幕を閉じたのだった。

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