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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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59.アルタとエーナ

 基本的には視察の計画通りに、僕達は馬車で移動をしていった。

 特に大きな問題も起こることはなく、一日の目標は終わろうとしている。

 今日、最後に視察する場所は《剣術大会》なども開かれる闘技場だった。

 王都内にはいくつかこういった場所があり、大きな行事があればここも利用される。

 普段は一般解放もされており、月に一度、大きな市場などが開催されることがあった。

 今日は丁度その日であったため、闘技場周辺もまだ人通りが多い。


「ふむ、市自体は終わってしまっているか」


 少し残念そうにしながら、エーナがぽつりと呟く。

 ひょっとしたらそういう行事の見学を楽しみにしていたのかもしれない……そんな感じだ。


「今からでもやっている場所はあるかもしれませんよ」

「むっ、そうか……」


 僕がフォローを入れると、少しだけ嬉しそうな表情をして、すぐに元の威圧感のある表情に戻る。

 僕も思わず苦笑いで返しそうになるが、相手は国賓という扱いでもある。


(あはは、難しいな。色々と……)


 疲れるというわけではないが、気苦労というものはあった。

 常に周囲を警戒しているわけだし、僕としてはエーナだけでなくイリスやメルシェも含めて守るつもりだ。

 《騎士》の務めも、楽なものではない。

 そんなことを考えていると、


「メルシェ、まだ市場がやっているかどうか見てきてくれるか?」

「承知致しました」

「ああ、それでしたら僕が――」

「いえ、私がメルシェさんと行ってきますよ。アルタはエーナと」


 ちらりとイリスが僕に視線を向けて言う。

 彼女なりに、僕の配置を考えてのことだろう。

 傍でなければ守れないわけではないけれど……。


「承知しました、イリス様」


 立場上――もっとも、貴族としてもイリスの方が階級は上になるのだけれど、僕は彼女からの提案を受け入れる。

 イリスとメルシェが馬車を降りて、闘技場の方へと向かっていく。

 入り口から入れば中はすぐに確認できる……戻ってくるのにそこまで時間はかからないだろう。


(けど、少し気まずいね)


 馬車の中では、対角上に僕とエーナが座る形になる。

 僕はエーナの方を見ているが、エーナは馬車から外を見る形だ。

 足を組んで、肘をつくように――まさに、僕には興味のないといった感じ。


(まあ、それならそれで構わないけど――)

「アルタ・シュヴァイツ、と言ったか」


 不意に、エーナが口を開く。

 少し意表を突かれて、僕は驚いた。

 けれど、すぐに頷いて答える。


「はい、エーナ様。何かご用でしょうか?」

「いや、用というわけではないが……」


 僕の方は見ていないが、エーナはスッと動いて僕の前の方に移動してくる。

 そうして、馬車から外を覗き見た。

 その視線の先にはイリスとメルシェがいる。当然だが、まだ戻ってくる気配はない。

 それを確認すると、エーナはようやく僕の方に向き合う形となった。今日初めての出来事と言えるだろう。


「ふむ、なるほど……まだ子供だな」

「十二歳です」

「十二、か。若いな、私より三つ下だ」



 三つというとほぼ変わらない……というか、僕から見ればエーナはかなり年下だ。

 まあ、そんなことは分かるはずもないのだけれど。

 先程までとは打って変わり、エーナから品定めでもするかのような視線を向けられる。

 時折、「私が……これを……?」などと意味深なことを呟いたりもしていた。


(どういう状況かな、これは……)


 さすがに僕でもこの状況は予想していない。

 嫌われていたかと思ったのだが、二人がいなくなるや否や、エーナが急に距離を詰めてきたのだ。

 それこそ、様子でも見計らっていたかのように。

 ……やはり、僕が護衛の騎士であるということがバレてしまったのだろうか。


(子供に護衛を任せるのか……って言われるとそこはそこで痛いところだからなぁ)


 王国側が信頼できる配置なのであって、帝国側からすれば舐められているとしか思われないだろう。

 だからこそ、僕が護衛であるというのは極力バレない方がいいのだけど。


「えっと……?」


 僕は様子を窺うようにエーナのことを見る。

 先ほどまでならエーナは僕が視線を向けるだけで目を逸らしていたが、今は逆に視線を合わせて、


「少し手を借りてもいいか?」

「手、ですか?」

「ああ、触れるだけだ」

「構いませんが……」

(いや、本当にどういう状況だ……)


 色々と確かめるように、今度はエーナが手を触れてくる。

 やがて小さく息を吐くと、


「……ふむ。やはりそうでもない、か」

「大丈夫、ですかね?」

「ああ、すまない。少し確認したいことがあってな。私としたことが……ふはっ。少しばかり浮かれていたようだ。気にしなくていい」


 メルシェとの会話といい、この二人には何かあるのだろうか。

 確認にするほどではないかもしれないが、まあ聞いておいた方がいいのかもしれない。


「えっと、先ほどメルシェさんにも聞かれたのですが……僕とエーナ様はどこかでお会いしていますか?」

「む、メルシェのやつめ。そんなことを……。何てことはない。この前――っ!」


 エーナが答えようとした時のことだ。何かに気付いたように周囲に視線を送る。

 僕はそれよりも早く動いた。

 エーナを守るように彼女の傍により、構える。

 周辺からこちらを誰かが見るような気配――ガタリ、と馬車が揺れた。


「敵か?」

「かもしれませんね。エーナ様はここに」

「む、お前……」

(イリスさんとメルシェさんが離れたこのタイミング……いや、人通りの多いこの場を狙ったのか)


 僕はすでに意識を切り替えて臨戦態勢に入る。

 ……何事もなく終わればいい。そう思っていたけれど、どうやらそういうわけにもいかないようだ。

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