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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第二章 《暗殺少女》編
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46.デートリトライ

「そういうお話でしたら、受けたいと思います」

「まあ、そうですよね」


 翌日の放課後、イリスを呼び出して話をしたところ案の定な返事だった。


「何かまずい、ですか?」

「あはは、そんなことはないですよ」


 僕は笑って誤魔化す。

 僕も断るとは思っていなかったし別に構わないのだけれど。

 ただ、僕も必然的に参加しなければならなくなっただけの話だ。

 イリスなら実力的にも申し分ないだろうし、問題はない。


(……特別ボーナスに期待しよう)


 こうなると、僕もその辺りは望みたい。

 これも重要任務の一つなのだから、無事に成功すればそれなりに報酬は支払われるだろう。

 ……騎士だというのにお金ばかり考えていることは、イリスには悟られないように気を付けよう。


「詳しくはまた後日お話が行くと思いますが、その間はしばらく学園の方もお休みになるかもしれないですね」

「それは分かっています。ただ……」


 視線を少し逸らして、イリスが言い淀む。

 少し頬を赤く染めて、また何か言いたげな表情で、僕の方を見た。


「ただ?」

「えっと、シュヴァイツ先生も一緒、なんですよね?」

「そうですね。僕の役割はあくまで君の護衛なので」

「それなら、時間がある時で良いので、稽古をつけてくれれば……」


 うん、分かってはいた。

 雰囲気的には代わりにデートでも、というような催促でもあるのかと思えば求められるのは稽古のみ。

 僕としては、イリスらしくてすごく安心する。


「もちろん、時間がある時なら構いませんよ。付きっきりというわけでもないでしょうし」

「あ、ありがとうございます。それなら安心しました」

「安心?」

「い、いえ! 何でもないです! それより、今日はこのまま稽古を付けてくれるんですか?」

「ああ、今日はあくまでこの話をしにきただけなので」

「そうですか……」


 露骨にしゅんとしてしまうイリス。

 意外と……というか、何となくそんな気はしていたけど彼女は分かりやすい。

 割りと感情が表に出るタイプだ。


(まあ、そこはイリスさんの良いところでもあるだろうけど――)

「イリス、しばらく学園休むの?」

「! アリア?」


 不意に姿を現したのはアリアだった。

 その辺りに身を潜めていたのか、髪の毛や制服に落ち葉が張り付いている。

 イリスがそれを払いながら、問いかけた。


「聞いていたの?」

「ううん、聞こえた」

(聞いてたんだろうね……本当に隠密能力は大したものだ)


 聞こえた、ということは少なくとも僕とイリスの近くにはいたのだろう。

 彼女が気配を消すと、僕でも気付くのは中々に容易ではない。

 内緒話をするなら、それこそ聞かれないような場所をしっかり探した方がいいだろう。もっとも、この話はアリアに対しては隠すほどのことではないが。

 確認したところ、アリアは確かにラインフェル家が保護しているという――アリアの後見人は、イリスの母だ。


「イリスが休むのなら、わたしも休む」

「ダメよ、アリアはしっかり勉強しなさい」

「イリスはわたしが傍にいないと」


 お互いに心配し合う様は本当に姉妹のようだ。

 アリアがイリスの心配をするのも分かる。この前も、イリスは相当無理をしていたと言える。

 彼女に《剣客衆》のアディルの一撃を防ぐだけの力はあるとは思っていたけれど、それでも怪我が治ったばかりだ。だが――


「アリアさん、気持ちは分かりますが今回は公務という扱いでもありますから」

「公務?」

「そう。ラインフェル家を代表して私が務めるのよ。だから、アリアは留守番」

「むー、わたしもいきたい」

「遊びにいくわけじゃないからね?」

「……分かった」


 イリスに諭されて、納得したように頷くアリア。

 もう少し駄々をこねるかとも思ったけど……。いや、もしくはここで引き下がった振りをしてついてくるとか。

 そういうところも、アリアなら十分にあり得た。

 一応、念押しはしておこうか。


「隠れてついてくるとかも駄目ですからね?」

「分かってる。けど、休むならその前に遊ぼう?」

「それは別に構わないけど……。そんなに長く休むことにもならないわよ」

「ついていかない代わり」


 イリスに向かってそんなお願いをするアリア。それくらいなら可愛いものだろう。


「いいんじゃないですか。仕事前の息抜きは必要だと思いますし」

「じゃあ、先生も来る?」

「僕もですか?」

「うん、デートリトライ」

「デ、デート……!?」


 何故かイリスの方が強く言葉に反応する。

 デート作戦――剣客衆を誘き寄せるための作戦だったのだが、このようにしてレミィルやアリアにはネタにされるのことがある。発言には気を付けた方がいいと学んだ。


「今週末、先生は空いてる?」

「まあ、空いてはいますが――」

「じゃあ決まり。それで今回は我慢する」


 僕の言葉を遮って、アリアがトントン拍子に話を進める。

 確かに週末――というか、基本的にはイリスの傍にいて、講師の仕事をするのが僕の役目だ。週末は普通に空いてはいる。

 アリアがそれで納得するというのなら、その方が僕も助かる。


「分かりました。僕もそれくらいなら付き合いますよ」

「せ、先生もいらっしゃるんですか……!?」

「……? 不都合ありますかね」

「い、いえ。そういうわけではないんですけれど……」

「じゃあ、楽しみにしてる。わたしは帰って寝るね」

「あ、アリア! ちょっと待ちなさいって!」


 いつになく動揺した様子を見せるイリス。走って逃げるアリアを追いかけて、イリスもその場から姿を消した。

 週末は、アリアのための遊びに付き合うことが決まったのだった。

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