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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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48.アリアの嫉妬

 安息日の昼下がり――僕は学園から少し離れたカフェにいた。

 目の前にいるのは二人の少女。

 一人は前回同様、落ち着いた雰囲気の服装に身を包んだイリス。

 そしてもう一人も同じくサイズの合っていない大きめの服を着ているアリアだった。

 二人の前にあるのは一つの大きなパフェ。

 アリアが頼んだ物だが、サイズは明らかに二人分ある。それを、二人で分け合って食べるようにしていた。

 アリアの言うデート――もとい遊びの約束の真っ只中だ。


「ここのパフェは大きいんですねー」

「二人で食べるくらいが丁度いいらしいですよ」

「先生も食べる?」

「いえ、僕は大丈夫です」

「じゃあ、イリス。あーん」

「あーんって……。その、恥ずかしいんだけど」

「今日はわたしと遊んでくれるんだよね?」

「うっ、そうだけど……もう、分かったわよ」


 恥ずかしそうにしながらも、アリアの願いを聞いてパフェを食べさせてもらっているイリス。

 二人は相変わらず仲がよさそうだった――というより、今日はアリアがそれを見せつけるようにしてきているようにも感じる。


(そう言えば、僕がイリスさんに剣を教えるって話になった後も何かと心配しているようだったし、単純に嫉妬みたいなものかな)


 今回も仕事とはいえ、僕が話をしている以上はイリスを借り受けるような形になってしまっている。

 アリアから見れば、イリスを何度も取られるような感じがしているのかもしれない。

 普段から何を考えているか分からないが、こういうところは単純というか純粋というか――とにかく、イリスは自分のものだということを強調したいのだろう。


(別に取る気もなにもないけど、イリスさんと付き合う人は大変だろうなぁ)


 何せ《剣聖姫》と呼ばれる少女。それにこんなにガードの硬い家族がいるのだから。


「ほら、クリームついてるから」

「ん、ありがと。イリスはクリームつけないの?」

「わざとつけてるみたいな言い方ね……。あ、先生、この後はどうしますか?」


 不意に、イリスが僕の方へと話を振る。


「僕ではなく、アリアさんの行きたいところに行きましょう。僕は別にどこでも構いません」

「でも、一応、その……――という話ですし」


 ごにょごにょと小さな声で話し始めるイリス。

 声が小さくて、肝心のところが上手く聞き取れない。


「……? 何です?」

「だから、えっと……」

「デートだから、みんなで行きたいところに行こうって話。ここはわたしの行きたいところだから、次は先生の行きたいところ」

「ああ、そういうことですか。それなら、イリスさんの行きたいところはありますか?」

「私は市場の方で買い物をしたいとは思っていますけど、後でも構わないので」

「いえ、それならそっちに行きましょう。僕も丁度買い物がしたかったので」

「じゃあ決まり。行こ、イリス」

「ちょ、引っ張らないでって!」


 アリアがイリスの手を引いて、早々に動き始める。

 外見や性格はまるで違うが、こうして見ていると本当に姉妹のようだった。

 ちらりとこちらに視線を向けたアリアがしたり顔をしている。


(そんな警戒しなくても大丈夫ですって)


 僕は笑顔でそれに応える。

 イリスを守るために単独で《剣客衆》に挑むような子だ――それも仕方ないと言える。気になるところと言えば、その実力だ。

 アリアの使う技は紛れもなく暗殺に特化したもの。一介の少女が持つには明らかにレベルの高いものだ。

 いずれは話を聞いてみたいものだけれど――


「失礼」

「……? はい、何でしょうか」


 不意に聞こえてきたのは少女の声。

 そちらを向くと、サングラスに黒いコートを羽織った少女が立っていた。

 目立ちたいのか目立ちたくないのか分からないが、少女は僕の方に視線を向けて言う。


「この辺りに観光名所の《時計塔》があると聞いたのだが」

「ああ、それなら向こうの噴水の方にありますよ。名所と言っても、そんなに目立つものでもないですが」

「むっ、そうなのか。いわゆる期待しているとそうでもない、というやつか」


 少し残念そうにしながら少女が答える。

 その後ろから、メイド服の少女がやってきた。

 少女の話し方は男らしい感じがしたが、雰囲気からして育ちの良さが感じられる。

 けれど、観光名所を探しているということは王都で暮らしているというわけではないのだろう。どこか、地方の貴族といったところか。

 そういう意味では、僕と同じような立場なのかもしれない。


「一人で勝手に進まないでください」

「ふはっ、すまないな。今この子に話を聞いていたところだ。時計塔はそんなに面白くないらしい」

「それは私も最初にお伝えしていたはずですが……」

「そうだったか? すまないな、話半分だった」

「構いませんが、一人で行動はしないように――」

「ああ、分かった。とりあえず喉が渇いたから……そこのカフェで飲み物を買ってきてくれ」

「それはいいですけど、一人で動かないでくださいね?」

「もちろんだ」


 メイド服の少女が釘を刺すような視線を送り、先ほどまで僕達のいたカフェの方に向かう。

 少女はそれを見送ると、


「ではな、少年」

「いや、今待っているようにって話でしたよね?」

「ふはっ、待てと言われて待つような人生を送るつもりはないのでな。何のためにここに来たと思っている?」

「僕は知りませんが……」

「ふははっ、だろうな!」


 笑いながら、少女が去っていく。

 結局、メイド服の少女を待つつもりはないらしい。

 なんというか、自由人という感じがした。


「シュヴァイツ先生、今の人は?」

「ああ、道を聞かれただけですよ」


 先に行っていたイリスが僕のところへと戻ってきた。

 アリアと先に市場の方へと向かっていたはずだが、僕が遅れてしまったからだろう。


「アリアさんは?」

「先に市場の方に向かっています。先生を待たないとって言ったら先に行ってしまって……」

「あー、なるほど……。それじゃあ、僕達も追いかけますか」


 アリア的には、僕をデートと称して誘ったのはイリスといかに仲がいいかを見せつけたいという気持ちがあるのだろう。

 それなのに、イリスが僕ばかりを優先していては、拗ねてしまう気持ちは分からなくもない。


「……そう言えば、先生」

「はい、何ですか?」

「先生って、その、好きな人とかって、いるんですか?」

「好きな人、ですか?」

「! か、勘違いしないでくださいね!? その、一応、デートという形と言いますか……。こうしていると周りからそう見られてもおかしくないかな、と思うので! もしもそういう人がいたら……」

「ああ、そういうことですか。イリスさんはお堅いですね」

「お堅い、ですか?」

「そもそも僕、まだ十二歳ですからね」

「いや、そのくらいの年齢なら好きな人の一人や二人いてもおかしくないのかなって」

「イリスさんは十二歳の時はどうだったんですか?」

「……その時は、剣一筋だったので」

「――ということは、今はいるってことですかね?」

「っ! べ、別にそういうわけじゃないです!」


 イリスに強めの語気で否定される。

 そういう話をするものだから、てっきり恋愛相談のようなものかと思ったのだけれど、そういうわけでもないようだ。

 イリスに想い人がいるのなら、これからアリアとの関係でも大変な思いをすることになるのは間違いないだろう。


「なら、お互いに気にする必要もないのでは。まあ、学園の生徒に見られると勘違いされそうですけど、アリアさんもいますからね」

「そ、そうですよね。さすがに二人で一緒にいたら大丈夫――って、アリア?」


 イリスが何かに気付いたように視線を向ける。

 僕もイリスの視線に合わせると、そこには一人の男を追いかけるアリアの姿があった。

 どういう状況か理解できなかったが、少なくとも普通の状況ではないということは分かる。


「あれは……」

「ど、泥棒だ! 誰か捕まえてくれーっ!」


 叫ぶような男の声が耳に届き、僕とイリスも状況を理解したのだった。

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